フォンテインズD.C.(Fontaines D.C.)おすすめ名盤『Skinty Fia』レビュー|現代ポスト・パンク代表格のバンドが描いた、故郷アイルランドへの思い

フォンテインズD.C.(Fontaines D.C.)おすすめ名盤『Skinty Fia』レビュー|現代ポスト・パンク代表格のバンドが描いた、故郷アイルランドへの思い New Wave / Post-Punk

Fontaines D.C. の『Skinty Fia』は、2022年4月にリリースされた3枚目のアルバムだ。メンバーは Grian Chatten(ボーカル)、Carlos O’Connell(ギター)、Conor Curley(ギター)、Conor Deegan III(ベース)、Tom Coll(ドラム)の5人。プロデュースは Dan Carey。UK アルバム・チャートで1位、Metacritic で87点。アイルランドを離れてロンドンに移住した5人が、故郷との距離の中で初めて「アイルランドとは何か」を問い直した作品だ。

「最近、宙吊りになっている気がする」——ロンドン東部のパブで、Chatten はそう言った。ロンドンに住む女性に恋をして移住してきた。それからというもの、夜になるとダブリンのノース・サーキュラー・ロードの風景が頭を離れないという。「取るに足らない道なのに、その広さと木の葉のことを、眠れない夜にずっと考えている」。

その宙吊り感がそのままアルバムになった。タイトルはドラマー Tom Coll の曾おばが使っていたアイルランド語の口語表現で、「鹿の呪い」を意味する。アイルランドにかつて生息していたオオツノシカ——4,000年前に絶滅した生き物——のイメージがアルバム全体を貫いている。アイルランドを離れた人間が、離れることで初めてアイルランドを理解し始める——その変化を、このバンドは「鹿の呪い」と呼んだ。

制作背景

制作はパンデミック中のダブリンから始まった。Chatten の母親がクリスマスにアコーディオンをプレゼントし、彼はほとんど弾けないまま街を歩き回りながらその音と向き合った。「これが次のアルバムの入口になると直感した」と彼は語っている。

その後ロンドンのリハーサル・スペースへ移り、バンドは夜間セッションを重ねながら曲を仕上げた。「昼間に書くと整いすぎる。夜にやると、物事が少し不確かになる」と Chatten は語っている。その不確かさが、前2作の緊張したポスト・パンクとは異なる、霧の中を歩くような音の質感を作った。

音楽性

前2作のポスト・パンクの緊張感と比べると、『Skinty Fia』は全体として暗く、遅く、霧がかかっている。Joy Division の影響が前作より濃くなり、ゴシック・ロックという言葉が頭をよぎる瞬間もある。ただしこのバンドは一方向に暗いだけではない——タイトル曲ではトリップ・ホップ的な打音とインダストリアルな音響が混在し、これまでとまったく違う場所へ踏み込む。

多くの曲が2コードだけで動き続け、シンプルな土台の上にニュアンスとテクスチャーを積み上げる方法が徹底されている。その大胆な引き算は Chatten の声の存在感に全面的に依存しており、彼の声がある限り成立する——というある種の賭けだ。

前2作と違い、明暗の落差が少ない。「暗い曲」から「さらに暗い曲」へと続くアルバムの均質な暗さは弱点にもなりうる。「How Cold Love Is」のようにタイトルを延々と繰り返すドローンは、曲によってはやや未完成に聴こえる。ただその催眠的な反復は、このバンドの「少ないほど深くなる」という姿勢の純粋な形でもある。

楽曲解説

In ár gCroíthe go deo

「永遠に私たちの心の中に」——アイルランド語のこのタイトルを持つオープナーは、実際の出来事から生まれた。イングランドに住むアイルランド系女性の墓碑にこの言葉を刻もうとした家族が、英国国教会から「政治的スローガンになりかねない」として拒否された。Chatten が受けた衝撃は、それが過去の話ではなく数年前の出来事だったからだ。

合唱のように積み重なるコーラスと、同じ単音のベースラインが3分以上続く。解決されない緊張のまま6分間が過ぎる——その居心地の悪さが、この曲の怒りそのものだ。アルバムの冒頭30秒で、これが前2作とは別の場所にあることが伝わってくる。

Jackie Down the Line

アルバムのリード・シングル。「Jackeen」——ダブリン出身者を他のアイルランド人が揶揄する蔑称——を主人公にした曲で、Chatten はその人物の声を一人称で歌う。「I will hurt you, I’ll desert you / I am Jackie down the line」——「あなたを傷つけ、捨てる。それが俺だ」と繰り返す。

Nine Inch Nails のアレンジから影響を受けた Deegan のベース・サウンドと、12弦アコースティックのアルペジオが絡み合う。ブリッジで Chatten の声がエコーを帯びて放り出される瞬間——「What good is happiness to me if I’ve to wield it carefully?」——「幸福を慎重に扱わなければならないなら、幸福に何の意味がある?」——ここがこの曲の核だ。

I Love You

Chatten はもともとロマンティックな歌を書くつもりだったと苦笑しながら話している。「気づいたらまたアイルランドの曲になっていた」。ロマンティックな愛の宣言と、アイルランドの政治的な腐敗への怒りが、同じ曲の中に同居している。

「But this island’s run by sharks with children’s bones stuck in their jaws」——「でもこの島はサメが支配していて、あいつらの顎には子供の骨が挟まっている」。2017年にゴールウェイのカトリック系施設跡地から発見された子供たちの集団埋葬地への参照だ。Stone Roses 的なベースのうねりがゆっくりと走り出し、その告発の言葉を運んでいく。

The Couple Across the Way

Chatten とアコーディオンだけの1曲。アパートの向かいに住む夫婦の口論を窓から見ていた記憶から書かれた。ボーカルを録るとき、Chatten は Deegan に「台所でお茶を作ってきてくれ」と頼み、その生活音を遠くに入れた。「ほんの少しの日常の気配が欲しかった」と彼は言っている。

ギターもドラムもない。ただ Chatten の声とアコーディオンだけが室内に鳴る。直前の「Skinty Fia」の轟音の後に置かれることで、その静けさが二倍になって届く。

まとめ

「人はよその場所へ行くと、よりアイルランド人になっていく」——このアルバムのすべてがこの一言に収まる。離れることで故郷の輪郭がはっきりする。呪いをかけられた鹿は、絶滅した後もその影を残し続ける。

『Skinty Fia』はその影の記録だ。ダブリンを離れてロンドンに渡った5人が、初めて「自分たちがアイルランド人だ」と確信した瞬間の音楽。前2作よりも暗く、遅く、そして深い。

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