DJシャドウ(DJ Shadow)おすすめ名盤『Endtroducing…..』レビュー|「破れた夢の山」から掘り起こされた音——J DillaやFlying Lotusが続いた系譜のオリジン

DJシャドウ(DJ Shadow)おすすめ名盤『Endtroducing…..』レビュー|「破れた夢の山」から掘り起こされた音——J DillaやFlying Lotusが続いた系譜のオリジン Hip Hop
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このアルバムのジャケットに写っているのは、サクラメントのレコードショップ「Records」の店内だ。

DJ Shadowことジョシュ・デイヴィスは、『Endtroducing…..』に使った数百のサンプルのほとんどを、このレコードショップで掘り当てた。

通い続けるうちに店主から特別な許可をもらい、地下室への立ち入りを許された。

そこには天井まで積み上がったレコードの山があり、整理もされず、誰にも見向きもされない盤が何千枚も眠っていた。

Shadowはその地下室を「破れた夢の山」と呼んだ。音楽に人生を捧げたのに、誰にも聴かれないまま地下に沈んでいった人たちの記録。

彼はその「破れた夢」を掘り起こし、新しい命を与えた。

制作背景

制作はサクラメントのスタジオで、夜通し行われた。彼は早朝に作業を終えると、車を走らせて自宅へ帰る生活を繰り返していた。

「Endtroducing…..」というタイトルには、サンプリングという手法が手垢にまみれ、死にかけていた当時のヒップホップへの、彼なりの「終わり(End)」と「導入(Introducing)」の意味が込められている。

これは単なるDJミックスではない。深夜の街を一人で歩いているときの、痛いほどの孤独と、その中にある静かな熱狂の記録だ。

音楽性

このアルバムをひとことで言い表すのは難しい。ヒップホップと呼ぶには静かすぎるし、アンビエントと呼ぶには躍動感がある。

実際、Shadow自身がこう語っています。「Organ DonorはThe Number Songとは全く違う音で、The Number SongはMidnightとは全く違う。そういうアルバムだ」と。

使われたサンプルのジャンルを並べると、そのカオスぶりがわかる。ジャズ、ファンク、サイケデリア、デスメタル、映画のセリフ、忘れ去られたソウルの断片。

MetallicaがあればBjörkもある。Pink FloydがあればA Tribe Called Questもある。

それらをShadowは「マイクロチョップ」と呼ばれる独自の手法で、サンプルを極限まで細かく刻んで再構築した。バラバラにした音のかけらを、まったく別の文脈に置き直す。

その結果生まれたのは、どのジャンルの棚にも収まらない音だ。冷たいはずのサンプラーの音が、不思議なほど体温を持っている。

Shadowはこう表現しています。「サンプリングとは、ミスのコラージュだ。音程が外れたホルンの一瞬、チューニングがずれた弦の断片。その『ミス』を増幅させたとき、全く新しい音楽が生まれる」と。

このアルバムが証明したのは、「サンプリングは盗用ではなく、作曲である」ということだった。その後にJ Dilla、MF DOOM、The Avalanchesといった名前が続くことになる系譜の、最初の一本がここにある。

楽曲解説

Building Steam with a Grain of Salt

アルバムの幕開けを告げる、物憂げで美しいピアノのループ。そこに割り込んでくる、あまりに生々しいドラムブレイク。この曲が始まった瞬間、部屋の空気が一気に「夜」に変わる。

中盤から加わる不穏なベースラインと、幻のように響く女性のコーラス。それはまるで、古いノワール映画の中に迷い込んだような錯覚を聴き手に与える。

Midnight in a Perfect World

もし「完璧な深夜」に音があるとするなら、間違いなくこの曲だ。

フィンランドのミュージシャン、Pekka Pohjolaの楽曲から引用された印象的なピアノの旋律が、どこまでも深い場所へと沈み込んでいく。

温かいのに、どこか切ない。DJ Shadowというアーティストが、サンプリングという冷たい手法を使いながら、どれほど人間的な感情を音に宿せるかを証明した名曲だ。

Organ Donor

わずか1分半ほど。だが、その衝撃は凄まじい。

教会で鳴り響くような荘厳なオルガンの音を、キレのいいビートでズタズタに切り刻み、ファンキーな怪物へと変貌させる。

この曲のスクラッチの鋭さを聴くだけで、彼が単なる「レコード収集家」ではなく、一級の表現者であることを思い知らされる。

まとめ

リリースから30年近くが経った今でも、このアルバムの鮮度は1ミリも落ちていない。

今では誰もがパソコン一つでサンプリングができるようになったが、誰もShadowにはなれなかった。

それは、彼が単に音をコピーしたのではなく、レコードに刻まれた「魂」そのものを掘り起こし、自分の孤独と混ぜ合わせたからだ。

「サンプリングは盗作ではなく、救済だ」と言わんばかりの執念のような音の集積。彼がレコードの山の中で見つけた軌跡が詰まった名盤です。

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