Nourished by Time こと Marcus Brown の2枚目のアルバム『The Passionate Ones』は、2025年8月にリリースされた。XL Recordings からの初フルレングス作品で、ボルティモア、ロンドン、ニューヨークをまたいで制作された12曲・45分。
Metacritic で89点。Pitchfork のベスト・ニュー・ミュージックを獲得し、Paste Magazine は2025年の年間ベストアルバム1位に選出した。The Guardian は「song of the summer の有力候補」と書いた。
前作『Erotic Probiotic 2』(2023年)がボルティモアの地下室で予算ゼロで作られたのに対し、今作は XL Recordings のサポートを受けた初めての作品だ。環境は変わったが、全曲 Brown がひとりで書き、ひとりで録り、ひとりでプロデュースした。そこは変わっていない。今作のために Brown が新たに習得したのは、クラシックなラップの伝統に倣ったサンプリングの技法だ。
音楽性
このアルバムの音楽は、一言で言い表せない。90年代 R&B、ベッドルーム・ポップ、ポスト・ディスコ、ニュー・ウェーヴ、ハウス——それらが Brown の手を通ってひとつの何かになる。どのジャンルとも少し違う。NPR はこのサウンドを「ポスト・パンクとシンセ・ファンクをビザロ R&B に絞り込む」と書いた。なんとなくわかるが、やはりそれだけでは足りない。
プロダクションの方法が面白い。Brown はシンセの鍵盤とシーケンスされたドラムを骨格に据え、リバーブとディレイを重いと感じる手前で止める。音が飽和しないぎりぎりの場所に全体を置く——「フルに聴こえるが、ごちゃごちゃしない。クリアだが空虚でない」という Saint Etienne 的なバランスだ。「9 2 5」の冒頭のピアノとボーカル・サンプルが重なる瞬間——Whitney Houston の曲と New Order の曲を圧力鍋で一緒に煮たような質感——が、そのバランスのわかりやすい例だ。
ピッチシフトの使い方も特徴的で、レトロな音を現代のものとして鳴らす仕掛けになっている。「Cult Interlude」では低いシンセ・ストリングスとチャイムのギターと合成フルートが広大なディレイの中に浮かぶ。Brown の声が登場しない唯一の曲で、プロデューサーとしての Brown が一番はっきりと出る場所だ。
Brown の声は、このアルバムの大きな武器だ。RA は「lo-fi だが優しく、傷があるように優しい」と書いた。そのバリトンがどんなビートの上でも重力の中心になる。「傷ついた自信」とでも言うような声の質感が、このアルバムを単なるグッドミュージックから一段上に引き上げている。
歌詞のテーマははっきりしている。愛、労働、後期資本主義、夢——「誰もが情熱を持てる何かを持ちたいと思っている。そしてその何かを守りたいと思っている」と Brown は語っている。「BABY BABY」では消費主義崇拝をパレスチナへの空爆と並べ、「買え、何でも買え、ただ頻繁に買え。脳みそをオフにしろ、洗脳作戦だ」と歌う。それが陽気なビートの上で鳴る——重くなりきらないのは、そのせいだ。
楽曲解説
Automatic Love
奇妙なコードの交換と揺れ動くベースラインで始まるオープナー。「愛したい」という衝動が、攻撃的なほど率直に歌われる。「It was love that got me through」——「愛が私を救ってくれた」という一行が、アルバム全体のトーンを最初の1分で決める。
9 2 5
昼はレストランで働き、夜に曲を書く人物を三人称で歌う。「Working restaurants by day / Writing love songs by night / He can barely make it by」——「昼はレストランで働き、夜はラブソングを書いている。ほとんど生活できていない」。Brown 自身のかつての生活がそのまま歌になっている。ボルティモアのクラブ・リズムとシマーリングなピアノの上で、その言葉はちょうどいい重さで乗っている。
Max Potential
グラマラスなキーボードとファズ・ギターに乗せて「情熱を保つのは自分の責任だ」と歌う。「You’re not passionate at all / and that’s all on you」——「お前は全然情熱的じゃない。それはお前のせいだ」とまっすぐ言いきる。サイケデリックなギターのフラリーとパーリーなシンセが、その言葉を怒りではなく励ましに変える。
When the War Is Over
「Is it safe for me to fall in love?」——「恋をしても安全だろうか?」と問いながら、「baby if you love me / maybe I’ll surrender」——「愛してくれるなら、降参してもいい」と続く。勝利を告げるようなアルペジオがヒップホップのビートの上で膨らむ。嵐の後の空のような質感がある。アルバムの締めくくりとして正しい。
まとめ
『The Passionate Ones』は、前作より整理されていてより広い。アメリカン・ドリームの瓦礫の中で、自分だけの祭壇を作れ——それがこのアルバムのメッセージだ。重くなりそうなテーマを、ファンキーで気持ちいいビートに乗せて届ける。
Paste Magazine の年間1位は驚きではない。このアルバムを聴けば、それが当然に感じられる。

