アルヴェイズ(Alvvays)おすすめ名盤『Blue Rev』レビュー|ピッチフォーク年間ベストにグラミー賞ノミネート——カナダ産インディ・ポップの至宝

アルヴェイズ(Alvvays)おすすめ名盤『Blue Rev』レビュー|ピッチフォーク年間ベストにグラミー賞ノミネート——カナダ産インディ・ポップの至宝 Indie Rock / Indie Pop

Alvvays の『Blue Rev』は、2022年にリリースされた3枚目のアルバムです。メンバーは Molly Rankin(ボーカル・ギター)、Alec O’Hanley(ギター・キーボード)、Kerri MacLellan(キーボード・ボーカル)、Sheridan Riley(ドラム)、Abbey Blackwell(ベース)。プロデュースを Shawn Everett とバンド自身が担当し、全14曲39分です。

Juno Awards Alternative Album of the Year 受賞、Polaris Music Prize 候補、「Belinda Says」が第66回グラミー賞 Best Alternative Music Performance にノミネートされました。Pitchfork は Best New Music タグをつけ、同誌の年間ベスト・ソングで「Belinda Says」を1位に選んでいます。

5年の沈黙を経て帰ってきたバンドが、帰ってきた理由をそのまま音楽にしたようなアルバムです。

制作背景

5年というブランクは、Alvvays が望んだものではありませんでした。前作『Antisocialites』(2017年)リリース後まもなく次の曲を書き始めていたのですが、ある夜 Rankin の Toronto のアパートに泥棒が入り、デモ音源の入ったレコーダーを盗んでいった。

翌日には友人たちが慰めに集まる中、季節外れの豪雨でバンドの機材を保管していた地下室が浸水し始めました。「毛布や何でも手当たり次第に使って水を拭き取った。あの時家にいなかったら全部ダメになっていた」と Rankin は語っています。さらにパンデミックが追い打ちをかけました。

それでもパンデミック中、Rankin と O’Hanley、MacLellan の3人は週3夜、デモをひたすら弾き合いました。「あの3人で、本当に荒れた時代に何とかしようとしていた——それがこのアルバムの全曲を通じた共通の記憶だ」と Rankin は語っています。

2021年夏にワクチン接種が可能になり、初の対面セッションが実現しました。その高揚感の中で録ったのが「Pharmacist」です。「その後、あの曲を超えるヴァイブのテイクはどれもなかった。ギブリッシュが入っていても、あれを使うことにした」と Rankin は言っています。

秋には LA へ渡り、プロデューサーの Everett と本格的な録音を開始しました。Everett のアプローチは細部を緻密に設計するのとは逆で、バンドにテープに一気に弾かせることを優先したものです。「最終的にはデモを超えることができた——それは私にとって珍しいことだ」と Rankin は振り返っています。

音楽性

Alvvays のサウンドをひとことで言えば「ドリーム・ポップとシューゲイザーの交差点に立つメロディ職人」です。ギターにかかる分厚いリバーブとトレモロ、MacLellan の高く揺れるキーボード、Rankin の声の上に重なるエコーの層——その「ぼやけた甘さ」は前2作でも変わりませんでした。

しかし『Blue Rev』ではそこに鋭い歪みとアグレッシブな音圧が加わっています。柔らかくて、うるさい。その組み合わせがこのアルバムの質感を決めています。

影響源について Rankin は ABBA を筆頭に挙げています。「メロディが良ければ、たいていのことは許される」と彼女は語っており、その信念が14曲すべてに貫かれています。The Smiths のイントロの輪郭感(「Pressed」)、Belinda Carlisle のポップの透明感(「Belinda Says」)、Teenage Fanclub と Yo La Tengo のカレッジ・ロック的な倦怠感——これらが Cape Breton の土地の記憶と混ざり合うことで、このアルバム固有の質感が生まれています。

プロデューサーの Everett が持ち込んだ「直感を優先する」録音哲学が、曲のエッジを生かしています。Rankin は「出来の悪いギター・ソロや制御不能なボーカル・ディレイに、以前より抵抗がなくなった——何を失うというのか」と語っており、その開き直りがアルバムの爆発力の根拠になっています。

楽曲解説

Pharmacist

ワクチン接種後の最初の対面セッションで録った、アルバムの顔です。「あのセッションの後、同じヴァイブのテイクはなかった」という Rankin の言葉通り、分厚いシューゲイザーの歪みの中に「ようやく会えた」高揚感が染み込んでいます。Pitchfork の Quinn Moreland は My Bloody Valentine の『Loveless』と比較しました。

コード進行は Dメジャーを軸に動き、Gmaj7 への移行が浮遊感を作ります。ギターのトレモロが8分音符で揺れ続ける中、Rankin の声が中音域をまっすぐ押し進む——そのコントラストが「柔らかい衝突」として届きます。間奏の歪んだギターが轟音になる瞬間が、アルバムの「新しさ」を一番早く告げています。

Easy On Your Own?

「自分は変化しているのか、それとも停滞しているのか、どうやって判断すればいい?」という Rankin の問いから始まる曲です。アルバムの中で最もドリーム・ポップの甘さを正面から押し出していて、Rankin のボーカルが終盤に向けて力強く開花していきます。

Cメジャーを基調に Em と Am を経由する進行が、不安と安堵を交互に呼び込みます。過去と未来の間でどう立つか——アルバム全体のテーマが、この曲で最もクリアに聴こえます。

After the Earthquake

村上春樹の短編集『神の子どもたちはみな踊る』から着想を得た曲です。Rankin は「地震という大きな出来事の中で、一番前景に出てくるのは崩れかけた関係——それを書きたかった」と語っています。大きな混乱を背景に、ごく個人的な喪失が主役になる構造です。

Em を基軸に半音下降するコード進行が、じりじりとした不安定感を作ります。サビでメジャーに解決せず短調のまま着地するこの構造が、「救済のない感情」を和声として作り上げています。

Many Mirrors

「障害を乗り越えて、一緒にたどり着いたとき、まだお互いがそこにいることに驚く——それを歌っている」と Rankin は語っており、バンド内の絆がそのまま歌詞になった曲です。アルバムの中で最も純粋に「前向き」な曲で、その真っ直ぐさがかえって胸を打ちます。

Dメジャーの開放的な進行が、ギターのアルペジオと絡み合いながら上昇していきます。後半でコーラスが積み重なる瞬間、バンドというものの有機性が音として届いてくる——構造ではなく、音の重なり方がそのまま関係性の比喩になっています。

Belinda Says

Belinda Carlisle の名前を冠した曲で、Rankin は「Belinda Carlisle のポップの透明感を意識した」と語っています。実際に Carlisle 本人がこの曲に反応して SNS でハートを送り、Rolling Stone がそのやりとりを報じました。Pitchfork の年間ベスト・ソング1位、グラミーノミネートと、アルバムで最も広く届いた曲です。

「誰かが言ったとしても、誰かが言わなかったとしても、あなたはそれを感じるだろう」という繰り返しのフックが、聴くたびに違う感触で刺さります。Aメジャーを基調とするシンプルな進行の上で、MacLellan のキーボードが曲全体を柔らかく包む——その「シンプルさの正しさ」が、この曲の強さだと思っています。

 

まとめ

デモを盗まれ、機材を浸水させ、パンデミックに閉じ込められた5年間の末に、Alvvays は自分たちのキャリアで最も鮮烈なアルバムを作りました。その事実には、音楽的な意味以上の何かがあります。

「歌詞がどれだけ大学っぽくて人物中心でも、メロディが良ければ許される」——Rankin の ABBA への言及はそのまま、このアルバムの設計原理です。シューゲイザーの轟音も、ドリーム・ポップの霞も、最終的にはメロディを運ぶための乗り物に過ぎない。その乗り物が今回は前2作より大きく、速い。

39分で14曲。詰め込められた名曲の数々に胸が躍ります。

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