Blood OrangeことDevonté Hynesは、イングランドのエセックスで育った。サッカーもやったが、チェロも弾いた。ヒップホップが好きだったが、バッハも好きだった。どこにも完全には属せなかった。いじめられた。
2025年にリリースされた5枚目のアルバム『Essex Honey』は、前作『Negro Swan』(2018年)から7年ぶりに、故郷の名前を冠したアルバムだ。その帰還のきっかけは、母親の死だった。
2023年、Hynesはシドニーでシンフォニーオーケストラと共演する予定だった。しかし母親が病に倒れ、Hynesはエセックスに戻り、母親のそばにいることを選んだ。映画音楽、ブロードウェイの舞台音楽、他アーティストへの楽曲提供といった仕事は続けながら、Blood Orangeのアルバムは作れなかった。
「Blood Orangeというプロジェクトには、自分の生活を深く掘り下げることが必要で、その準備ができていなかった」とHynesはBillboardのインタビューで語っている。母親の死後、悲嘆と故郷への回帰的な感情の中で、Blood Orangeとして音楽を作る「べきだ」という感覚が戻ってきた。「自分はとても幸運だ。その幸運を称えるべきだと思った」。
アルバムのタイトルは7年前から持っていた言葉だった。「当時は単に音の響きが好きだった。まさかエセックスについての作品になるとは思っていなかった。でも自分の人生が自然にその方向へ向かった」。
音楽性
このアルバムはこれまでのBlood Orangeとは違う。『Freetown Sound』(2016年)や『Negro Swan』の都市的な緊張感や政治性ではなく、エセックスの草と土の気配がある。ビートは控えめになり、チェロとピアノと声が前に出てきた。
「The Last of England」は、その変化が最も鮮明な曲だ。冒頭に、家族最後のクリスマスに録音された母親と姉の声が混ぜてある——聞き取れるかどうかギリギリの音量で。「何もすることがなく、部屋の角をたどるだけ / 手を洗って排水口を見つめる」という歌詞の具体性が、抽象的な「悲嘆」を一枚の場面に変えている。この曲のチェロのメロディは、流れ出した瞬間に胸が痛くなる。
「Vivid Light」はピアノのループと、Zadie Smithのアドリブが溶け合う曲だ。作家としての友人が偶然スタジオに来て、Hynesがマイクを手渡した——その即興性がそのまま録音に残っている。音量が上がるところで、静かな喜びに変わる瞬間がある。
「Mind Loaded」はCaroline Polachekのボーカルと繊細なチェロで始まり、中盤でElliott Smithの「Everything Means Nothing to Me」が引用される——その引用を歌うのはLordeだ。Caroline Polachek、Lorde、Mustafa the Poet、そして非クレジットでDaniel Caesarが重なるこの曲について、Hynesは「これほどフランケンシュタイン的な曲は他にない」と語っている。複数の声が、誰のものとも決めずに重なる。そこが気持ちいい。
「Westerberg」はThe ReplacementsのPaul Westerbergへのオマージュで、彼らの「Alex Chilton」のコーラスをそのまま引用している——賛辞の中に別の賛辞が入れ子になった構造だ。
批判するなら、派手なフックはなく前作より掴みどころが少ない、と感じる人がいるのはわかる。ただ、その静けさこそが悲嘆の実感に近い。Caroline Polachek、Lorde、Zadie Smithが参加していながら、アルバム全体が孤独な内省の記録として聴こえる。それがこのアルバムの不思議さだ。
まとめ
エセックスで育った少年が、ニューヨークへ渡り、世界中の音楽を作り続けた末に、母親の死を経て故郷に戻ってきた。それだけのことが、このアルバムに収まっている。
聴き終えた後、しばらく静かなままでいたくなる。

