サニー・デイ・リアル・エステート(Sunny Day Real Estate)おすすめ名盤『Diary』レビュー|なぜ“歴代最高のエモ・アルバム”は今なお聴く人の心を揺さぶるのか?

サニー・デイ・リアル・エステート(Sunny Day Real Estate)おすすめ名盤『Diary』レビュー|なぜ“歴代最高のエモ・アルバム”は今なお聴く人の心を揺さぶるのか? Emo / Hardcore Punk

Sunny Day Real Estateのデビュー作『Diary』。1994年5月10日、Sub Pop Recordsからリリースされた本作は、プロデュースをBrad Woodが担当し、シカゴのIdful Studiosで録音されました。

Rolling Stoneが「40 Greatest Emo Albums of All Time」の第1位に選出し、LA Weeklyも「Top 20 Emo Albums in History」の1位に挙げています。

Dashboard ConfessionalのChris Carrabbaは「Diaryを聴いて、これがやりたいことだと思った」と語り、The Get Up KidsやThursdayも直接の影響源として名指ししています。エモというジャンルの「第二波」を定義したアルバム——そう言われ続けてきた1枚です。

制作背景

バンドの成り立ち自体がかなり速い。Dan HoernerとNate Mendelがシアトルでバンドをスタートさせたのは1992年のこと、そこにWilliam Goldsmithが加わり、MendelがツアーでスタジオからいなくなるタイミングでGoldsmithの高校時代の友人、18歳のJeremy Enigkが呼ばれました。

Enigkが加わった瞬間から音楽の方向性が変わり、Mendelが戻った後も4人編成のまま続けることになった。

バンドとしてまだ2度目のライブを終えた直後、Sub PopのJonathan Ponemanが会場でその演奏を目にしてその場でサインを申し出ました。

北米ツアーを終えた1993年末、バンドはシカゴのIdful Studiosへ乗り込みBrad Wood(Liz Phair、Smashing Pumpkinsも手がけたプロデューサー)のもとでレコーディングを行いました。こうして完成した『Diary』は1994年5月10日にリリースされました。

興味深いのはEnigkのボーカルの成り立ちです。Enigkはもともとファルセットで歌っていましたが、シカゴへ向かうツアー中にステージで声を張り上げすぎて声帯を傷めてしまいました。アルバムで聴けるあの声は、文字通り「傷ついた声」です。

Enigkはこう語っています。「失恋していた。感情的に吐き出す必要があった。あの混乱と痛みを曲の中に注ぎ込んで、整理して、脇に置きたかった」

リリース当初、アルバムはBillboardのいずれのチャートにも入らなかった。バンドはメディアへの露出を極端に絞り、公式プロモーション写真は1枚だけ、インタビューに応じたのは英国人ジャーナリストEverett Trueたった1人でした。

それでもアルバムはじわじわと広がり続け、最終的にSub Pop史上7番目のベストセラーとなった——231,000枚以上を売り上げて。

バンドは1995年初頭に解散しました。MendelとGoldsmithはDave Grohl率いるFoo Fightersへの参加を受け入れ、Enigkはソロキャリアへと進みました。

解散時点でまだ誰も気づいていなかったが、この1枚がその後30年にわたって「エモの原点」として繰り返し参照されることになります。

音楽性

このアルバムの核心は「静と動の落差」にあります。静かなアルペジオとEnigkの囁くような歌声がじりじりと緊張を高め、ドラムが叩き込まれる瞬間に一気に音の壁が迫ってくる——このダイナミクスの設計が、聴いている者の感情を否応なく揺さぶります。

Dischordレーベル系のポスト・ハードコアの緊張感と、R.E.M.やThe Beatlesのようなメロディの叙情性が混在している、とPitchforkは評しています。

Enigkのボーカルは、このアルバムの最大の武器であり最大の個性です。Pitchforkのレビュアーはその声を「burned whine(焦げるような呻き)」と表現し、「音に手が届きそうで届かない、その半分変異したスクリームが生む偶然性こそが、後続のエモ・アクトを大量に生み出した」と書いています。

囁きから絶叫まで、感情が剥き出しのまま声に乗る。完璧に制御されていないからこそ、本物に聴こえます。

楽曲解説

Seven

アルバムの1曲目で、Enigkが加入後に書かれた7番目の曲であることからこのタイトルが付きました。

不穏で美しいギターのアルペジオから静かに始まり、ドラムが入る中盤から一気に熱を帯びます。後半、Enigkの声がかすかに掠れる瞬間の生々しさが忘れられません。シングルとしてカレッジラジオで積極的にかかり、アルバムへの入り口になった曲です。

In Circles

もともとEnigkがソロのアコースティック曲として書いたものを、バンドが気に入ってフルバンドアレンジに作り直した曲です。

ひたすら「同じ場所をぐるぐると回っている」ような感覚が4分58秒続きます。抜け出せない関係の閉塞感を、歪んだギターのリフレインが延々と追いかけてくる。「Seven」と並んでラジオでかかった2枚看板ですが、こちらのほうが個人的にはずっと暗い。

The Blankets Were the Stairs

6曲目。繊細なギターのイントロから突然音が厚くなる展開は、このアルバムの「静と動」の設計が最も鮮明に現れた曲のひとつです。

「毛布」というタイトルが示す暖かさとは裏腹に、曲が描くのは届かない相手への痛切な渇望で、中盤のスクリームに近いバッキングボーカルを聴いていると不思議なカタルシスを覚えます。

まとめ

Hoernerはこう語っています。「私たちは誰とも違う何かを作ろうとしていた。今となっては、もちろん、みんな同じように聴こえる」。

最大級の賛辞と自嘲が同居したこの一言は、このアルバムの影響が届いた範囲を正確に示しています。

アルバムタイトルの通り、これは他人に聴かせるための娯楽というより、誰にも見せたくなかった「日記(Diary)」を無理やり開かされたようなパーソナルな記録です。何年経とうとも、ここにある痛みは一切色褪せません。

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