Floating Points と Pharoah Sanders と London Symphony Orchestra の『Promises』は、2021年にリリースされた46分1曲の組曲だ。
神経科学者のDJ・プロデューサーと、80歳のスピリチュアル・ジャズの巨人と、世界屈指のオーケストラ——その組み合わせが生んだ音は、どのジャンル名も途中で追いつかなくなる。
出会いには映画的な背景がある。Sam Shepherd(Floating Points)は Pharoah Sanders の作品に感銘を受け、Sanders から声をかけられ、食事や散歩を重ねた末に共同制作を提案された。
ロサンゼルスで合流したとき、Shepherd は「Pharoah のプロデュースを手伝いに来た」と思っていた。ところが Sanders は「君が作った曲をやりたい」と言い出した。Shepherd は2〜3日こもって9〜10曲を書き上げ、そのうちの1曲が「Promises」になった。
Sanders がスタジオに入ってきて、その断片を聴いた瞬間のことを Shepherd はこう振り返っている。「何かが違った。彼は頷きながら、『これだ』と言った」。
その夜 Shepherd はジョシュア・トゥリーまでドライブし、日が沈む中で録音を再生した。「これがレコードだとわかった」。
音楽性
Shepherd の電子音楽のキャリアは、シカゴ・ハウスとデトロイト・テクノに深く根ざしている。初期の作品ではドラムンベースや IDM の影響が前に出ていたが、今作ではそのすべてがトーンダウンし、弦と持続音だけが残った。
Pharoah との対話が、Shepherd のキャリアで最も落ち着いた一枚を生んだ。
全編を通して鳴り続けるのは、たった7つの音からなる短いピアノのモチーフだ。このモチーフは明確な調性感を持ちながら、トニックへの帰着を意図的に持たない——解決を約束しないまま、寄せては返す波のように繰り返される。
Pharoah のサックスは、そのモチーフと「完全な一致」を避けながら絡む。音と音の間の沈黙、ブレスの揺れ、キーを叩く金属音さえもが情報として空間に満ちている。John Coltrane との共演で磨いた手法とは別の技術だ。ここでの Sanders は「壁」ではなく「隙間」で語る。
ミックスの面では、ハープシコードとチェレスタの倍音が、アナログシンセの電子的な持続音と重なるとき、どちらが生音でどちらが電子音か判別できない「中間の質感」が生まれる。
ロンドン交響楽団の弦は Movement 6 で本格的に前景化するが、それ以前は「存在するかしないか分からない霧」として後景に漂う。弦は常に調性の縁を歩いていて、完全に崩れることも、完全に安定することもしない——その揺らぎがこのアルバム全体の不安定な美しさの正体だ。
聴き手はカタルシスを与えられないまま46分を過ごす。しかしそれがこの作品の力の源泉だ。
Mojo 誌はこのアルバムを Henryk Górecki のシンフォニーや Alice Coltrane の作品と比較し、「Sanders が80歳になってもなお、その炎が衰えていないことを証明している」と評した。
まとめ
本作が Pharoah の遺作となった事実を思えば、46分間は彼がこの世に残した最後の呼吸そのものだったのかもしれない。
音が消えた瞬間の静寂さえもが、音楽の一部として——いや音楽以上の重みを持って——残っている。
