ゴリラズ(Gorillaz)おすすめ新譜『The Mountain』レビュー|インド古典音楽×アフロビート×ダブ——「死を怖くなくさせる」UK1位の野心作

ゴリラズ(Gorillaz)おすすめ新譜『The Mountain』レビュー|インド古典音楽×アフロビート×ダブ——「死を怖くなくさせる」UK1位の野心作 Synthpop / Indietronica

Gorillaz の『The Mountain』は、2026年にリリースされた9枚目のアルバムだ。プロデュースを Damon Albarn、Remi Kabaka Jr.、James Ford、Samuel Egglenton が担当し、全15曲。

Albarn と共同創設者 Jamie Hewlett は、アルバムの制作中に両者の父親を相次いで失った。その喪失を抱えながらふたりはインドへ渡り、ヒンドゥー・仏教・シク教の死生観に触れた。Albarn は亡父の遺灰をガンジス川に散骨している。

「もし死について怖くなくさせるアルバムを作れたら、それは素晴らしいギフトになる」と Hewlett は語っており、その問いがアルバム全体を貫いている。

UK チャート1位、Billboard 200 で7位。前作『Cracker Island』(2023年)を超えるセールスだ。

音楽性

前作『Cracker Island』が Greg Kurstin とのシンセ・ポップ路線だったとすれば、本作は正反対の方向だ。インド古典音楽——シタール、バンスリ(インドの竹製横笛)、サロード——が全編を貫き、アラビック・ポップ、ダブ、ヒップホップ、エレクトロニカが衝突する。

Anoushka Shankar はシタールの音が「ラーガをベースにしているわけではなく、あくまでも Gorillaz の音楽に Indian な奏法とインプロヴィゼーションの色彩を加えたもの」と説明している。「エキゾチックな味付け」ではなく、楽曲の骨格として機能しているところが重要だ。

むしろ参照点は『Plastic Beach』(2010年)に近い。Albarn 自身「Plastic Beach の精神的な続編」という趣旨で語っており、異質な音楽が衝突しながらひとつの世界を作る方法論が引き継がれている。ただ本作の方がより内省的で、悲しみの温度が高い。

グルーヴの面では、タブラとドラムマシンが共存するリズムが全体を動かす。Tony Allen が「The Hardest Thing」でヨルバ語で語りかける——アフロビートの父の声が死後も鳴り続けるこの場面が、アルバムのリズム的な核心のひとつだ。縦に落ちるビートではなく、横に広がりながら揺れるグルーヴが、インド音楽の影響をそのまま体に受け入れている。

Albarn のボーカルは、このアルバムで最も「生身」に近い。エフェクト処理を抑え、ウィスパーと朗唱の中間を歩く声が前面に出ている。技術的な完璧さより、人間の温度を優先した——「死を怖くなくさせる」という目標が、声の処理にも反映されている。

コラボレーターたちの声が Albarn の声と対等な比重で並ぶ設計は、「誰かと一緒に、その友人が今はどこか別の場所にいながらも会話している」という感触をアルバムに与えている。

楽曲解説

The Mountain

オープニングのインストゥルメンタル。Ajay Prasanna のバンスリ、Anoushka Shankar のシタール、Amaan・Ayaan Ali Bangash 兄弟のサロードが絡み合い、4分以上かけてアルバムの「入口」を作る。末尾に Dennis Hopper(2010年没)の声が短く重なる——死者の声による出迎えだ。

歌詞なし、説明なし。「ここは普通のポップ・アルバムではない」という宣言をこの一曲が担っている。バンスリの音が空間を満たすにつれ、現代のロンドンでも Tokyo でもない、時間の外の場所に引き込まれる感覚がある。

The Moon Cave

Bobby Womack(2014年没)の声、Dave Jolicoeur(2023年没)のラップ、Black Thought のラップ、Jalen Ngonda のボーカルが一曲に共存する。「彼ら(Womack と Jolicoeur)は長い間、本当に良い友人同士だった」と Hewlett は語り、Black Thought が「友人と会話している」感触を届けている。

ファンキーなベースラインの上で生者と死者の声が対等に並ぶ。「I need a better bond with you」という Albarn の歌詞が、失った父に向けられているのか死そのものに向けられているのか——その曖昧さが曲の中心にある。Black Thought のヴァースが入る終盤、曲全体が一瞬だけ浮力を持って上昇する。

Orange County

Bizarrap プロデュース、Kara Jackson と Anoushka Shankar が参加し、Tony Allen(2020年没)のドラムが底を支える。アルバムの感情的な頂点で、NME は「On Melancholy Hill の魂の双子」と評した。

甘く明るいメロディが切なさを引き立てる——Gorillaz が最も得意とする「悲しみの浮力」がここで結実している。Allen のドラムが鳴るたびに、もうこの人はいないという事実が音楽の中で続いている。それでも曲は前に進む。それがこのアルバムの答えのように聴こえる。

まとめ

15曲にわたって死者たちの声を集め、インド古典音楽を骨格に組み込み、5言語で死について歌った。その試みがどこまで成功しているかは、まだ聴き込む時間が足りない。

ただ少なくとも、Hewlett の言う「両親を失いながら、地球上で最も完璧な場所にたどり着いた」という体験が、確かに音楽に染み込んでいる。Gorillaz がここまで個人的なアルバムを作ったことはなかった。それだけは言える。

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