ROSALÍA の『LUX』を聴いて最初に思ったのは、「ポップスターがこんなことをしていいのか」という呆然とした驚きだった。2025年11月リリース。
ロンドン交響楽団と全編を録音し、14言語で歌い、18曲を4つの楽章に分けた組曲構造。タイトルはラテン語で「光」。そのままではなく、まず光に焼かれる体験だ。
音楽性
ROSALÍA はバルセロナの Esmuc(カタルーニャ高等音楽院)でフラメンコを修め、その修士論文が後の『El Mal Querer』(2018年)になった。13世紀のオック語の詩集に基づく概念アルバムで、アバンギャルドなフラメンコと R&B を交差させた作品だ。次作『Motomami』(2022年)ではレゲトン・バチャータ・ヒップホップを解体・再構成し、「ジャンルは道具であってアイデンティティではない」という立場を明確にした。
今作でその軸が向いたのは、ヨーロッパのクラシック・ポリフォニーだ。前2作と比べると、プロダクションの前景に出てくるのが「声の束」になった。1本の声が主役をとるのではなく、複数の声が層をなして動く——その書法が全編を支配している。
和声の面では、ルネサンス期の多声音楽の語法が随所に顔を出す。解決を急がない声部進行、長調でも短調でもない曖昧な色彩。「Mio Cristo Piange Diamanti」のクライマックスでオーケストラが爆発する中からROSALÍAの震えるヴィブラートが立ち上がる瞬間——あれは現代のプロダクションとバロック的な声の書法が衝突している場面だ。
構成という点では、4つの楽章の流れが面白い。第1楽章が実験的、第2楽章が密度の高いクラシック的な書法、第3・第4楽章でフラメンコのルーツへと回帰する。パルマ(手拍子)とゴルペ(足音)の様式が後半で蘇ってくるとき、このアルバムが「クラシックを征服しに行った」のではなく「自分のルーツを別の言語で語り直した」のだとわかる。
「Berghain」でのBjörk との共演は、二人の「声を限界まで使う」という共通の美学が初めて同じ空間で鳴った瞬間だ。曲の中盤でBjörk の声が割り込んでくる——あれは本当に声が出なくなる。Guy-Manuel de Homem-Christo や Pharrell Williams がプロデューサーとして参加しているのに、それが前に出てこない。オーケストラとROSALÍAの声が常に主役でいられるのは、その音楽的な重力があるからだ。
「De Madrugá」はウクライナ語とスペイン語で天上の愛と人間の愛の差異を歌い、馬に乗って突撃するような激しい合唱に変貌する。「各言語は異なる聖人の物語に対応している——世界中の聖女たちだ」とROSALÍA自身が語るように、14言語は技術的な挑戦ではなく、それぞれの文化圏への敬意の表れだ。
まとめ
MetacriticではMagdalena Bay の『Imaginal Disk』と並んで2025年最高評価を記録した。ただ、スコアより、このアルバムがポップの文脈で何をしたかのほうが面白い。ストリーミング時代の「短くて消費されやすい音楽」への明確な拒絶として、ROSALÍA は49分の組曲を作った。
「もし世界全体を一つの部屋に、一枚のレコードに収められるなら、そうしたかった」とROSALÍAは語っている。聴き終えた後、自分がどこにいるのか一瞬わからなくなる——そういう一枚だ。

