コンヴァージ(Converge)おすすめ名盤『Jane Doe』レビュー|DeafheavenからThe 1975まで——後世へ多大な影響を与えた歴史的大傑作

コンヴァージ(Converge)おすすめ名盤『Jane Doe』レビュー|DeafheavenからThe 1975まで——後世へ多大な影響を与えた歴史的大傑作 Hardcore Punk

Converge の『Jane Doe』は、2001年にリリースされた4枚目のアルバムだ。収録曲は12曲、プロデュースは Matthew Ellard と Kurt Ballou が担当した。

Terrorizer は2001年のベスト・アルバムに選出し、Sputnikmusic は2000年代のベスト・アルバムに選んだ。Rolling Stone は「史上最も偉大なメタル・アルバム」で61位に位置づけている。

ハードコアとメタルを、これほど密度高く、これほど個人の感情と結びつけた作品は——このアルバムの前にも後にも存在しない。ハードコアのシーンでは今も「読むべきテキスト」として参照され続けている。

このアルバムが生まれた背景

マサチューセッツ州セイラム出身の Converge は、1990年代を通じてアンダーグラウンドのハードコア・シーンで活動してきた。Ballou はこう語っている。「メタリック・ハードコアでキャリアを築く可能性なんて、まったくないと思っていた」。

このアルバムの制作直前、ドラマーとベーシストが相次いで加入した。Ben Koller と Nate Newton の加入でバンドのダイナミクスが根本から変わった。Ballou は「Koller がバンドに活力を与え、新しい方向へ押し進めた」と語っている。

それまでソングライティングは Ballou が主導していたが、Newton の加入で初めて本当の意味でのコラボレーションが生まれた。二人が揃って初めて、このアルバムは可能になったんだと思う。

予算は11,000ドル、録音期間は13日間。ドロップCチューニングのデモをそのまま2インチ・テープにアナログ録音で仕上げた。プロデューサーの Ellard はこの仕事を「ビッグ・ロック・レコード」と表現しており、粗くて直接的な音の質感は、デジタル処理過多なメタルコアのサウンドとは正反対だ。

Jacob Bannon が語った歌詞のテーマは、ひとつの関係の崩壊とその後の感情的な余波だ。失恋アルバムと言うと小さく聞こえるが、Bannon の表現は個人的な痛みをそのままアルバムの構造に変えた——そう言う方が近い。

Jacob Bannon のボーカル——声は楽器だ

このアルバムのボーカルのスクリームは、歌詞はほとんど聞き取れず、音程よりも周波数と圧力として機能する。

Bannon の声はギターやドラムと同列の「楽器」として混ぜられている。聴き手に与えるのは「誰かが歌っている」という体験よりも、「誰かが崩壊している最中にいる」という体験に近い。

初めて聴いた人間がまず感じる「これは歌なのか」という戸惑いは、まったく正当な反応だ。でもそこを突き抜けると、別の景色が開く。

Kurt Ballou のギター——崩壊の構造

Ballou のリフは不協和音を基調とし、拍子が変わり、解決しないまま次のセクションへ移動する。メロディアスな旋律を作るタイプのギタリストではなく、テンションと密度を積み上げてから崩す書き方をする。

ただし「ただ速くて複雑なだけ」ではない。「Thaw」に登場する、曲のコーラスのように何度も現れるあのリフ——ゆっくりと下降しながら喘ぐような動きを持つ——複雑さの中に確かなフック感がある。

それが Converge の他のバンドとの決定的な差で、カオスの中に「覚えられるもの」が仕込まれている。カオスだけじゃ、人はついてこない。

Ballou はこのアルバムの後、自身のスタジオを構えハードコア・シーンを代表するプロデューサーとなった。Cave In、Code Orange、Nails といったバンドがそこから生まれた。「最大限のコントロールを持ちたい」という動機は、Jane Doe での経験が作った——と本人は語っている。

Ben Koller のドラム——人間が限界で叩いている音

このアルバムのドラムは精密さよりエネルギーの爆発で動いている。Koller のプレイは速く、手数が多く、グリッドを無視したように聴こえる瞬間がある。「Phoenix in Flames」などは、文字通り「ドラムを破壊しながら進む」としか形容できない密度だ。

ただ乱暴なだけではない。「Heaven in Her Arms」や「Jane Doe」では緩急の設計がきちんと機能していて、Koller がそのタイミングを支配している。

暴力と制御が共存している——それがこのバンドのドラムの本質だと思っている。

音楽性——マスコアとハードコアの間

このアルバムはメタルコアとマスコアの両方に分類されるが、どちらのラベルもやや狭い。変拍子を多用し、構造が変わり続け、同じリフが同じ形で戻ってくることをほとんどしない。

各セクションが一度も繰り返されない、展開し続ける構成を持つ曲が複数ある。アルバム全体として「どこへ向かうかわからない旅」の感覚がある。

ミックスはアナログ録音の粗さを活かした設計で、音が歪んで飽和する瞬間が意図的に作られている。Bannon のボーカルはギターの壁と溶け合うように混ぜられており、分離して聴こえる瞬間と音の塊として届く瞬間が交互に訪れる。この「溶け込みと浮上」の設計が、アルバムを通じた感情の起伏を作っている。

歌詞はライナーノーツに印刷された文字と実際の録音で異なる部分があるほど、言葉は固定されたメッセージよりも音の一部として扱われている。それでも「The Broken Vow」の一節など、断片的に聞き取れるフレーズは詩として機能している。

楽曲解説

Concubine

2音の不協和なリフが繰り返されるオープニング。静かに始まり、バンド全体が一気に動き出す瞬間は、アルバム全体で最も鮮烈な入口だ。

拍子の面では、4/4拍子のブラストビートの上に Koller が2小節ごとに即興的なフィルを叩き込む構成で、規則的なグリッドがあえて崩される。

Bannon が繰り返す「You stay gold」というフレーズは、歌詞の全体的な難解さの中で異様に明確に聴こえる。その明確さがかえって不穏だ。

Fault and Fracture

アルバム前半のハイライトで、疾走するリズムと突然の停止が交互に現れる。

変拍子の具体的な仕掛けがはっきりわかる曲だ。4/4拍子が4小節続いた直後に、余分な2/4拍子が1小節だけ割り込んでくる——これが繰り返されることで、「次の頭」がどこにくるかの予測が毎回裏切られる。

知らずに聴くと単純に「めちゃくちゃ速い」と感じるが、意識して追うと「計算された迷宮」に聴こえてくる。暴力的なのに、聴き返したくなる。

Heaven in Her Arms

日本のバンド Heaven in Her Arms はこの曲から名前をとった。曲自体はアルバム中盤の要で、速いセクションと重いセクションの交代が Koller のドラムによって精密に制御されている。

拍子の変化が緩急と連動している点がこの曲の特徴で、速いパートでは4/4のブラストが走り、重いパートでは奇数拍子的な引きずる感覚が生まれる。

タイトルの持つ皮肉な柔らかさと、音の実際の圧力との落差が大きく、その落差がこの曲の感情的な核だ。

Phoenix in Flight / Phoenix in Flames

この2曲はセットで体験する必要がある。「Phoenix in Flight」はアルバムの中で最も静かで美しい瞬間を持ち、Bannon のスクリームがほとんど消えてギターだけが浮かぶ場面がある。

そこから「Phoenix in Flames」が爆発する流れは、このアルバムで最大のダイナミクスの落差だ。「Phoenix in Flames」はギターとベースがなく、Bannon が曲名を絶叫しながら Koller がドラムだけを叩き続ける構成だ。

拍子の概念が消えて、ただ衝動だけが残る。説明するより聴くしかない。

Jane Doe

アルバムのタイトル曲にして締めくくりの大曲。スラッジ的な激重リフにより、それまでの11曲のすべてが収束していくような構造を持つ。

曲の中盤、珍しくクリーンボイスが現れるセクションがある。Ballou のギターが静かに動き、Bannon の歌声が素に近い形で聴こえる——その瞬間だけ音楽全体の重力が変わる。

終わった後に深い疲労感と、奇妙な解放感がある。このアルバムの最後に置かれるべき曲として正しい。

後世に与えた影響

『Jane Doe』がハードコアとメタルのシーンに与えた影響の範囲は、今も広がり続けている。

Bannon が設立したレーベル Deathwish Inc. は、Deafheaven と Ceremony のキャリアを立ち上げた。Ballou の GodCity Studio はハードコア・シーン最重要のプロダクション拠点となり、Code Orange や Nails がそこから生まれた。このアルバムに直接インスパイアされたバンドをリストアップするより、されていないバンドを探す方が難しいほど、影響は広範だ。

意外なところでは、The 1975 のフロントマン Matty Healy が NME のインタビューで、2020年のアルバム『Notes on a Conditional Form』の「攻撃的な瞬間」のインスピレーションに Converge を挙げた。ポップ・シーンにまで波及している。

NME は2018年に、Converge のハードコアへのアプローチは、『Jane Doe』のリリースから17年後もまだ誰にも追いつかれていない、と書いた。これは誇張ではない。

まとめ

『Jane Doe』は、入門盤ではない。これを最初に聴いた人間の多くが戸惑い、そのまま棚に戻すか、あるいはそこで何かに引っかかってしまうかのどちらかだ。

引っかかった人間は抜け出せない。ハードコアとメタルの交差点で、これほど個人の痛みを音楽の構造として昇華した作品はほかにない。

ポスト・ハードコア、ブラック・メタル、エモ——2001年以降の重い音楽の大部分は、このアルバムの影の中にある。

崩壊は、こんなに美しい。

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