ジーザス&メリー・チェイン(The Jesus & Mary Chain)おすすめ名盤『Psychocandy』レビュー|My Bloody ValentineもRideも、シューゲイザーはここから始まった

ジーザス&メリー・チェイン(The Jesus & Mary Chain)おすすめ名盤『Psychocandy』レビュー|My Bloody ValentineもRideも、シューゲイザーはここから始まった New Wave / Post-Punk

The Jesus & Mary Chainの『Psychocandy』は、1985年11月にリリースされたデビュー・アルバムだ。プロデュースはJohn Loder。

スコットランド出身のJim ReidとWilliam Reidの兄弟が作り上げたこの作品は、60年代のガールグループ的なポップ・メロディを、暴力的なフィードバック・ノイズで塗りつぶすという手法で、当時のUKインディ・シーンを根底から揺さぶりました。

1992年生まれの私が、RideやSlowdiveの洗練された音から遡ってこのアルバムに辿り着いたとき、そのあまりに潔い「粗削りな暴力性」に打ちのめされました。

シューゲイザーの話をする前に、まずこれを聴かなければいけなかった。

制作背景

Jim ReidとWilliam Reidはスコットランドのイースト・キルブライドという小さな町で育ちました。

父親が地元の工場で職を失った1983年、兄弟は家庭用録音機材を購入し、自宅で曲を書き始めた。影響源として彼らが挙げたのは、Velvet Underground、Einstürzende Neubauten、そしてPhil Spectorがプロデュースした60年代のガールグループでした。

1984年、シングル「Upside Down」がCreation RecordsのAlan McGeeの目に留まり、初回プレスが即完売。

翌1985年、バンドはデビュー・アルバムの録音に入ります。もともとはStephen Streetがプロデュースを担当するはずだったが、セッションは不発に終わった。代わりに起用されたJohn Loderは英国パンクの現場を熟知したエンジニアで、バンドの「不完全さを残す」という判断を全面的に支持しました。

録音は6週間で完成。

ドラムを担当したのはBobby Gillespie——後にPrimal Screamのフロントマンとなる人物だ。彼はフロアタムとスネアだけという最小限のセットで、60年代のドラム・パターンをそのまま流用するような叩き方をした。

ただ、その「完璧」とはほど遠い演奏が、このアルバムには必要不可欠でした。

音楽性

このアルバムの凄みは、安物のエフェクターを直列に繋ぎ、アンプを飛ばさんばかりに鳴らすことで生まれるフィードバック・ノイズを、ひとつの楽器として完全にコントロールした点にあります。

正直に言えば、高い歌唱力や洗練された演奏技術は微塵もない。ボーカルは気だるく不安定で、ギターは緻密な計算に基づいたフレーズを弾いているわけでもない。

でも、それがいいんです。むしろ、その「拙さ」こそがこのアルバムの命です。

ドリーミーな旋律を暴力的な倍音の塊でズタズタにする——この「ポップとノイズの無理心中」が、後続のバンドすべてが参照した設計図になりました。

シューゲイザーへの影響という文脈では「My Bloody ValentineとRideへの直接の影響源」とよく書かれます。それは事実ですが、少し補足が必要です。

Kevin Shieldsは後のインタビューで「『Psychocandy』は共有された影響源だ」と語り、自分たちの独自性を強調している。MBVの初期EPが出たのも同じ1985年で、Shieldsが独自のトレモロアームの奏法を確立するのはその3年後のことです。

『Psychocandy』が「原型」を示し、その後の数年間でMBVがそれを全く別の何かに変えていった——という関係性の方が、より正確に思います。

影響はUKにとどまりません。PixiesやDinosaur Jr.を通じてアメリカのオルタナ・シーンにも波及し、2020年代のシューゲイザー・リバイバルにおいても、『Psychocandy』は原点として繰り返し参照されています。

楽曲解説

Just Like Honey

永遠のオープナー。「Be My Baby」をそのまま叩き出すようなドラム・パターンから始まります。

コード進行は驚くほどシンプルですが、特筆すべきは背後で常に鳴り続けるE音(ミ)のドローンです。ルート音が動くたびに、この持続するフィードバックが特定の周波数で共鳴し、Jimの消え入りそうな囁きを包み込む。

恋の甘さと、それが腐っていくようなノイズの混ざり具合——シューゲイザーという概念が言語化される以前に、その感触がここで完成しています。

Sofia Coppolaの映画『Lost in Translation』のエンディングで使われたことで、後の世代にも広く知られることになった曲です。

Never Understand

イントロのギターが鳴った瞬間に、思考が停止します。最初から最後までノイズが爆発しっぱなし。

意図的に発生させたフィードバックのハウリング音を、楽曲のキーに無理やり共鳴させることで生まれる「不快なはずの美しさ」を体験できます。

演奏の巧拙なんてどうでもよくなる。救いようのない爆音です。

You Trip Me Up

ダークなダンスチューンとでも呼びたい一曲。重いベースラインが体を揺らし、Williamのボーカルが「お前が俺を転ばせる」と低く唸る。

ここでのギターは、もはや楽器というよりは電気の悲鳴に聴こえます。サビでコードが展開する瞬間に、歪みのテクスチャが微妙に変化する。

大きな仕掛けは何もないのに、その小さな変化がやけに耳に残ります。

まとめ

『Psychocandy』が今も特別なのは、Jim ReidとWilliam Reidが叩きつけた「甘さと破壊の融合」が、単なる流行を超えてロックの語彙として定着してしまったからだと思います。

派手な演出も、高度なテクニックもいらない。

ただ、最高に甘いメロディと、常識外れの音量のノイズ、そして初期衝動があれば世界は変えられる。

40年経った今も、その確信は更新されていません。

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