Chapterhouse の『Whirlpool』は、1991年にリリースされたデビューアルバムだ。メンバーは Andrew Sherriff(ボーカル・ギター)、Stephen Patman(ボーカル・ギター)、Simon Rowe(ギター)、Russell Barrett(ベース)、Ashley Bates(ドラム)の5人。UK アルバムチャートで23位を記録し、AllMusic から4/5の評価を得た。
Ride や My Bloody Valentine の影に隠れがちだが、ポップネスとノイズをここまで両立させたシューゲイザーのアルバムはそう多くない。しかも My Bloody Valentine の『Loveless』より7ヶ月早くリリースされている——シューゲイザーというジャンルが固まる前夜の作品だ。
音楽性
このアルバムで面白いのは、シューゲイザーの轟音とマンチェスター・ムーブメントのグルーヴが同居していることだ。ドラムは少し前のめりで、体が動く。「Falling Down」のリズムは当時のバギー・サウンドと地続きで、シューゲイザーとマッドチェスターのどちらとも言いきれない場所に立っている。
和声的には、轟音の奥にメジャー・セブンスやアドナインスといった「宙ぶらりん」な響きが混じっている。これほどの歪みの中にそういうコードが入ると、重いだけでなく切なさと開放感が同時に出る。解決感を避けた進行がアルバム全体に流れていて、「暗いのに踊れる」感触に近い。
3本のギターが作るレイヤーは、ノイズの積み重ねではない。Sherriff と Patman と Rowe がそれぞれ違う役割を持ち、轟音の中に旋律と質感と倍音が重なっている。歪みの奥にアルペジオの残像が聴こえる——あれがこのアルバムを「ただ音が大きいだけ」にしていない。
プロデュースは曲によって異なる。「Breather」と「Pearl」を Ralph Jezzard が手がけ、中核の曲はバンド自身が担当した。「Something More」のみ Cocteau Twins の Robin Guthrie がプロデュースしていて、その曲だけ夢幻的な空気が漂う。
楽曲解説
Pearl
アルバムの代表曲で、唯一のシングル。Slowdive の Rachel Goswell がバッキングボーカルで参加している。イントロのギターのアルペジオが静かに始まり、サビで音が雪崩れ込む。その落差が一番の聴きどころだ。
コード進行はマイナー系だが、サビで不協和音ギリギリのテンション・ノートがぶつかる瞬間がある。轟音の中に焦燥感が生まれる理由がそこにある。聴いてほしい瞬間はサビの頂点——Goswell の声が Sherriff の声に重なる場所だ。ふたつの声が音の壁の中で一瞬だけ浮き上がる。
Autosleeper
静と動の対比が最も鮮明な曲。囁くような静かなパートから、突然、鼓膜を突き破るような爆音の壁へ。この落差の中で、コードが「解決」しきらず浮遊したまま進む。
聴いてほしい瞬間は爆音が引いた後の静寂だ。残響が部屋を満たす中、次の爆発を待つ数秒の緊張感——あそこがこの曲の核だと思っている。
Treasure
アルバム中盤の長尺曲。重いベースラインが底へ向かいながら、その上でギターのレイヤーが空間を広げていく。開放弦のドローン効果が続くことで、曲というより空間そのものになっていく。
聴いてほしい瞬間は2分過ぎあたり——ギターの倍音が重なって、何の音なのかわからなくなる場所だ。その「音の溶解」がこの曲で一番深い場所だと思う。
まとめ
シューゲイザーの形式を借りながら、メロディの切れ味とリズムの前のめりな勢いを手放さなかった。それがこのアルバムの強さだ。『Loveless』以降のシューゲイザーとは少し肌触りが違う。踊れる轟音、という感触がある。
マイブラやRide やの陰に隠れてきたが、今聴いても古びていない充実したアルバムだ。
