The Prodigyの『The Fat of the Land』は1997年6月にXL Recordings(UK)/ Maverick Records(US)からリリースされた3枚目のスタジオ・アルバムです。
ビッグビートとかレイヴとかいうジャンル名は後から知ったことで、最初は「このカッコイイ音楽は何?」としか思えなかった。パンクの攻撃性とクラブミュージックの反復が、こんな形で合体するとは。
Liam Howlettのプロダクションは、カオスに見えて実はかなり精密です。ブレイクビーツとディストーションギターが爆発しながらも、全体の流れがちゃんとコントロールされている。
Keith Flintの叫び声は「ボーカル」というより「もう一つの楽器」で、Maximのラップがストリート感を加えて、二人のキャラクターが全く違うのにどちらも「The Prodigy」にしか聴こえない。
音楽性
このアルバムのビートには独特の「重さ」があります。ドラムマシンで作られたビートなのに、生ドラムのような圧力がある。
その秘密はHowlettの「多重サンプリング」にあります。彼はビンテージのブレイクビーツを引っ張り出し、それにキックやスネアを重ねてレイヤーし、さらにシンセとエフェクトを追加する——この工程が「Prodigyらしい太さ」を生み出しています。
制作機材の中心はRoland W-30サンプラーワークステーション。Howlettはインタビューで「4ヶ月間、毎日ヘッドフォンをつけてW-30と向き合い続けた。外出もしなかった」と語っており、ほぼすべての曲のアイデアはW-30から生まれています。
後期にはAkai S3200サンプラーを追加し、ミックスはSteinberg CubaseとMacintosh Power Macで完成させた——1997年当時、DAWが本格的に普及し始めた最初期の時代に、Howlettはいち早くその可能性を掴んでいました。
ブレイクビーツの選び方にも、Howlettのルーツが出ています。「Breathe」のドラムはThin Lizzyの「Johnny the Fox Meets Jimmy the Weed」(1977年)からサンプリング。「Smack My Bitch Up」のリズムの核はジャズピアニストRandy Westonの「In Memory Of」(1973年)から引っ張ったドラム+ベースのレイヤーです。
1960〜70年代のジャズ、ファンク、ロックに遡るブレイクビーツを骨格にして、そこへ現代のシンセとエフェクトを被せる——その「古さと新しさの衝突」がProdigyのサウンドの正体だと思います。
楽曲解説
Smack My Bitch Up
タイトルだけ見ると身構えるけれど、曲が始まった瞬間にそんなことはどうでもよくなる。低域の振動がヘッドフォンを通して骨に響いてくる感じ。これを爆音で流せる環境を持っている人が羨ましい。
リズムの核はRandy Westonの「In Memory Of」からのドラムとベースで、そこにKool KeithのUltramagnetic MCsからのボーカルサンプルが重なる。MTVの調査では、この曲だけで25種類以上のサンプルが確認されています。
Breathe
シングルとして最も広く知られた曲で、「Breathe with me」というフックの即効性がすさまじい。ドラムブレイクはThin Lizzyの「Johnny the Fox Meets Jimmy the Weed」からで、The Breedersのギターリフをサンプリングしたうえでドラムマシンのキックが重なる。
パンク的なリフとダンスビートの中間のような感触は、この多重構造から生まれています。ドライブ中に流すと制限速度を忘れます(だめです)。
Mindfields
アルバムの中で少し毛色が違う一曲。ゆったりしたビートにメランコリックなメロディが乗って、暗いレイヴの深みを表現している。「Serial Thrilla」の猛烈な勢いの後に置かれているせいか、余計に沁みます。
他の曲が140前後のBPMを一定に刻むのに対して、この曲は周囲のビートが後退し、空間が広がる感覚があります。隠れた名曲。
Firestarter
「I’m the firestarter」という叫びは、理屈抜きで何かを解放させてくれる。怒っている時でも、疲れている時でも、この曲をかけると少し楽になる。それが何なのか、うまく説明できないけれど。
ブレイクビーツはE-mu SP1200が生成し、ギターリフはThe Breedersの「S.O.S.」から、冒頭の「Hey!」のサンプルはArt of Noiseからの引用です。1996年3月のシングルリリース時にUKチャート1位を記録し、The Prodigyの顔として先行した曲が、アルバムでは8曲目に収録されています。
まとめ
1997年に全英・全米同時1位を記録して、ロックファンからクラブキッズまでを一つにした事実は、今思うと相当おかしなことです。こんなに攻撃的で、こんなに間口が広いアルバムが他にあるか。
25年以上経った今もフェスで定番として機能しているのは、音楽的な深みより前に、単純に「体が動く」からだと思う。難しいことを考えなくていい。再生ボタンを押せば、あとは体が勝手に反応する。それだけの話です。

