デフトーンズ(Deftones)おすすめ名盤『White Pony』レビュー|ビリー・アイリッシュが影響を公言、TikTokで再発見——今こそ聴かれるべきオルタナティブ・メタルの重要作を振り返り

デフトーンズ(Deftones)おすすめ名盤『White Pony』レビュー|ビリー・アイリッシュが影響を公言、TikTokで再発見——今こそ聴かれるべきオルタナティブ・メタルの重要作を振り返り Alternative Metal / Nu Metal

Deftonesの『White Pony』。このアルバムがなければ、Sleep Token、Loathe、Spiritboxといった現代のメタルバンドは存在しなかったかもしれない。

2000年6月20日。サクラメント出身の5人組が、ヘヴィミュージックの地図を静かに書き換えた。

リリース当時、ビルボード200で3位を記録し、「Elite」でグラミー賞のBest Metal Performanceを受賞した。でもこのアルバムの本当の凄さは、「ヘヴィでありながら美しい」という誰も解けなかった方程式を、完璧な形で解いてしまったことにある。

制作背景

このアルバムが生まれた背景には、バンドを取り巻く「逃亡」の意志があった。

1990年代末、DeftonesはKorn、Limp Bizkit、Papa Roachと同じ「ニューメタル」というカテゴリに押し込まれていた。ヴォーカルのChino Morenoはこう語っています。「俺たちがやりたかったのは、ニューメタルの『左』だった。ただ、俺たちは違うものを作りたかった」。

録音は1999年8月から12月にかけて行われた。プロデューサーは前作2枚に続いてTerry Date。

MorenoはDateについてこう語っています。「彼は父親のようだった。よい意味で。彼は曲を引き裂くようなことはしない。EQとマイクの配置に徹底してこだわる。俺たちはその姿勢に共鳴した」。

Date続投を決めたのは、Chi Chengのこの一言でした。「変化はバンド自身から来るべきだ。Terry Dateが変わる必要はない」。

セッションは難航しました。ツアー休止後、バンドはこれまでで最長となる4ヶ月をスタジオでの制作に費やした。アルバムに入れる曲が足りないまま録音を始めたということです。

最大の問題はMorenoとギタリストStephen Carpenterの衝突で、MorenoがThe Cureやトリップ・ホップ、シューゲイザーの質感を求め、Carpenterがヘヴィなリフとメタルのダイナミクスを求めた。

Terry Dateはこの対立についてこう言っています。「俺がやった最高のレコードは全部、何らかの衝突があったものだ。それが音楽を高いレベルに引き上げる」。その衝突の産物が今作の奇跡的なバランスを生んでいます。

「Change(In the House of Flies)」の誕生エピソードも印象的です。二人がスタジオでジャムをしているとき、テープが回ったままだったことで偶然録音された。MorenoはスローなバージョンをCarpenterはファストなバージョンを求め、Dateは両方のバージョンを作らせた。最終的にスローバージョンのMorenoのボーカルテイクがそのまま採用された。

録音の後半、バンドはハリウッドヒルズの大邸宅「The Devil House」に移り住んだ。Cunninghamはこう語っています。「夜中に目が覚めると、胸に圧迫感があった。本当に怖い場所だった」。

その「Devil House」のセッションで生まれたのが「Passenger」のMaynard James Keenan(Tool)との共演です。「彼が来て、俺とTerryとKeenanだけがスタジオにいた。2日間で完成した」とMorenoは語っています。

アルバムタイトルについて、Moreno はこう語っています。「White Ponyにはいろんな意味がある。コカインの隠語でもあるし、夢の中で白い馬が出てくると性的な夢だという話もある。でも俺にとっては、他の全てのバンドの中に混じった『白い馬』——俺たちの個性の象徴でもある」。

シンプルなジャケットは、ニューメタルの攻撃的で雑然としたアートワークへの意図的な「視覚的な中指」でした。

音楽性

このアルバムの核心は「密度と空白の両立」です。

ギターサウンドの設計が特徴的で、リズムギターは低域寄りのタイトなサチュレーションで空気を動かし、その上にコーラス・フランジャー・ディレイで処理されたギターが広がりを作る。この「重さと広がりの同時存在」がDeftones固有の質感です。

ドラムも独特で、「Digital Bath」のトムとスネアはリバーブが豊富に使われた「ウェット」な質感——密閉されたヘヴィロックのドラムとは真逆の、空間の中に鳴り響く音になっています。

Frank DelgadoがこのアルバムでDeftones初のフルタイムメンバーとして参加し、ターンテーブルとシンセサイザーを担当した。彼の存在がアルバム全体をシネマティック的な質感に引き上げています。

影響源として、Morenoが公言しているのはThe Cure、My Bloody Valentine、トリップ・ホップ全般。そしてCocteau Twinsの名も挙げており、Elizabeth Fraserが切り開いた「声を楽器として使う」耽美的な美学の残像が、このアルバムの浮遊するボーカルラインのどこかに宿っています。

楽曲解説

Feiticeira

オープニング。「Feiticeira」はポルトガル語で「魔女」。冒頭からCarpenterのギターはドロップDチューニング——開放弦の重力と絡み合うように、Delgadoのシンセが高域で薄く張り付く。

調性は意図的に宙吊りにされていて、マイナーとも言い切れない不穏なモード感がアルバムの空気を最初の数秒で決定する。Cunninghamのドラムが入ってくる瞬間に音の密度が一気に上がり、「このバンドは何者か」を言葉なしで説明しきっています。

Digital Bath

このアルバムの「夢想性」が最も凝縮された曲。浴槽で女性を感電死させるという歌詞が、信じられないほど穏やかなサウンドスケープの上で展開される。

ドロップDの低弦をほぼ動かさず、コードチェンジを最小限に抑えた進行が「沈んでいく感覚」を作っていて、Morenoのボーカルは囁きと倍音の多い高音の間を浮遊します。

暴力と美しさが同じものとして聴こえる、このアルバムの中でもひときわ秀逸な曲です。

Elite

このアルバム随一のストレートなメタル曲。Carpenterの要求が最も反映された曲で、2001年のグラミー賞Best Metal Performanceを受賞した。

「エリートになりたいなら、お前はすでにエリートだ」という逆説的なメッセージが印象的です。

Change(In the House of Flies)

スタジオで偶然生まれたという話が納得できる曲で、あのスローなビートはどこかから「設計された」感じがしない。

Aマイナー周辺を低く漂うベースラインの上で、Morenoのボーカルがほとんど旋律を持たない囁きから伸びやかな高音へと変容していく。コードが動くというより、音のテクスチャーが少しずつ変わっていく感覚——ヘヴィロックがここまで「動かないこと」を武器にできるという証明です。

Pink Maggit

アルバムの最後を閉じるのに、なぜこの曲でなければならないかは聴けばわかる。「Back to School」がレーベルの要求に応えたポップな表面を持つのに対し、こちらは同じ素材を引き伸ばして沈めたような作りで、エンディングの静けさに向かって8分かけてゆっくり消えていく。

ドロップDの低弦が持続音として空間を満たし、Morenoのボーカルが最後に残像のように消えていきます。

現代のポップミュージックへの影響

このアルバムの影響は、メタルとオルタナティブロックの外側にまで広がっています。

Billie Eilishは3rdアルバム『HIT ME HARD AND SOFT』(2024年)の制作にあたり、Deftonesを影響源として挙げています。「攻撃性と夢想性の同居」「重さと美しさの両立」——『White Pony』が確立した美学は、現代ポップの最前線にいるBillieの音楽観と深く共鳴している。

現代のメタルシーンでは、Sleep Token、Loathe、Spiritbox、ThornhillといったバンドがDeftonesの直系として語られています。「ヘヴィと美しいを選ばなくていいと気づかせてくれた」という声が繰り返し上がる——そのルーツとして、このアルバムの名前が必ず挙がる。

2020年の20周年記念には、リミックスアルバム『Black Stallion』が発表された。参加アーティストにはRobert Smith(The Cure)、Mike Shinoda(Linkin Park)、DJ Shadow、Clams Casino、Purity Ringが名を連ねた。The CureのRobert Smithまでが「このアルバムに応答したい」と手を挙げた——それがこのアルバムの射程の広さを物語っています。

2020年代に入り、このアルバムはTikTokを通じて新世代のリスナーに発見されています。「Change(In the House of Flies)」「Digital Bath」がTikTokで拡散し、リアルタイムでは存在していなかった10代・20代がこのアルバムに辿り着いた。

興味深いのは、TikTokで広がっているのが「ヘヴィな曲」ではなく「美しい曲」であること——「Digital Bath」の浮遊するボーカルが、ストリーミング時代の新しいリスナーに刺さっている。2000年にニューメタルとして括られたバンドが、2020年代にはシューゲイザーやドリームポップのリスナーに発見されているのです。

まとめ

でも難しいことを抜きにして言えば、このアルバムは「ヘヴィロックが苦手な人にこそ聴いてほしい」一枚です。

Billie Eilishが好きな人、My Bloody Valentineが好きな人、Cocteau Twinsが好きな人——「重い音楽は聴かない」と思っている人たちが、このアルバムで認識を更新させられる可能性が高い。

Morenoはこう言っています。「俺たちが何を作ろうとしているか全然わからなかった。ただ、作りたくないものだけははっきりしていた」。その「作りたくないものへの拒絶」がこのアルバムを作った。

今こそ『White Pony』を聴く時です。

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