ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)おすすめ名盤『メイン・ストリートのならず者(Exile On Main St.)』レビュー|史上最高のロックバンドによる泥臭い傑作

ローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)おすすめ名盤『メイン・ストリートのならず者(Exile On Main St.)』レビュー|史上最高のロックバンドによる泥臭い傑作 Classic Rock

1971年に発表されたThe Rolling Stones『Exile On Main St.』。

イギリス政府に税金を根こそぎ持っていかれそうになったストーンズは、財政年度末ギリギリで国外に逃亡した。メンバーはフランス南部に散らばり、Keithはニースの近くの16部屋の豪邸、Villa Nellcoteを借りた。

近くにまともなスタジオが見つからなかったため、Keithの地下室が録音スタジオになった。

音響設計なんてされていない空間に、マイクと絨毯をぶら下げて吸音材代わりにした。Keith本人はその地下室を「ヒトラーの地下壕みたいだった」と振り返っている。

そんな場所で、世界最高のロックンロールアルバムが生まれた。

制作背景

セッションの実態は、もっとカオスだった。

毎晩夜8時から翌朝3時まで続くセッションに、全員が揃うことはほとんどなかった。Keithはヘロイン漬けで、セッションに現れないことも多かった。William S. BurroughsやGram Parsonsが出入りし、フランス警察は屋敷を終始監視していた。

Mickはといえば、「プロデューサーはまともに機能していなかった。酔っ払いとジャンキーしかいなかったから、最後は俺一人でアルバムを仕上げなければならなかった」と後に語っている。

この二人の温度差が、そのままアルバムの緊張感になっている。

Keithは「Mickは明日何をするか決めておきたいタイプ。俺は朝目が覚めて、誰がいるか見てから考える。Mickはロック、俺はロール」と言い放った。

音楽性

Keithの5弦オープンGチューニング

このアルバムの音楽的な核心を理解するには、Keithのギタースタイルへの理解が欠かせません。

Keithは60年代まで標準チューニングで弾いていた。転換点はRy Cooderとの出会いで、1969年のセッションでオープンGチューニングの可能性を見せてもらった。

Keithはそれを自分流に発展させ、さらに最低弦を外してしまった。

5弦にすることで、最低弦がGのドローンとして機能し、どのポジションでコードを押さえても「開いた」響きが生まれる。

その結果生まれたのが、このアルバム全体に流れる「どこか泥臭くて、でも妙に気品がある」というギターの質感だ。

「Rocks Off」のクロマチック上昇リフも、「Tumbling Dice」のリフも、「Happy」のリフも、全部この5弦オープンGから生まれています。

カポ4フレットをつけてBメジャーに変換するのがKeithの定番で、弦の開放音がどこかに漂い続けるせいで、「Bメジャーなのに完全に着地していない」感じがする。それがあの浮遊する泥臭さの正体です。

そしてその背後でMick Taylorが動く。

Taylorのメロディックなカントリー/ブルースのラインが、Keithのドローンの上を泳ぐ——この組み合わせが、ストーンズの「第二期黄金時代」のサウンドを作りました。

Charlie Wattsのグルーヴ——「ドラムがKeithを追う」

このアルバムのリズムには独特の引力があります。

Bill Wymanはこう説明しています。「どのバンドもドラマーの後ろをついていく。俺たちはCharlieを追わない——CharlieがKeithを追うんだ。だからドラムはKeithのわずかに後ろになる。ほんのわずか、ミクロの世界の話だ」と。

このズレが「倒れそうで倒れない」という、Stonesにしかないグルーヴを生み出しています。

Charlieのジャズ仕込みの技法も、このアルバムで際立っています。

彼はバックビートでスネアを打つとき、ハイハットを同時に叩かない——ドラマーのJim Keltnerがそれを指摘するまでCharlieは無意識だったと語っています。

この「スネアだけが鳴る」瞬間が、ビートにスキマを作り出す。機械のように規則正しいリズムではなく、一打一打の間に微妙な空気が流れる。その「スウィング」がロックのビートに注入された技法です。

参加ミュージシャンたち

このアルバムは実質的に「拡張版ストーンズ」による録音です。

ピアニストのNicky Hopkins、サックスのBobby Keys、ホーンのJim Price、そしてニューオーリンズのブルース/ファンクの重鎮Dr. John——こうした面々が地下室を出入りしながら録音に加わった。

面白いエピソードがある。「I Just Want to See His Face」の録音、実はKeithはスタジオにいなかった。

Bobby Whitlockというミュージシャンが「Jaggerにゴスペルっぽい何かを弾いてくれと頼まれた。Charlieが加わって、Mick Taylorがベースを弾き始めた。それがそのまま録音になった」と後に語っています。Jaggerはその場でアドリブで歌詞を作った。

曲の「成り行き感」がそのまま音になっている。

「Casino Boogie」の歌詞にはさらに奇妙な話がある。

Jaggerが歌詞に詰まり、書き殴ったフレーズをバラバラの紙切れに書いてシャッフルし、バンドメンバーが無作為に引いた順番でそのまま歌詞にした。その手法はWilliam S. Burroughsのカットアップ技法からの影響で、Burroughsがちょうど屋敷に滞在していた時期の話だ。

評価の変遷

このアルバムはリリース当初から全員が絶賛していたわけじゃない。

全米・全英1位の商業的な成功とは裏腹に、批評家の評価は当初から割れていた。くぐもった音質、まとまりのない曲順、長すぎるダブルアルバム——という批判が当時からあった。

そして最も辛辣な批評家は、メンバー自身のMick Jaggerでした。

2003年のインタビューで彼はこう言っています。「これは俺のお気に入りのアルバムじゃない。聴くと、これまで聴いた中で最悪のミックスがいくつかある。ひどい音だと思う」と。

一方でKeithはこう反論しています。「Mickはいつもこのアルバムに対して複雑な感情を持っているように見える」と。

時間が経つにつれて評価は逆転し、Rolling Stone誌は「史上最高のアルバム」ランキングで上位に置き続けた。2010年には未発表音源を加えたリイシューが発売され、Jaggerですら「あの時代の特別な感情がある」と後に認めている。

Tom Waitsはこのアルバムを個人的なトップ20の4位に選び、こう語っています。

「I Just Want to See His Faceが自分に大きな影響を与えた。これは命の木だ。このレコードは水飲み場だ」と。

楽曲解説

Rocks Off

アルバムの幕開けからして、正面突破だ。

磨かれていない、荒削りのリフ。でもそのラフさが、「スタジオで作られた完璧な音楽」では絶対に出せないリアルさを持っています。

エンジニアのAndy Johnsによれば、Keithはギターのオーバーダビング中に寝落ちして、翌朝5時にJohnsを電話で叩き起こして「もう一本入れたい」と言ってきた。「絶対に良い音が出た」とJohnsは振り返っています。

その「寝落ちしながら入れた音」がこの曲に入っているかもしれない。

Eメジャーを軸に、E→A→B♭→Bというクロマチック上昇進行が中心になっています。

このB♭はEメジャーの調に本来「存在しない音」で、ここに半音で滑り込む動きが「泥の中から這い出すような」ぬかるんだ推進力を作り出しています。地下室の湿気がそのままコードに滲んでいる。

Tumbling Dice

女性コーラス陣の声が入った瞬間に、あのフランスの夜の空気が一緒に入ってくる気がする。

面白いことに、この曲の「keep on rolling」以降のドラムパートはCharlie Wattsが自分で「うまく叩けない」と判断して、プロデューサーに叩かせている。あの聴き慣れた名曲の核心部分が、ドラマー本人のドラムじゃないという事実。

BメジャーのB – E – F#、3コードだけで動くシンプルな進行です。

オープンGにカポ4フレットで変換したKeithのギターは、ドローン弦が常に鳴り続ける構造で、どのコードを押さえても開放弦の響きが混じる。「晴れていない長調」の質感が生まれる。歌詞のサイコロ賭博の世界観と、「着地しそうで着地しない」コードの浮遊感が一致しています。

Happy

Keithが歌う数少ない曲。「あれはサウンドチェック中に生まれた。Bobby Keysしかいなかった。何もする気がなかったのにギターを手にとってこのリフを弾いた。そのままレコードになった」とKeithは語っています。

1953年製のテレキャスターで弾いたという逸話を知ってから聴くと、あの音が少し違って聞こえる。

Ventilator Blues

ネルコートの地下室の窓に唯一あった換気扇が、まともに動かなかった。

その換気扇についての曲。「Ventilator Blues(換気扇のブルース)」——カオスの地下室で生まれたブルースが、換気扇をタイトルにするという事実が、このアルバムのすべてを物語っています。

Mick Taylorに唯一の共同作曲クレジットが与えられた曲でもある。

Gマイナーキー、Gm – B♭ – F – Cで動く短調のブルースです。オープンG曲群が長調の中に短調の影を帯びていたのと対照的に、この曲は最初から短調に留まり続ける——換気扇の詰まった空気、逃げ場のないカオス、そのものです。

Shine a Light

終盤のこのゴスペル曲は、混沌の果てに辿り着いた静けさのように響く。

元々は1968年にBrian Jonesの薬物問題を歌った曲として書き始め、Jonesの死から3年後に書き直された。Billy PrestonがキーボードでJimmy Millerがドラムに入った特別な編成——MillerはKeithが「彼はグルーヴを理解していた」と称えたほどのドラマーで、この曲でそれが発揮されています。

C – Am – G – Fというゴスペル進行は、このアルバムで最も解決に向かう和声です。

地下室のカオスをくぐり抜けた後にこの進行が来ると、「ようやく着地した」感覚がある。派手な解決もなく、ただ光を求める声だけが残る。

まとめ

このアルバムを一言で表すなら、「ジャンルが溶けている」という感覚に尽きる。

ブルース、ゴスペル、カントリー、ソウル、ロックンロール。それぞれが混ざり合いながら、でもどれにもなりきらない。その「なりきらなさ」こそが、Exile on Main St.の本質です。

くぐもった音、まとまりのない曲順、長すぎるダブルアルバム。Mick Jagger本人が「ひどい音だ」と言い続けた。でも時間が経つほど、この「整理されていなさ」こそが正解だったとわかってくる。

完璧に磨かれた音楽はたくさんある。でも、ヘロイン漬けの地下壕から這い出してきたような音楽は、これ一枚しかない。

これこそストーンズの最高傑作だ。

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