Led Zeppelinの4枚目のスタジオ・アルバム、通称『IV』は、1971年にリリースされた。プロデュースはJimmy Page。
このアルバムには正式なタイトルがない。メンバー4人がそれぞれ選んだルーン文字のシンボルだけがジャケットに並ぶ。名前も出さない、説明もしない。
前作が批評家に不評だったことへの反発から、バンドはこの決断をした。「音楽だけで黙らせる」という宣戦布告だ。
結果として、このアルバムは世界で3500万枚以上売れた。
このアルバムが「ハードロックの名盤」と呼ばれることに、私は少し違和感を覚える。確かに「Black Dog」や「Rock and Roll」は爆音で突っ走る。でも同じアルバムにマンドリンのフォーク曲があり、ドラムのない静かなバラードがあり、ミシシッピのデルタブルースのカバーがある。
Jimmy Pageが目指していたのは「光と影」のダイナミクスだった。爆音と静寂、荒々しさと繊細さ、その振れ幅の大きさこそがLed Zeppelinの核心。
1曲目から8曲目まで聴き通すと、ジェットコースターというより、嵐と凪が交互に訪れる海を渡るような感覚がある。
楽曲解説
Black Dog
このリフを書いたのはギタリストのJimmy Pageではなく、ベーシストのJohn Paul Jonesだ。「ローリング・ベースラインを持った電化ブルースを書きたかった。でも単純すぎてはいけない。リフが自分自身に折り返すようにしたかった」とJonesは語っています。
そのリフを書いたのは、Jimmy Pageの家からの帰りの電車の中。父親から習った記譜法で、電車の切符の裏に書きつけた。
タイトルの由来は、録音中に屋敷の周りをうろついていた黒いラブラドール・レトリーバー。世界で最も有名なリフの一つに、野良犬の名前がついているというのが好きだ。
このリフの仕組みが面白い。
4/4拍子の上で、奇数長のフレーズが繰り返されるヘミオラ——Jonesのリフは1回目に拍の頭に落ちる。しかし2回目には拍の裏に、3回目には2拍目に、4回目には2拍目の裏にズレていく。
Bonhamのドラムは4/4拍子のままで動かない。二つのリズムが別々の論理で進みながら最終的に同じ場所に着地する——だから体は動くのに、どこで手を叩けばいいかわからない。さらに「5/4の小節が一つ混入する」という仕掛けもあり、それがあの「引っかかり感」の直接的な原因になっています。
コール&レスポンスの構造も独特だ。Robert Plantが歌うとき、楽器は完全に黙る。Plantが歌い終わると、リフが轟く。声と楽器が交互に空間を独占することで、この曲に独特の緊張感が生まれています。
Rock and Roll
「Four Sticks」の録音に行き詰まっていたとき、John BonhamがLittle Richardの名曲のイントロをジャムで叩き始めたことがきっかけで生まれた。
計画されていなかった曲が、このアルバムで最も「衝動的」な3分半になった。Plantは「It’s been a long time since I rock and rolled」という歌詞をその場で叩き出した。
ライブでオープニングかアンコールに使われ続けたのは、この「始まりの爆発力」がそのまま封じ込められているからだと思う。
The Battle of Evermore
「Black Dog」と「Rock and Roll」の爆風の後に、いきなりマンドリンが鳴り始める。
Jimmy PageがJohn Paul Jonesのマンドリンを手に取り、一度も弾いたことがない楽器でその場でコードを拾い、一気に書き上げた。ゲストボーカルのSandy Dennyは、Led Zeppelinの作品に参加した唯一の外部ボーカリストとなりました。
Aドリアン・モードで書かれたこの曲——「暗いが前向き」という複雑な感情色を持つこのモードは、ケルト音楽・フォークの伝統的な音階でもある。Sandy Dennyの声がPlantの声と絡み合う瞬間の、あの不思議な静けさ。
マンドリンを一度も弾いたことがない男が書いた曲だとはとても思えない。
Stairway to Heaven
Robert Plantが歌詞を書いたのは、暖炉が燃えているリビングの肘掛け椅子の上だった。
暖房が壊れた屋敷で唯一温かい場所。あの神秘的な歌詞は、イギリスの田舎の冬の寒さの中で生まれた。
イントロの骨格はクロマチックに下降するベースライン——バス音がA→G♯→G→F♯→Fと半音ずつ降りていく。
バス音が半音ずつ下がるたびに、上声部の和音色が少しずつ変わる。これは17世紀のバロック音楽から受け継がれた「下降低音」の技法で、時間が少しずつ確実に流れていく感覚を音で表しています。
曲はAマイナーの浮遊感から始まり、中間部を経て、クライマックスでCメジャーへと転調する。アコースティックの静寂から8分かけてドラム、ベース、エレクトリックギターが順に加わっていく構造は、楽器の積み上げそのものがドラマになっている。
Misty Mountain Hop
アルバムの中でも特に「地に足がついた」一曲。
John Paul Jonesのキーボードが軽快に跳ねて、John Bonhamのグルーヴが体を揺らす。前後の大曲に挟まれているせいで見過ごされがちだが、このアルバムの「遊び心」を一番よく示しているのはこの曲だと思う。
Jonesのキーボードが長調の明るさの中に微妙な翳りを混ぜる瞬間がある——それがこの曲を「ただ楽しいだけ」ではない複雑な質感にしています。
Four Sticks
「Four Sticks」の録音は難航した。
5/8と6/8が交互に現れる変拍子に、バンド全員が何度も行き詰まった。転機になったのは、あるドラマーのライブを観たBonhamの発奮だ。翌日スタジオに現れたBonhamは、4本のスティックを両手に持ち、2テイクでトラックを完成させた。
Jonesは後にこう語っています。「明らかに5/4だったが、どこが1拍目かわからなかった。Bonhamも説明できなかった。でもどういうわけか全員でやりきった——そしてお互いに狐につままれた」と。
4本のスティックが生む複数のリズムレイヤーが、この曲の他とは明らかに違う揺らぎを作り出している。このバンドのリズム的野心が最も剥き出しになっている曲だ。
Going to California
ドラムが一切ない。Jimmy Pageの指弾きとJohn Paul Jonesのマンドリンだけで3分半が過ぎていく。
このアルバムの中で唯一「静かな場所」を作っている曲。前後の爆音があるからこそ、ここでの静けさが異常なほど深く聴こえる。
独特のチューニングが使われており、開放弦の共鳴が豊かに鳴る。主要スケールは明るさの中に微妙な翳りが同居するモードで、喜びとも悲しみとも取れない感情の曖昧さを、スケールそのものが内包しています。
When the Levee Breaks
John Bonhamがドラムの音に不満を漏らしていたとき、エンジニアのAndy Johnsのひらめきで、元貧民救済院だった屋敷の3層吹き抜けの玄関ホール最上段の階段にマイクを設置して録音した。
あの重低音が部屋全体を包み込む感覚は、別格だ。
スライドギターが骨格で、ミシシッピ・デルタブルースの直系にある。しかしBonhamのドラムが作り出す「空間の響き」によって、デルタブルースの土臭さがコズミックな広がりを持つ。
このドラムトラックはロック史上最も多くサンプリングされた録音の一つとなった。Beastie Boys、Dr. Dre、Björk、Massive Attackがこの音を引用している——ヘヴィ・ロックのアルバムの最後の曲が、ヒップホップとエレクトロニカの歴史にまで影響を与えた。
まとめ
8曲で8つの異なる世界がある。
ヘミオラのリフ、バロック的な下降低音、モードをまたぐ転調、変拍子、そして廊下に設置したマイクで録ったドラム——これだけの技法が一枚のアルバムに収まっています。しかも難解ではない。
「Stairway to Heaven」は世界中の誰もが知っているし、「Rock and Roll」は3分半で終わる。理論を知らなくても体が動く、知れば知るほど深くなる——そういうアルバムは滅多にない。
理論で解剖すればするほど、謎が深まる。それが50年以上、このアルバムが色褪せない理由です。

