サンタナ(Santata)おすすめ名盤『天の守護神 (Abraxas)』レビュー|カルロス・サンタナの泣きのギターに酔いしれるラテン・ロック傑作

サンタナ(Santata)おすすめ名盤『天の守護神 (Abraxas)』レビュー|カルロス・サンタナの泣きのギターに酔いしれるラテン・ロック傑作 Classic Rock

Santana の『Abraxas』は、1970年にリリースされた2枚目のアルバムだ。メンバーは Carlos Santana(リードギター)、Gregg Rolie(キーボード・ボーカル)、David Brown(ベース)、Michael Shrieve(ドラム)、José “Chepito” Areas(ティンバレス・コンガ)、Michael Carabello(コンガ)の6人。全米アルバムチャートで1位を記録し、全世界で1,000万枚超を売り上げた。Rolling Stone 誌は2020年版「500 Greatest Albums」に334位で選出している。

カバーを飾るのは Mati Klarwein が1961年に描いた絵画「Annunciation」だ。Carlos が雑誌でこの絵を目にして「このジャケットしかない」と決めたという。タイトルの「Abraxas」は Hermann Hesse の小説『デミアン』から来ていて、善と悪の統一を象徴するグノーシス主義の神の名——その「対立するものが一つになる」という哲学が、このアルバムの音楽とぴったり重なる。

制作背景

Carlos は Fleetwood Mac のリーダー Peter Green のギタープレイに強い関心を持っていた。サンフランシスコのライブで彼の演奏を目撃し、「このギタリストのフレーズを自分のものにしたい」と思ったという。ふたりはともに B.B. King の影響を受けたギタリストでもあった。「Black Magic Woman」のカバーは、その敬意の直接的な結果だ。

「Oye Como Va」はティト・プエンテのカバーで、Carlos は彼のサルサ公演を観に行き、この曲のグルーヴにラテンとロックの接点を見出した。この2曲のカバー選曲が、アルバムの方向性をそのまま示している。

前作のデビューアルバムがウッドストックの直後にリリースされ一気に注目を集めた後、バンドはその勢いをスタジオに持ち込んだ。プロデュースは Carlos Santana とエンジニアの Fred Catero が担当した。

音楽性

このアルバムの音楽を一言で言えば、「二つの対立が一つになる」だ。ブルースのマイナー・ペンタトニックとラテンのパーカッションが、同じグルーヴの上で溶け合っている。どちらかが主役でどちらかが添え物ではなく、どちらも等しく前に出ている。

和声的には、マイナーキーの中でドリアン・モードを積極的に使うのが特徴だ。「Black Magic Woman」の D マイナーでも「Oye Como Va」の A マイナーでも、進行の中でナチュラルな長6度——ドリアンの「明るさ」——が差し込まれる。純粋なマイナーよりも浮遊感と官能性が出て、「暗いのに踊れる」という感覚が生まれる。それがこのアルバム全体を貫いている。

Carlos のギターは、そのドリアン的な旋律を「歌う」ように弾く。一音一音が長く伸び、フレーズの間に空白がある。その「声のように歌うギター」こそが、このバンドのサウンドの核だ。

Chepito と Carabello のパーカッション——コンガとティンバレスの二層構造——が複数のリズムを同時に鳴らす。その上で Shrieve のジャズ寄りのドラムが西洋的な4/4の軸を保つ。「二つのリズムが同時に鳴る」テクスチャの上を Carlos のギターが泳ぐ——この組み合わせが、このバンドの音の「広さ」を作っている。

楽曲解説

Black Magic Woman / Gypsy Queen

Peter Green の Fleetwood Mac 曲をカバーした前半部と、Gábor Szabó のオリジナル「Gypsy Queen」を続ける二部構成。前半の D マイナーは Dm・Gm・A7 という循環進行を基盤に、ドリアン的な6度(B ナチュラルから B フラットへの揺れ)が催眠的な効果を生んでいる。

「Oye Como Va」のドリアン進行と同じ色彩を、ここではより官能的なテンポで鳴らしている。後半「Gypsy Queen」では A♭メジャーへの転調が入り、同じ D マイナーの文脈に突然異質な光が差し込む。

聴いてほしいのはその転調の直後だ——Carlos のギターが A♭の空気に一瞬戸惑うように揺れてから、そのキーに馴染んでいく。あの感触が長尺を「長い」と感じさせない。

Oye Como Va

ティト・プエンテが書いたサルサの名曲のカバー。A ドリアン(Am と D の2コードのみ)で全編が構成されていて、このアルバムで和声的には最もシンプルだ。

コードが動かないからこそ、Carabello のコンガと Rolie のオルガン、Carlos のクリーンなリフが「同等の声」として絡み合える空間が生まれる。リズムとメロディの細部に耳が向く曲だ。Carlos のワウペダルの使い方がこのアルバムで最もフレキシブルで、コードの少なさが逆にアドリブの余白を広げている。

Samba Pa Ti

Carlos Santana 作のインストゥルメンタル。G メジャーを基調に、G・C・D・Em という穏やかな I – IV – V – VIm 進行で動く。後半にかけて Em への重心が増していき、メジャーキーなのに「切なさ」が増していく。

「明るいのに哀愁がある」——この二重性がこのアルバムの哲学を和声で鳴らしているような曲だ。Carlos のアルペジオはフラメンコのタッチから入り、中盤のソロでは一音一音のベンドに「泣き声」のような微分音が混じる。「声の代わりにギターが歌う」とはこういうことだ、と教えてくれる5分間だ。

Incident at Neshabur

Gábor Szabó との共作によるインストゥルメンタル。このアルバムで最もジャズ色が強く、拍子やコードが曲中で変化していく。Alberto Gianquinto のピアノが参加した唯一の曲で、Shrieve のドラムが最もジャズよりに振れている。「Oye Como Va」の2コードと対照的な、このアルバムの「複雑さの担当」だ。

まとめ

「Black Magic Woman」のヒットで「ラジオフレンドリーなラテンロック」として受け取られがちだが、表面の下にはドリアン・モードの浮遊感、複数のリズムが重なる複層構造、ジャズのインプロビゼーションが詰まっている。「わかりやすいのに深い」という稀有なバランスが、50年後も聴かれ続けている理由だと思う。

ジャケットの Abraxas が「善と悪の統一」を象徴するように、このアルバムはブルースとラテン、ロックとジャズ、シンプルさと複雑さが本当に「一つになった」瞬間を記録している。

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