エマーソン・レイク・アンド・パーマー(Emerson, Lake & Palmer)おすすめ名盤『恐怖の頭脳改革 (Brain Salad Surgery)』レビュー|FFの作曲家、植松伸夫も影響を認めたプログレ傑作

エマーソン・レイク・アンド・パーマー(Emerson, Lake & Palmer)おすすめ名盤『恐怖の頭脳改革 (Brain Salad Surgery)』レビュー|FFの作曲家、植松伸夫も影響を認めたプログレ傑作 Progressive Rock

エマーソン・レイク・アンド・パーマー(Emerson, Lake & Palmer)の『Brain Salad Surgery』は、1973年にリリースされた4枚目のスタジオ・アルバムだ。

プロデュースはGreg Lakeが担当した。英国チャートで2位、米国チャートで11位を記録している。

Lakeはこの作品を「最後の本物のELPアルバム」と呼んでいる。Emersonは「このアルバムを作ったとき、私たちはまだ上昇中だった」と語り、Palmerは「もし1枚を選ぶとしたらこれだ」と言い切った。

アルバムタイトルの由来は、1973年夏にヒットしたDr. Johnの「Right Place Wrong Time」の一節。「brain salad surgery」はジャズのスラングで、ドラッグや性的な意味合いを持つ俗語だ。

ジャケットはスイスのアーティストH.R. Gigerが手がけた、生体機械的なバイオメカニカル・アートだ。EmersonはGigerのチューリッヒのスタジオを訪れた翌日に「どうしても見てほしい」とLakeとPalmerに言い張ったという。

Gigerが映画『エイリアン』で世界的な名声を得るのは6年後のことだ。

また、ファイナルファンタジーシリーズの作曲家として知られる植松伸夫は、ELPを自らの音楽的影響源のひとつとして公言している。クラシックとロックの語法を横断するアプローチは、後のゲーム音楽の世界にまで波紋を広げた。

メンバー紹介

Keith Emerson(キーボード)

1944年イングランド生まれ。正式な音楽教育は受けておらず、独学でジャズ・ピアノ、バロック対位法、クラシック作曲を吸収した。Contemporary Keyboard誌の読者投票で5年連続「総合最優秀キーボーディスト」に選ばれ、殿堂入りを果たしている。

演奏技術と同じくらい特異だったのがステージパフォーマンスだ。ハモンドオルガンのキーに軍用ナイフを突き刺してノートを持続させながら演奏を続け、オルガンを逆さに倒して背中で押さえながら弾いた。

ときにはオルガンを馬のように乗り回すこともあった。これは単なる奇行ではなく、ナイフを鍵盤に固定することで半音のドローンを生み出す音響的な技法でもあった。

両手でまったく異なるスタイルを同時演奏する「垂直的なコントラスト」も彼の特徴で、左手がバロック的な対位旋律を弾く間に右手がジャズのリックを即興するような場面が、ELPの演奏には随所に現れる。2016年に逝去。

Greg Lake(ボーカル、ベース、ギター)

1947年イングランド・ドーセット生まれ。King Crimsonの初代ボーカル兼ベーシストとして『In the Court of the Crimson King』に参加後、1970年にELPを結成した。

ベーシストとしては、複雑な変拍子のアンサンブルの中でもラインが揺れないのが最大の武器だ。Emersonの奔放なキーボードを底から支える土台を担い、バンドの全アルバムをプロデュースし、作詞の中核も担った。2016年に逝去。

Carl Palmer(ドラム、パーカッション)

1950年イングランド・バーミンガム生まれ。The Crazy World of Arthur BrownとAtomic Roosterを経てELPに参加した。

Guildhall School of Musicでティンパニを学んだクラシック打楽器の素養を持ち、ドラムキットにティンパニ、チューブラーベル、テンプルブロック、マリンバ、そしてパーカッション・シンセサイザーを組み込んで演奏した。

1973年にはBritish Steelに依頼してステンレス製ドラムキットを特注制作し、総重量は2.5トンに達した。「Toccata」中間部の電子打楽器ソロは、ロック史における最初期の電子ドラムソロのひとつとされている。

制作背景

前作のツアーを終えたバンドは、ロンドン・フルアムの映画館を買い取ってリハーサルスペースに改造した。

Lakeはこう語っている。「テープレコーダーが8トラックから24トラックへと移行していた。新しい可能性を活用して多くのオーバーダビングを行ったが、3人編成のバンドとしてライブでもレコードと同じように聴こえることを確かめてから録音するようにした」

「Karn Evil 9」の歌詞を完成させるにあたり、Lakeは元King Crimsonの作詞家Peter Sinfieldを招いた。Emersonはこう説明している。「Gregはこの時期、自分が信頼できる誰かの影響を必要としていた。Peteは素晴らしいアイデアと詩行をたくさん持ち込んだ」

アルバム収録直前に権利問題が勃発した。「Toccata」はアルゼンチンの作曲家Alberto Ginasteraのピアノ協奏曲第1番第4楽章をELP流に編曲したものだったが、収録後に出版社から許可が下りないと判明した。

Emersonはジュネーブへ飛び、Ginasteraと直接会談した。Ginasteraが完成した編曲を聴いた後、自ら使用を許可している。

なお、英BBCはシングルとしてリリースされた「Jerusalem」をオンエア禁止にした。Lakeは「愛国的だとして何かを冒涜しているとみなされたのだと思う。私たちはできる限り誠実に演奏した。嘲笑は一切なかった」と語っている。

音楽性

このアルバムで際立っているのは、Palmerのドラムとパーカッションの幅の広さだ。「Toccata」の中間部に挿入された電子打楽器ソロは、8台のパーカッション・シンセサイザーを使ってPalmerが書いたものだ。

Palmerはこう語っている。「みんなEmersonがキーボードで弾いていると思ったが、実際にはロンドンで特注したカスタムの電気ドラムだった」——ロック史における最初期の電子ドラムソロのひとつとされている。

Lakeのベースはこのアルバムでも演奏の土台として機能している。「Karn Evil 9: 1st Impression」の複雑な拍子構造の中でも、Lakeのベースラインは揺れずにEmersonのオルガンとシンセサイザーの奔放な動きを支える。

Emersonが上空を縦横無尽に飛び回るほど、Lakeの低域が重要になる——そのバランス感覚がELPを「聴いていられる音楽」にしているんだと思う。

楽曲解説

Jerusalem

アルバムの1曲目で、Hubert Parryが1916年に作曲した賛美歌のELP版編曲だ。William Blakeの詩に基づくこの曲をELPが演奏するのは一見奇妙に思える。

Emersonのオルガンが原曲のピアノパートに取って代わり、大聖堂の合唱と轟くロックの中間にある何か奇妙なものを作り出している。

シングル版はBBCに放送禁止にされたが、その理由があまりにも曖昧——「愛国的すぎる」——で、かえって話題になった。

Toccata

Ginasteraのピアノ協奏曲第1番第4楽章を基にしたELPの編曲で、7分超の楽曲だ。前半はEmersonのピアノとバンドが原曲の激烈な音楽を再現し、中間部でPalmerの電子打楽器ソロが挿入される。Emersonのキーボードと見分けのつかないほど精巧な電子音が突然現れ、曲の性格を一変させる。

Ginastera本人が編曲を聴いた後に使用を許可したというエピソードは、この曲の仕上がりの説得力を証明していると思う。

Karn Evil 9: 1st Impression

「Karn Evil 9」全体の第1部で、アルバムのサイドAとBにまたがる形で収録されている。退廃し機械に支配された未来世界を描いたSF的な歌詞は、LakeとSinfieldの共作だ。

Emersonはこう語っている。「あの時代、私たちは何でもできると感じていた。音楽的にも、歌詞的にも、ビジュアル的にも、本当に全力で行った」

冒頭の「Welcome back my friends to the show that never ends」——このフレーズはELPのライブを象徴する言葉として定着した。Emersonのオルガンソロとシンセサイザーの応酬は、このアルバムで最も「速く、密度が高い」音楽だ。

Karn Evil 9: 2nd Impression

「Karn Evil 9」の第2部で、アルバム唯一の純粋なインストゥルメンタルだ。7分7秒、歌詞は一切なく、3人の演奏だけで構成されている。

前後の第1部・第3部が歌詞と物語を持つのに対して、この第2部だけが「音楽そのもの」に徹している。それが組曲全体の構造に独特の呼吸を生んでいる。

冒頭はEmersonのグランドピアノによるジャズ寄りのフレーズで始まり、途中でサンバ的なリズムのインタールードに突入する。

Emersonがシンセサイザーでスティールドラムの音色を模倣しているのに対し、Palmerは本物のティンパニやパーカッションで応じる。異なる音色が同じリズムを叩くことで、曲に奇妙な立体感が生まれる。

また、曲の中にはSonny Rollinsのジャズ・スタンダード「St. Thomas」からの短い引用が含まれていて、Emersonのジャズへの傾倒がここでも顔を出している。

Karn Evil 9: 3rd Impression

「Karn Evil 9」の第3部で、アルバムのクローザーだ。人間対コンピュータの最終対決を描いた歌詞は、今聴くとディストピア小説の一節のように読める——1973年の時点でこの内容を書いていたというのは、なかなか驚異的だと思う。

Emersonの声はここでモジュラー・シンセサイザーのリング・モジュレーターを通して加工され、「コンピュータの声」として使われている。アルバム全体を通じてEmersonが唯一ボーカルクレジットを得ているトラックだ。

曲の最後、コンピュータが「I’m perfect, are you?」と問いかけて幕を閉じる。

まとめ

Lakeが「最後の本物のELPアルバム」と呼んだこの作品の後、バンドは3年間の休止に入り、1977年の次作では各メンバーが個別のソロサイドを持つ形式に移行した。Lakeはそれを「ELPではなくなった」と評している。

このアルバムが「ピーク」として語られる理由は、3人が「個」としてではなく「バンド」として最も密度高く機能した記録だからだと思う。

29分の組曲、賛美歌、クラシックの編曲、アコースティック・バラード——あらゆる方向に広がりながら、それでも1枚のアルバムとして崩れていない。そのバランスは二度と再現されなかった。

タイトルとURLをコピーしました