MJ Lenderman の『Manning Fireworks』は、2024年9月にリリースされた4枚目のソロアルバムだ。The New Yorker が年間1位に選出し、Rolling Stone、Pitchfork など主要メディアが軒並みトップ10に挙げた。
Lenderman(通称 Jake)はノース・カロライナ州アッシュビル出身の25歳。Wednesday のメンバーとして活動する一方、この4枚目で初めて広く名前が知られるようになった。
制作背景
このアルバムは、Lenderman が自分の置かれた状況と向き合いながら書いた。前作『Boat Songs』(2022年)の成功で突然注目が集まり、「誰かが自分の次の一手を期待している」という感覚が初めて芽生えた。「注目されているということが頭に入り込んできた」と彼は振り返っている。
制作中、6年間交際していた Wednesday のフロントマン Karly Hartzman とツアー中に別れた。アルバムが完成したあと、そのことが明かされた。「You Don’t Know the Shape I’m In」の歌詞が「誰かを責めない別れ」を描いているのは、そういう背景がある。
曲のアイデアは「一つのラインから始まる——自分が笑えるような何か」と彼は語っている。Lenderman はほぼすべての楽器を自分で演奏し、Wednesday の仲間である Hartzman、Xandy Chelmis、Ethan Baechtold がゲスト参加した。
音楽性
オルタナ・カントリー、スラッカー・ロック、インディ・フォーク——ジャンルとしてはそのあたりに収まるが、聴いていてカテゴリをそれほど意識しない。Neil Young、David Berman(Silver Jews)、Jason Molina といった「アメリカの歌の伝統」の系譜に自然と置かれる。
Patterson Hood(Drive-By Truckers)が「彼は物語を語らずに語る。脳が自然と空白を埋め始める」と語っているように、歌詞には独特の省略の技術がある。一行で人物を切り取って、あとは聴き手に委ねる。
前作『Boat Songs』と比べると、プロダクションが明らかにクリーンになった。ガレージ的な霞が晴れ、ギターの細部がよく聴こえる。ほぼ全曲が3分前後にまとまっていて、無駄がない。
例外はクローザーの「Bark at the Moon」だ。これだけ10分を超え、後半7分間はギター・ドローンが延々と続き、Sonic Youth を参照したような爆音で終わる。そのギャップが、アルバムの締め方として妙に正しい。
ギター・ソロの扱い方が面白い。「曲の3分の2あたりで、サビが終わった後に来る」という王道の構造を踏みながら、いざ来ると「なぜこんなに感情的なんだ」と思わせる。「一種の爆発なんだ」と彼自身が語っている。「Wristwatch」「She’s Leaving You」「Rudolph」あたりで最もよく出ている感覚だ。
ボーカルは意図的に「疲れた」声だ。25歳なのに何十年も生きてきたような、でも叫ばない。その抑えた歌い方が、どこかユーモアに見せながら実は深くダメージを受けているというトーンと合っている。
歌詞の登場人物たちは一様にどこかアウト気味だ。タイトル曲「Manning Fireworks」の男は、かつて「完璧な赤ちゃん」だったのに今では自分の体裁しか考えられなくなっている。笑えるのに笑えない。そういう「一行で人を描く」筆力が、このアルバムの武器だ。
笑いと悲しみが分離していない。どちらかに振り切るのではなく、ずっと両方が同時にある。それが38分間を通して持続している。
まとめ
25歳がこのアルバムを作ったという事実が、聴いていると何度か頭をよぎる。声の質感、歌詞の目線、ギターの選択——全部が「若い」のに、どこか長い時間をかけてきた人間の言葉に聴こえる。
「Please don’t laugh. Only half of what I said was a joke.(笑わないでくれ。俺が言ったことの半分だけが冗談だ)」——「Joker Lips」のこの一節がアルバムを要約している気がする。
