スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)おすすめ名盤『Doggystyle』レビュー|殺人罪で逮捕されながら作り上げた、西海岸ヒップホップの金字塔

スヌープ・ドッグ(Snoop Dogg)おすすめ名盤『Doggystyle』レビュー|殺人罪で逮捕されながら作り上げた、西海岸ヒップホップの金字塔 Hip Hop

Snoop Doggによる『Doggystyle』を今あらためて通して聴くと、これが単なる「ヒップホップの名盤」という枠を超えて、90年代のロングビーチの空気そのものを真空パックしているように思えてきます。

リリースは1993年11月23日。Dr.ドレーが前作『The Chronic』で発明したGファンクという魔法を、スヌープという稀代のキャラクターを使って、よりポップによりギャングスタ感マシマシで完成させた一枚です。

制作背景

このアルバムの録音中、スヌープは殺人罪で逮捕されました。1993年8月25日、録音セッションの最中に第一級殺人罪で逮捕された。

実際に引き金を引いたのはスヌープのボディガードで、スヌープは車を運転していた。スヌープは正当防衛を主張しました。

その逮捕後も録音は止まらなかった。エンジニアのChris「The Glove」Taylorはこう証言しています。「1時間遅れるたびに42,000ドルのコストがかかると言われた。トラックが外で待機していて、すぐ出荷できる状態だった」と。

殺人罪を抱えながら、1時間42,000ドルの締め切りプレッシャーの中で完成したアルバムが、これです。結局スヌープは1996年2月に全ての容疑が晴れました。

録音がスムーズにいかなかった別の理由もあります。Dr.ドレーはこうBehind the Musicで振り返っています。「スタジオを何度も追い出された。俺たちの『楽しみ方』をスタジオのスタッフが理解できなかった」と。

大量の煙と大量の人間と大量の騒音——そのせいでバンドは何度も会場を変えざるを得なかった。

リリースパーティーは1993年11月22日、マリナデルレイから出航するヨット「Lord Hornblower」で開催されました。Coolio、Queen Latifahなど多数のセレブが乗船したが、すぐに定員オーバーになり、予定の航海を完了できなかったそうです(笑)。

翌日のリリースから1週間で80万6千枚を売り上げ、デビューアルバムとしてビルボード200に初登場1位という記録を作った。この記録は今でも破られていません。

音楽性

このアルバムのGファンクは「サンプリングより生演奏」という哲学で作られています。

Rolling Stoneが1993年のインタビューでドレーについてこう書いています——「ドレーのサウンドは、クリーンで、エッジが効いていて、深くファンキー。ゆったりしたビッグビートが特徴で、サンプリングではなくスタジオで作られたギターとベースで動いている」と。

つまりあのGファンクの「ねっとりしたうなり」は、生のベーシストと生のギタリストが弾いたものだった。

70年代ファンクの構造をベースに、ドレーは三つの要素を組み合わせました。重くゆっくりした808系のドラムビート、うなるようなシンセのベースライン、そして甘くピッチを歪めたホイッスルのような高音シンセ。

その「低音の重さと高音の軽さの同時存在」が、Gファンクが「頭で聴く音楽」ではなく「体で感じる音楽」になる理由です。

そしてNate Doggの歌声が、この音響設計の「仕上げ」として機能しています。ギャングスタな歌詞の上に、あの滑らかなR&BのファルセットがN乗る——その落差がGファンクの「不道徳なのになぜか気持ちいい」という独特の質感を生んでいます。

正直なところ、今の価値観でこのアルバムのリリックを正視するのは、なかなか骨が折れます。ドラッグ、暴力、女性蔑視……スヌープ自身はこう語っています——「私は学士号の話なんてラップしない。私が知っているのはストリートライフだけ。全部現実の話だ」と。

それが言い訳になるかどうかは聴き手が判断することで、私にはわからない。でも、そんな「正論」をすべて霧散させてしまうのが、ドレーが仕掛けた極上のビートと、スヌープのあの「やる気のない天才」的なラップです。

当時の他のラッパーたちがなり立てるようにラップしていた中で、彼は一人だけ、ソファに深く沈み込んで喋っているようなレイドバックしたスタイルを貫いていました。

楽曲解説

Gin and Juice

西海岸の夕暮れそのもの。イントロのベースが鳴った瞬間に、ぬるい夜風が吹き抜ける感覚があります。

仲間と酒を飲み、くだらない話に興じる——そのどうしようもない「日常」を、スヌープの滑らかなフロウが最高のアンセムに変えてしまう。

後にスヌープはドレーとともに「Gin and Juice」を実際の飲料ブランドとして商品化しました。

Lodi Dodi

Doug E. FreshとSlick Rickの「La Di Da Di」のカバー。Slick Rickとスヌープが「蜂蜜のような魅力の下に複雑なリリックを隠す能力を共有している」と批評家に指摘されたのは、この曲があったからだと思います。

オリジナルへのリスペクトと、スヌープ流のGファンク解釈が同居しています。

Murder Was the Case

アルバムが持つ「陽気な悪友」の顔が、一瞬だけダークに歪む瞬間。死と信仰をテーマにしたストーリーテリングは、スヌープの低い声も相まって冷たいリアリズムを突きつけてくる。

この曲は後に1994年の短編映画に拡張され、その映画でスヌープは殺人容疑を巡る悪魔との契約を演じました——実際の殺人裁判と並行して公開されたという、なんとも奇妙な状況でした。

What’s My Name?

Pファンクの香りが立ち込める中、「スヌープ・ドギー・ドッグ」という名前を脳内に刻み込まれる一曲。このアルバムで最もGファンクの「高音シンセ」が際立っていて、あの耳に残るホイッスル音がスヌープのフロウと交互に出てくる構造が絶妙です。

言葉数は多くないのに、間の取り方だけでここまで人を惹きつけられるのかと、今聴いても舌を巻きます。

Ain’t No Fun (If the Homies Can’t Have None)

Nate Doggのファルセットとクルーニングが最大限に機能している曲。

「うなるシンセ、バズるベースライン、Nate Doggの歌声が組み合わさって、体に密着するファンクの布を形成する」というMediumの批評がこの曲の本質を突いています。歌詞を深く読むと眉をひそめざるを得ないが、それでも首が動いてしまう。

まとめ

まだ若き日のドレーとスヌープが「ただ、かっこいいものを作ろう」と純粋な熱量(と、大量の煙)を注ぎ込んだ記録。

殺人逮捕、1時間42,000ドルのプレッシャー、スタジオ追い出し——そういう混沌の中から生まれたアルバムが、デビュー作としてビルボード200初登場1位という前人未到の記録を打ち立て、30年後もロングビーチの空気を運び続けています。

この1stアルバムがあまりにも名盤すぎて、それ以降のスヌープのアルバムが見劣りしてしまう。それくらいの金字塔です。

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