リトル・フィート(Little Feat)おすすめ名盤『Dixie Chicken』レビュー|ジミー・ペイジが絶賛したアンサンブル——達人集団が生み出す濃密グルーヴの全貌

リトル・フィート(Little Feat)おすすめ名盤『Dixie Chicken』レビュー|ジミー・ペイジが絶賛したアンサンブル——達人集団が生み出す濃密グルーヴの全貌 Classic Rock

Little Feat の『Dixie Chicken』は、1973年にリリースされた3枚目のスタジオアルバムだ。Lowell George(ギター・ボーカル)、Paul Barrere(ギター)、Bill Payne(キーボード)、Kenny Gradney(ベース)、Sam Clayton(パーカッション)、Richie Hayward(ドラム)の6人編成で制作された。全10曲。

このアルバムは、Little Feat が別のバンドに生まれ変わった記録だ。前作『Sailin’ Shoes』から Gradney、Barrere、Clayton の3人が加わり、6人編成のクラシック・ラインナップが完成した。その瞬間から、バンドのグルーヴがニューオーリンズの R&B とファンクへ、はっきりと傾いた。

Jimmy Page は1975年の Rolling Stone のインタビューで Little Feat を「お気に入りのアメリカのバンド」と呼んだ。Bonnie Raitt はその影響を公言し、Jackson Browne は George を「ロックンロールのオーソン・ウェルズ」と呼んだ。それでも大衆的な成功は長い間やってこなかった。「他のバンドたちが愛したバンド」という言葉がこれほど似合う存在も珍しい。

制作背景

新加入の3人は偶然の組み合わせではなかった。Gradney はルイジアナ出身で、Clayton とともに Delaney & Bonnie のバンドに籍を置いていた。タイトル曲でリード・ボーカルを担った Bonnie Bramlett もそのデュオの片割れだ。George がニューオーリンズ的な音の磁場に引き寄せられた人間を意図的に集めることで、このアルバムは生まれた。

タイトル曲の歌詞は Martin Kibbee が書いた。ロサンゼルスの道路沿いに「Dixie Chicken」という看板を見かけたとき、車で家に帰り着く前にほぼ一気に書き上げたという。曲の骨格は George が先に持っていた。「Kibbee は言葉の人間で、私はメロディーの人間だった」と George は語っている。そのふたつがぴたりと噛み合った結果、バンドの代表曲が生まれた。

アルバム発売時の売り上げは振るわなかった。ツアーを重ねるにつれ口コミで評判が広がり、次作『Feats Don’t Fail Me Now』(1974年)がヒットするころには、このアルバムの存在感も遡及的に高まっていた。1989年にゴールド認定を受けたのは、リリースから16年後のことだ。

音楽性

このアルバムの和声はブルースと R&B の語法を根幹に持ちながら、ニューオーリンズ独自の色彩に染め直されている。基本は I – IV – V のブルース進行と、R&B 的な7thコードの豊かな響きだ。複雑な転調や実験的な和声よりも、「グルーヴを深く掘る」方向にエネルギーが使われている。

Muddy Waters や Howlin’ Wolf 的なブルースの骨格が、The Meters 的なニューオーリンズのシンコペーションと融合した——それがこのアルバムの和声言語の正体だ。同じ進行が繰り返されるほどグルーヴが熟成されていく、という構造上の判断が全曲を貫いている。

このアルバムのグルーヴを語るには、6人全員のことを語る必要がある。誰か一人を抜くと成立しない音だからだ。

Richie Hayward のドラムは、4拍目にアクセントを置くニューオーリンズ的なリズムの解釈を持ちながら、決して主張しすぎない。Sam Clayton のコンガとジャンベがそこに重なる。Hayward の4拍を感じながら、Clayton は別の拍の周期で動く。ふたつのパーカッションが微妙にずれながら絡み合うことで、ビートが前に転がっていく感覚が生まれる。

Kenny Gradney のベースはニューオーリンズのシンコペーションを体に染み込ませたプレイヤーだ。強拍の少し手前に音を置く、あるいは少し後ろに引っ張る——その微妙な「ためと前のめり」が、ドラムとパーカッションの上に浮くように乗る。主張しすぎない音量でありながら、グルーヴの重心をしっかり握っている。

Bill Payne のエレクトリック・ピアノはリズム楽器として機能している場面が多い。「Dixie Chicken」のイントロで聴こえる小気味いい装飾的なフレーズは、主旋律でも伴奏でもなく、グルーヴそのものを鳴らしている。

Paul Barrere のリズム・ギターは George のスライドに応答しながら、空間を埋めるのではなく開ける方向で動く。ふたりのギタリストが互いを補完し、片方がリードを弾いているとき、もう片方は意識的に引いている——それがアンサンブルの通気性を生む。

そして Lowell George のスライド・ギターだ。George はほぼ一貫してオープン A チューニングを使い、スライドには工具のスパーク・プラグ・ソケットを用いた。ギターをコンプレッサー2台に通すことで、ほぼ無限に持続するサスティーンと滑らかなトーンを生み出した。「弦の張力が高くなり、よりクリアでブライトな音になる」と George 自身が語っており、その選択がこのアルバムのスライド・サウンドを決定づけた。

他のブルース・ロック奏者が音符を上向きにグリッサンドするのに対し、George のスライドは下向きに切り込んだり、短い一刺しを放ったりと、動きの方向が独特だ。声域に近いボーカル的な表現力を持っていた。

このリズム・セクション全体の設計には The Meters の影響が色濃い。ニューオーリンズのファンク・シーンを牽引していた The Meters のシンコペーションとグルーヴの深い溝は、Gradney と Clayton が体に染み込ませてきたものと直接つながる。Allen Toussaint のカバー「On Your Way Down」の収録も、その系譜への意識的な参照だ。

Frank Zappa のもとで George が Payne と出会い、Mothers of Invention で培ったアンサンブルへの意識——全員が独立した声部を持ちながら有機的に絡み合う——もまた、本作の設計に受け継がれている。

前作『Sailin’ Shoes』(1972年)との比較で言えば、本作はカントリー・ロックとサイケデリックな実験から完全に脱却し、グルーヴの純度を高めた。本作でその奇妙さは歌詞の中にだけ残り、演奏は一本筋が通った。

楽曲解説

Dixie Chicken

バンドの代名詞となった曲で、アルバムのサウンドを一曲で凝縮している。イントロから Payne のピアノと Gradney のベースが作るグルーヴにそのまま引き込まれる。

George の喉に張りついたような声と Bonnie Bramlett のコーラスが絡み合い、曲に二重の人格を与えている。歌詞はメンフィスで出会った「サザン・ベル」との恋を語るが、男は最終的に彼女にしてやられる。ユーモアと哀愁が同居するその語り口は、1940年代のスクリューボール・コメディに例えられることがある。

曲が終わると少しだけ寂しい気分になる。それで正解だと思う。

Two Trains

性的な競争を「2本の列車」という古いブルースの比喩で描く。ここでのリズム・セクションは本作でも最もスリリングな場面のひとつだ。

Barrere のリズムギターと Payne のエレクトリック・ピアノが泡立つようなクロス・リズムを作り、Hayward と Clayton、Gradney のトリプル・スレッドが絡む。その上で George のスライドが「浮かぶ」——ベースラインに乗るのではなく、グルーヴの上を滑走する。この感覚が Little Feat のアンサンブルの核心だ。

On Your Way Down

アルバム唯一の他者作品で、Allen Toussaint 作の楽曲だ。穏やかに始まりながら、徐々に緊張感を帯びていく構造になっている。George のスライドが終盤にかけて静かに存在感を増す。

「冷静に弾かれているのに、凄みがある」——この曲の George はその典型だ。Little Feat がニューオーリンズへの敬意をどれだけ深く持っているかが、この選曲と演奏に滲んでいる。

Fat Man in the Bathtub

キューバのパーカッションと変化するリズムが入り組み、ユーモラスな歌詞の裏で演奏がどんどん深みを増す。後半の George のスライドはこのアルバムで最も即興演奏的な広がりを持つ。4分という尺の中に相当な密度が詰まっている。

ライブ盤『Waiting for Columbus』(1978年)の冒頭を飾る曲として、ライブでのバンドの威力を示した曲でもある。

Lafayette Railroad

George と Payne の共作によるインストゥルメンタルで、アルバムの掉尾を飾る。George のスライドがメロディーをすべてひとりで語り切る。伴奏があるにもかかわらず、どこか独り言のような親密さがある。

「Lafayette」という地名がついていることで、このアルバム全体を貫く南部の気配が最後にもう一度浮かび上がる。夕暮れの中をゆっくり走る列車のような終わり方だ。

まとめ

グルーヴというものは、説明しにくい。でもこのアルバムを「Dixie Chicken」から「Lafayette Railroad」まで通して聴けば、説明など要らなくなる。6人が同じ場所に向かって、それぞれ違う角度から音を当てている——その感覚が、体に残る。

Jimmy Page が絶賛し、Bonnie Raitt が影響を公言し、Jackson Browne が「ロックンロールのオーソン・ウェルズ」と呼んだ。ミュージシャンたちがこれほど口を揃えて愛した理由は、このアルバムを聴けばすぐわかる。演奏の達人6人が、ひとつのグルーヴのために自分の個性を差し出している——そういう音楽は、めったにない。

1970年代のアメリカン・ロックが生んだ傑作は数多いが、ここまで「演奏そのものが歌っている」アルバムは、そう多くない。『Dixie Chicken』は、グルーヴとは何かを体で教えてくれる一枚だ。

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