コンヴァージ(Converge)おすすめ新譜『Love Is Not Enough』レビュー|社会への怒りをカオティック・ハードコア(マスコア)で鳴らした充実作

コンヴァージ(Converge)おすすめ新譜『Love Is Not Enough』レビュー|社会への怒りをカオティック・ハードコア(マスコア)で鳴らした充実作 Hardcore Punk

Converge の『Love Is Not Enough』は、2026年にリリースされた11枚目のアルバムだ。Jacob Bannon(ボーカル)、Kurt Ballou(ギター・ボーカル)、Nate Newton(ベース・ボーカル)、Ben Koller(ドラム)——4人の生演奏だけで構成された全10曲。

バンド結成から35年。前作 Bloodmoon: I(Chelsea Wolfe との共同作・2021年)がエレクトロニカとクリーンボーカルを取り込んだ実験作だったとすれば、本作はその逆方向への振り切りだ。

Bannon は「リアリズムが今の音楽から失われている——特に自分たちのジャンルでは」と語っており、その信念を全10曲で実行した。

音楽性

前作 Bloodmoon: I との対比は鮮明だ。あちらが暗く静謐で実験的だったとすれば、本作は荒削りで前のめりで容赦がない。

Bannon が「他のどの Converge 作品にもないことをやった——アルバムが終わりに向かうにつれてどんどん強くなる」と語った通り、10曲は終わりに向かって加速し続ける。この「逆放物線」の設計が本作最大の特徴だ。

Bannon の声はこのアルバムでキャリア随一の生々しさを持つ。Ballou のギターと Koller のドラムが一切の迷いなく前に進む中、Bannon のスクリームが感情の断片として飛び込んでくる——Jane Doe(2001年)以来の「人間が限界で叫んでいる」感触が戻ってきた。

「完璧なテイクは時に野生を持っている。完璧に演奏されていない」という Bannon の言葉がそのまま録音に刻まれている。

Ballou のギターはこのバンドの和声的なコア部分でもある。彼が使う独自のダウンチューニングは、隣り合う低音弦の間に短2度の音程——半音のぶつかり——を意図的に生み出す設計になっている。そのチューニングから生まれる不協和音のリフが、コードを「解決させない」まま前に進む。落ち着く場所を持たず、常に緊張状態のまま疾走する——それが Converge の音楽に「崩れそうで崩れない」という独特の感触を与えている。

Koller のドラムは4/4のグリッドを軸に置きながら、フレーズの境界で細かいヨレを挿入する。前のめりのビートが Ballou の不協和音リフと噛み合うことで、そのグルーヴはさらに研ぎ澄まされる——それが Converge のドラムの本質で、本作でもその精度は落ちていない。

歌詞のテーマは現代社会における共感と思いやりの困難さだ。「スカベンジャー(食いものにする者たち)を払いのけながら、今日の自分たちが誰で、未来に何者になりたいかを問い直す」という Bannon の言葉が全10曲を貫いている。Jane Doe の個人的な痛みと違い、本作はより社会的・外向きで、怒りの対象が「世界」に向いている。

楽曲解説

Love Is Not Enough

2分22秒のオープニングにして、このアルバムの設計図が最初から全部見える曲だ。メタル的なリフの塊がそのままハードコアの疾走に変容する——その切り替えに理屈はなく、感情だけが動力になっている。

「現代の世界で共感と思いやりを持ち続けることの意味を問う」と Bannon は語っている。タイトルの「愛だけでは足りない」という命題は、ロマンティックな失恋ではなく、社会への誠実な怒りとして届く。

Gilded Cage

アルバムの中で最も「ノイズ・ロック」に接近した曲だ。Slint の『Spiderland』や Chat Pile 的なディストピア感が漂う。

Koller のドラムがここでは最も抑制的で、その抑制が Ballou のギターの歪みをより大きく聴かせる。アルバム中盤の静的な緊張として機能しており、この曲の後に続く後半の加速をより効果的にしている。

We Were Never The Same

アルバムを締めくくる最終曲。「Our price was the innocence gone, when we chose to not look away(見て見ぬふりをしなかったとき、その代償として失ったのは無垢さだった)」——この歌詞がバンド35年間の姿勢の総括として響く。

アルバム最長で、構成が最も複雑だ。加速し続けてきた10曲の終点として、ここでようやく「崩壊の後の静けさ」が訪れる。しかし完全には解決しない——「同じだったことは一度もなかった」という宣言のまま、アルバムは終わる。

まとめ

35年目で11枚目のアルバムがキャリア随一の生々しさを持つ——その事実だけで、このバンドが特別な場所に立っていることが伝わる。

Bloodmoon: I の実験から一転して「原点回帰」と呼ぶことも可能だが、それは正確ではないと思っている。35年分の怒りと誠実さが、荒削りなフォーマットに詰まっている。Jane Doe を知っている人にとっても、初めて Converge を聴く人にとっても、入口として正しい一枚だ。

カオティック・ハードコア(マスコア)のトップランナーとしての実力を、これ以上ないかたちで見せてくれたアルバム。

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