デヴィッド・ボウイ(David Bowie)おすすめ名盤『ジギー・スターダスト』レビュー|「自分を殺した男」——架空のロックスターが、リアルのボウイを飲み込んでいくまで

デヴィッド・ボウイ(David Bowie)おすすめ名盤『ジギー・スターダスト』レビュー|「自分を殺した男」——架空のロックスターが、リアルのボウイを飲み込んでいくまで Classic Rock

David Bowie『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』は、1972年にRCAレコードからリリースされた5枚目のスタジオアルバムだ。

プロデュースはBowieとKen Scottの共同で、ロンドンのTrident Studiosで録音された。グラムロックの金字塔として知られる本作は、2017年にアメリカの国立録音登録簿に「文化的・歴史的・芸術的に重要」として登録されています。

架空のロックスター、ジギー・スターダストを主人公にしたコンセプトアルバム——一般的にはそう説明されます。ただし実態はもう少し複雑で、アルバムの「コンセプト」のほとんどは曲を録音した後に後付けで構築されたものです。

Ken Scottは「コンセプトアルバムとして聞かされたことは一度もなかった」と語っています。Bowieが後から物語を「発見」し、そこに意味を吹き込んだ——それがこのアルバムの本質に近いと思っています。

制作背景

前作『Hunky Dory』はまだリリースもされていなかった。Bowieとバンドは1971年11月、ロンドン・ソーホーのTrident Studiosに戻り、次のアルバムのレコーディング・セッションを始めました。

Ken Scottはこのアルバムについてこう振り返っています。「50年経った今も”Ziggy Stardust”について話し続けていることに驚いている。録音当時、アルバムの寿命は6ヶ月だと思っていた」

驚くべきはその速度です。セッションは毎日午後から深夜まで続き、ボーカルと演奏の大部分がファーストテイクで録音されました。実質3週間以下でアルバムが完成したことになります。

録音メンバーはMick Ronson(ギター、ピアノ、バッキングボーカル、ストリングス編曲)、Trevor Bolder(ベース)、Mick Woodmansey(ドラム)のSpiders from Mars、そしてRick Wakeman(シンセサイザー)。

ジギー・スターダストというキャラクターの着想源は複数あります。主要なモデルとなったのは英国人ロック歌手のVince Taylorで、BowieはRolling Stone誌のインタビューでこう語っています。

「ヴィンス・テイラーはジギーのインスピレーションだった。60年代のアメリカのロックスターで、ゆっくりと狂っていった。ついにはバンドを解雇し、ある夜、白いシーツをまとってステージに立った。観客に向かって『喜べ、私はキリストだ』と言った。そして施設に送られた」

その「自分をロックスターと信じて正気を失った男」の姿が、Bowieの頭の中でジギーの輪郭を形成しました。

衣装とヘアスタイルはAnthony BurgessのA Clockwork OrangeとWilliam Burroughsの小説Wild Boysから着想を得ています。トレードマークの赤い髪はMick Ronsonのガールフレンド、Suzi Fusseyが担当し、ヘアカットの費用は2ポンドだったとされています。

アルバムには後から追加された重要な曲があります。RCAの担当役員Dennis Katzから「シングルになる曲がない」と指摘を受け、BowieはStarmanを書きました。

それまでトラックリストに入っていたChuck Berryのカバー「Round and Round」と差し替えられたのは1972年2月2日のこと。2日後の2月4日、バンドはStarman、Suffragette City、Rock ‘n’ Roll Suicideを録音してセッションを閉じました。

ジャケット写真はロンドンのHeddon Streetにある毛皮商「K. West」の前で撮影されました。雨の夜に撮られたその一枚が、ロック史上最も有名なジャケットのひとつになっています。

音楽性

このアルバムの音楽的な参照点は、当時のロックシーンからすると意外なほど広い範囲に及んでいます。

Marc BolanのT. Rexに代表されるグラムロックの煌びやかさ、Anthony Newleyのミュージックホール的な歌唱スタイル、The Velvet Undergroundの退廃性、Frank Zappa的な実験性——それらが混在しながら、しかし不思議とひとつの音楽として成立している。

このアルバムのサウンドを決定づけているのは、Mick Ronsonのギターとストリングス編曲だ。

ヘビーに歪んだギターと管弦楽が同じ曲の中に共存する——Moonage Daydreamを聴けばその異質な組み合わせがいかに機能しているかがわかります。Ronsonの編曲はクラシカルな訓練に基づいていて、それが「ロックアルバムなのに豊か」という感覚の正体だと思っています。

Bowieのボーカルスタイルも前作から大きく変化しています。内省的なフォーク的歌唱から、より演劇的で大げさな表現へ。Anthony Newleyへの影響は特に顕著で、歌詞の語り口が「曲を歌っている」というより「キャラクターを演じている」感覚に近い。

それがジギーというキャラクターの説得力を音楽的に支えていると感じます。

楽曲解説

Five Years

アルバムのオープナーで、地球が5年後に終わると告知された日の情景を描く曲です。

ドラムのゆっくりとしたビルドアップから始まり、Bowieのボーカルが後半に向けて感情的に崩れていく構造は、「終末の報を聞いた人間がどう反応するか」をそのまま音で表現しています。

Ronsonはオートハープをこの曲で演奏しています。ピアノと管弦楽が積み重なるにつれてBowieの声が限界まで張り上がる最後の2分間は、このアルバムで最も「物理的に圧迫感のある」音楽だと感じます。

歌詞に出てくる「a girl my age」「a cop」「a queer」「a black girl」——様々な人物が終末を受け取る瞬間の描写は、あっさりとしているのに妙に生々しい。

Moonage Daydream

ジギーが「宇宙人のビート族」として自己紹介する曲で、アルバムの中で最もヘヴィなギターサウンドを持っています。

この曲はもともと1971年初頭にArnold Corns名義でシングルとしてリリースされたバージョンがあり、Ziggy Stardust版は大幅に再録音・再編曲されています。

Ronsonのギターはヘヴィメタル的な歪みを持ちながら、中盤にストリングスセクションが突然入り込む。そのギャップが「地球外の何かが到着した」感覚を作っていて、個人的にこのアルバムで最も好きな曲のひとつです。

Starman

バンドの代表曲であり、このアルバムそしてBowieのキャリアを変えた一曲です。

RCAへの「シングルになる曲がない」という指摘への返答として書かれたこの曲は、発表からわずか数週間でBowieを別次元のスターにしました。

コーラスはJudy GarlandのOver the Rainbowのオクターブ跳躍を意識的に借用していて、The SupremesのYou Keep Me Hangin’ Onから取ったモールス信号的なギターとピアノのブレイクが印象的です。

楽理的には、このアルバムの中で最も耳に自然に落ちてくるハーモニーの解決を持つ曲でもある——「着地する」という感覚が最もはっきりと聴こえます。

BowieがTop of the Pops(1972年7月6日放送)でこの曲を演奏した瞬間を、Bono(U2)は後にこう語っています。「テレビでBowieが’Starman’を歌うのを初めて見た。空から落ちてきた生き物のようだった」

Ziggy Stardust

アルバム9曲目に収録された表題曲です。Ronsonのギターリフはアルバム表題曲に相応しいキャッチーなフレーズで、ByrdsのRoger McGuinnを意識した12弦的な「jingle-jangle」のニュアンスが混ざっています。

歌詞の中でジギーはついに「自分のエゴを吸い込んだ」と描写され、ロックスターが自分自身を信じすぎることで破滅する瞬間が示されます。

Bowieは後にRolling Stoneのインタビューで語っています。「ジギーになりきってしまった。David Bowieは完全に消えた」。架空のキャラクターが現実のBowieを飲み込んでいく——その予告がすでにここにあります。

Rock ‘n’ Roll Suicide

アルバムのクローザーで、Starman、Suffragette Cityと同じ2月4日のレコーディング・セッションで録音されました。ジギーが聴衆の前で「引き裂かれる」アルバム最後の場面です。

曲は静かなアコースティックギターで始まり、Bowieが「Time takes a cigarette」と歌い出します。そこから徐々にオーケストラが加わり、クライマックスでBowieが「You’re not alone」と絶叫する。

Five Yearsが終末の「はじまり」なら、Rock ‘n’ Roll Suicideはジギーの「おわり」——そして聴衆への逆説的な解放です。

まとめ

Bowieは1973年7月、ロンドンのHammersmith Odeonのステージでジギー・スターダストの「引退」を宣言しました。アルバムリリースからわずか13ヶ月後のことです。

「ジギーが自分より大きくなってしまった」とBowieは語っています。架空のキャラクターが現実のアーティストを飲み込み、アーティストがキャラクターを「殺す」ことでようやく自分を取り戻した。

そのドラマの全ては、1971年11月から始まった3週間のレコーディング・セッションに既に書かれていました。

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