ホワイト・ストライプス(The White Stripes)おすすめ名盤『Elephant』レビュー|名曲「Seven Nation Army」収録のガレージロック・リバイバル傑作

ホワイト・ストライプス(The White Stripes)おすすめ名盤『Elephant』レビュー|名曲「Seven Nation Army」収録のガレージロック・リバイバル傑作 Garage Rock-Revival

The White Stripesの『Elephant』は、2003年4月1日にV2 Recordsからリリースされた4枚目のスタジオアルバムだ。

プロデューサーはJack WhiteとLiam Watson。録音場所はロンドン東部ハックニーにあるToe Rag Studios——1960年代以前の機材と8トラックのテープレコーダーのみを使い、約2週間で14曲を録音した。全14曲、総収録時間約49分。

Billboard 200で6位、全英アルバムチャートで1位を獲得。Rolling Stoneの「500 Greatest Albums of All Time」にも選出されている。

このアルバムのジャケット裏にはこう書かれている。「このレコードのライティング、レコーディング、ミキシング、マスタリングにコンピューターは一切使用していない」と。

制作背景

Toe Rag StudiosのオーナーLiam Watsonは録音哲学をこう語っている。「できるだけ何もするな。良く聴こえるならそれでいい、そのままにしろ。悪く聴こえるなら、なぜ悪いのかを探せ。録音機材の話じゃない」と。

ライブルームは狭く、卓も小さい。その制約の中でJack WhiteとMeg Whiteの二人だけが演奏した。

Jack Whiteの影響源として名前が挙がるのはSon House、Blind Willie McTell、Robert Johnsonといったミシシッピのデルタブルース奏者たちだ。Jack Whiteは「Son Houseの『Grinnin’ in Your Face』が俺の好きな曲だ」と語り、バンドのデビューアルバムをSon Houseに捧げている。

そこにロカビリーとブルースの融合、Led Zeppelinのスワッガー、デトロイトのガレージパンクシーンの衝動が混ざり合う。

2003年当時、同時代のThe StrokesやInterpolの目線がニューヨークやヨーロッパの音へと向いていた一方で、Jack Whiteの目線はアメリカの南部と過去へと向いていた。

音楽性——ベースレスという武器

The White Stripesにはベースがいない。初めて知ったとき「だから何?」と思う人も多いかもしれない。でもElephantを聴くと、その「欠落」が意図的な武器だったことがわかる。

通常のバンドではベースが低音域を埋め、音の「土台」を作る。その土台の上にギターとボーカルが乗る。ところがThe White Stripesにはその土台がない。

Jack Whiteはギター一本で、メロディとリフとベースラインの役割を同時にこなさなければならない。その結果、音の隙間が異常に多くなる。普通のロックバンドなら音で埋まっているはずの周波数帯が、The White Stripesでは空白のままだ。

その空白が、一音一音の重さを際立たせる。「Seven Nation Army」の冒頭のリフがあれほど太く聴こえるのはそのせいだ。周りに何もないから、あのリフが全部の空気を支配できる。

Jack Whiteはオクターバーペダルを多用することで、ギターの音を擬似的に低音域まで拡張している。「Seven Nation Army」のリフがギターではなくベースのようにズシリと聴こえるのも、オクターバーを通しているからだ。ただしそれは「ベースの代替」ではなく、「ギターとベースの間にある何か新しい音」だ。

Meg Whiteのドラムが、この構造の中で決定的な役割を担っている。Jack Whiteはこう語っている。「プロのドラマーが叩いたら、このバンドは台無しになる」と。

技術的なドラマーがこの編成に入ったら、隙間を埋めようとして逆に音が窮屈になる。Megのドラムは隙間を埋めない。むしろ隙間を守るように叩く。技巧ではなく感情で叩く——その「荒削りな拍」の上に、Jack Whiteのギターが暴れ回る。

楽曲解説

Seven Nation Army

Deep Purpleの「Smoke on the Water」に匹敵するほど世界中に知れ渡ったギターリフ。あの「タン・・タ・タンタンタ・タン・・タン」というリフはオクターバーペダルを通したギターで、2002年のオーストラリアツアーのサウンドチェック中に生まれた。

世界中のサッカースタジアムで歌われるようになるとは、Jack White自身も予想していなかったはずだ。YouTubeでの再生回数は8億回を超えている。

Black Math

「Seven Nation Army」の直後に、何の躊躇もなく突っ込んでくる1曲。Jack WhiteのギターとMeg Whiteのドラムが最もタイトに噛み合っていて、まるで「二人でもここまでできる」という宣言のような曲だ。

ベースレスの隙間が逆に推進力になっている。

Ball and Biscuit

Jack Whiteが「第7の息子」という民間伝承のテーマを下敷きにした7分超のブルース。曲名はスタジオにあったSTC 4021マイクのニックネームから来ている。

Jack Whiteのギタリストとしての側面が最もよく出ていて、7分があっという間に感じる。Son HouseやRobert Johnsonへの傾倒がそのまま音になっている。

The Hardest Button to Button

家族の中の疎外感を描いた曲で、Jack Whiteの歌詞の中でも特に物語的な構造を持つ。

Michel Gondryが手がけたMVも有名で、ドラムキットが街中に無限増殖していく映像は一度見たら忘れられない。

It’s True That We Love One Another

Jack WhiteとMeg White、そしてイギリスのミュージシャンHolly Golightlyの3人が声を揃えて歌うアルバムの締めくくり。

赤と白だけで統一されたバンドのイメージに、最後にこんな朗らかな曲が来る。その意外性がいい。

まとめ

2003年当時、ロックは迷子になっていた。ニューメタルの音が主流で、Pro Toolsで磨き上げた音が「プロのスタンダード」だった。そこにThe White StripesとToe Rag Studiosは「できるだけ何もするな」という哲学でぶつかっていった。

Jack Whiteは「ルールを減らすほど、創造性が生まれる」と繰り返し語っている。ベースなし、コンピューターなし、二人だけ。その制約の中から、時代を超えた音が生まれた。

ベースレスであることは妥協の産物じゃなかった。二人でできることの限界を突き詰めたとき、その限界の輪郭そのものが音楽になった。Elephantはその証明だ。

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