ジェイムス・ブレイクおすすめ名盤『James Blake』レビュー|ダブステップとゴスペルが溶けた「引き算の美学」——テン年代最重要デビュー作

ジェイムス・ブレイクおすすめ名盤『James Blake』レビュー|ダブステップとゴスペルが溶けた「引き算の美学」——テン年代最重要デビュー作 Drum N' Bass / Dubstep

James Blake のデビューアルバム『James Blake』は、2011年にリリースされた。Mercury Prize にノミネートされ、Pitchfork は年間ベスト12位に選出した。

その年の The Weeknd と Frank Ocean のデビュー作と並んで、「2011年はこの三人が同時に出てきた年だった」と後に語られることになる。あの年に何かが変わったとすれば、このアルバムはその最初の証拠の一つだ。

Stereogum は10周年の節目にこう書いている。「James Blakeはデジタルな切なさの代名詞になった」と。その「代名詞」がどのようにして生まれたのかを、このアルバムは記録している。

Blake と Goldsmiths——ピアノ、ダブステップ、そして声

James Blake はロンドン・ゴールドスミス大学でポピュラーミュージックを学んだ。Erik Satie と Art Tatum を手本としてピアノを独学で習得し始めた少年が、Burial と Digital Mystikz のダブステップと出会ったことで制作を始めた。

Blake はこう語っている。「Joni Mitchell の『Blue』と Bon Iver の『For Emma, Forever Ago』を夜中に聴きながら、クラブのトラック ID を探し続けていた——その両方が自分の中に同時にあった」と。

2010年にリリースした3枚の EP では、自分の声はほぼ使わず、サンプルとボーカルのプロセシングのみで構成していた。しかしデビューアルバムでは一転、ほぼすべてのボーカルを自分の声で録音している。

「以前の EP がサンプルを使っていたのとは対照的に」と Blake は述べている。その選択が、このアルバムの「人間の声と機械の音の境界が消える」という音響的テーマを生み出した。

和声——ゴスペルとサティ、そしてダブの低音

このアルバムの和声的な特徴を一言で表すなら、「教会音楽とミニマリズムの交差」と言えると思う。

Blake はピアノの手本として Erik Satie を挙げている。Satie のジムノペディに代表される「装飾を排した純粋な和声の動き」——コードがゆっくりと変容していく静かな時間感覚——が、このアルバムのピアノに直接影響している。

ポイントは「コードをあまり変えない」ことだ。多くの曲が4〜5コードの範囲内でゆっくりと動く。普通ならそれは「単調」になる。しかし Blake はそれを逆手に取る。

コードが変わらない時間が長ければ長いほど、ボーカルの微細な動きやサブベースの侵入が、際立って聴こえてくる。「変化がないのに変化している」——そういう音楽の作り方だ。

加えて、ゴスペルの影響が大きい。「Measurements」のエンディングで複数の声が積み重なる場面は「黒人ゴスペル合唱団のようだ」と評されているが、あの「声が重なるほど感情が増幅される」感覚は、まさにゴスペルのハーモニーの語法そのものだ。

Erik Satie のミニマリズムとゴスペルの合唱——一見まったく異なる二つが、「引き算によって感情を増幅する」という一点で奇妙に一致している。

音の引き算——Brian Eno の証言

このアルバムの音響的な核心は、「何を入れないか」の設計にある。Brian Eno は Blake とのセッション後にこう語っている。「彼は私が共同作業した中で最も引き算的な音楽家だ。彼は断片を取り除き続け、音楽の骨格だけが残るようにする」と。

具体的な引き算の方法論はいくつかある。まずサイドチェイン・コンプレッション——ベースが入る瞬間に他の音が圧縮されることで、低域が「突然の重力」として機能する。

「Limit to Your Love」のウォブルベースが床から這い上がってくるような感覚は、その前の空白の大きさによって作られている。

そして最も根本的な引き算は「間(ま)」の設計だ。曲と曲の間だけでなく、フレーズとフレーズの間に、音符と音符の間に、意図的な沈黙が置かれている。その「何もない場所」が音楽的な重力を持ち、次の音を引き寄せる。

楽曲解説

Unluck

アルバムのオープナー。Autotune で処理されたボーカルが、ダブステップ的な不均一なリズムの上を浮遊する。最初は「スカスカ」に聴こえる。

しかし30秒後には、奇妙なリズムとシンセのうめき声が滲み出てきて、音楽が「内側から膨らんでいく」感覚になる。「引き算」の最初の提示だ。

The Wilhelm Scream

父 James Litherland の曲のカバー。柔らかいシンセトーンと徐々に大きくなるパーカッションが組み合わさり、「わずかに閉所恐怖症的なサウンド」を作り上げる。

「I’m falling, falling, falling, falling…」——「落ちていく、落ちていく、落ちていく」——という繰り返しは歌詞として単調に見えるが、Blake の「激情を抑えた届け方」がその繰り返しに切実さを与える。

終盤でコードがアルバム中で最も不協和になる——その直前の静寂との落差が、このアルバムで最大のカタルシスを生む瞬間だ。

I Never Learnt to Share

「My brother and my sister don’t speak to me / But I don’t blame them」——「兄と姉は私と口をきかない、でも彼らを責めない」——という孤独の告白。アカペラのボーカルから始まり、エレクトリックギターとキーボードが加わっていく構造だ。

3分40秒でサブベースのドロップが来る——その前の静けさと後の重さの落差が、このアルバムの「引き算が爆発に変わる」手法の最も鮮明な例だ。

Lindisfarne I / Lindisfarne II

アルバムの中心に置かれた二部構成。「Lindisfarne I」はアカペラ——Vocoder と Autotune で処理された声だけ。「Lindisfarne II」では同じボーカルにアコースティックギターと軽いパーカッションが加わる。

北イングランドの潮の満ち引きで島になる聖地リンディスファーンの名を冠したこの曲は、孤立と接続を繰り返す地形そのものを音楽にしている。アルバムの「声の実験」が最も純粋に出た場所だ。

Limit to Your Love

Feist のカバーでアルバムのシングル。シンプルなピアノとボーカルで静かに始まる。そこへウォブルベースが侵入する。

あの低音の「這い上がり方」の壮絶さは、前の「ピアノだけの空白」の大きさによって作られている。「空白を設計することで重さを増幅する」——このアルバムの音響美学の教科書だ。

Measurements

アルバムのクローザー。レイヤーされたボーカルが「黒人ゴスペル合唱団のように聴こえる」と評された通り、このアルバムで最も「声の集積」が達成されている曲だ。

最後に向かって声が重なり、静かに広がっていく——「Unluck」から始まったアルバムが「合唱」で終わる。一人から始まって多数になる——その弧がこのアルバムのもう一つの物語だ。

まとめ

「ピアノを弾く少年」と「ダブステップに開眼した学生」と「声で楽器を作るソングライター」が一人の人間の中に同居していた。その三つがそのまま音楽になったのが、このデビューアルバムだ。

また、Sampha、Moses Sumney、Kelsey Lu——「ピアノと声と電子音楽」という形式で感情を扱うアーティストたちのほとんどは、多かれ少なかれこのアルバムの子供だ。今作が与えた影響はあまりにも大きい。

このアルバムをジャンルで説明しようとすると、必ず失敗する。ダブステップでも、ゴスペルでもない。ただ、2011年以降の音楽の地図を書き直した一枚として、揺るぎない地位にある。

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