プライマル・スクリーム(Primal Scream)おすすめ名盤『Screamadelica』レビュー|ロックとダンスの境界を消した1991年の傑作が30年経っても色褪せない理由

プライマル・スクリーム(Primal Scream)おすすめ名盤『Screamadelica』レビュー|ロックとダンスの境界を消した1991年の傑作が30年経っても色褪せない理由 Psychedelic Rock

Primal Screamの『Screamadelica』は、1991年にリリースされた3枚目のアルバムです。

プロデューサーにAndrew Weatherall、Hugo Nicolson、Terry Farley、The Orb、Jimmy Millerを迎えた全12曲・約63分の作品で、UKアルバムチャート8位を記録。第一回マーキュリー・ミュージック・プライズを受賞しています。

Pitchforkで9.3点、Rate Your Musicで4.05点の高評価を今も維持していて、「ロックの反骨とダンスの陶酔を繋いだ傑作」という評価は変わっていない。

ぶっちゃけロック好きの人がいきなり聴いてもピンと来ないと思います。私もそうでした。ダンスミュージックの魅力が分かってから聴くと、全然違って聴こえる。夜聴くのは最高だけど、天気の良い午後にビールを飲みながらダラダラ聴くのもまた最高です。

制作背景

事の発端は1990年、BrightonのレイブパーティーでバンドとDJ Andrew Weatherallが出会ったことです。

Creation RecordsのボスAlan McGeeはその夜を「raveが終わった朝11時、Weatherallが近づいてきて自己紹介した——あの夜は特別だった」と振り返っています。

WeatherallはバンドのEdie Brickellのドラムループや映画のセリフ、ボーカルの断片を組み合わせた曲「I’m Losing More Than I’ll Ever Have」のリミックスを依頼されました。

最初のテイクを聴いたバンドは不満を示した。ギタリストのAndrew Innesがひと言「ただぶっ壊せ」と言った——それだけです。

Weatherallはバンドの演奏をほぼ消し去り、ドラムループを引き抜き、映画『The Wild Angels』でPeter Fondaが喋る「We want to be free to get loaded」というセリフのサンプルを乗せ、ボーカル断片を組み込んだ。「リミックスというより再構成だった」——それが「Loaded」になりました。

「Loaded」はUKシングルチャート16位を記録し、バンド初のTop 20ヒットとなった。

ロック・ファンの多くは最初「こんなのPrimal Screamじゃない」と感じたが、クラブのDJがかけるたびにフロアが沸いた。このシングルの成功がWeatherallをアルバム全体のプロデューサーに引き上げ、「ロックとダンスの境界を消す」という路線が固まります。

Weatherallは「スタジオで大規模なプロデュースをしたことがない」と言い続けたが、誰も止めなかった——Weatherall自身も止めなかった。

アルバムの大半は1991年夏の6週間、ロンドンのFinsbury ParkにあるJam Studiosで録音されました。

「1990年頃にサンプラーを手に入れた瞬間、音楽が白黒からカラーに変わった」とInnesが語るように、サンプラーの導入がバンドの転換点になっています。「アシッドハウスを聴き始めてから、曲作りがメロディ中心からリズム中心に変わった。それがほとんどのロック・バンドとの違いだ」とGillespieは言っています。

制作中の状況については、McGeeが自伝にこう書いています——「基本的に週2日しか作業できなかった。水曜と木曜。木曜の夜から日曜までパーティー……2日労働週だ」。

「Movin’ On Up」のミックスについては、当初のエンジニアがセッション3日目で離脱するという事態が起き、GillespieはRolling Stonesの黄金期を支えたプロデューサーJimmy Millerを呼びました。

Millerは「Movin’ On Up」と「Damaged」を担当し、「Movin’ On Up」のパーカッション・セクションにはMillerが自らコカ・コーラの瓶を叩いた音が入っています。

「Screamadelica」というタイトル自体、誰かが出来上がった音を聴いて「ファンカデリックみたいだ」と言ったことから「Scream」と「Funkadelic」を合わせた造語として生まれました。

音楽性

このアルバムの音の作り方を一言で言うなら、Weatherallが「渡されたすべての素材を好きなように再配置した」ということです。

「メロディや曲、大量の素材を渡した。彼がどうにかまとめた。アレンジの技術は桁外れだった——誰も彼のような構成の仕方を思いつかなかった。私たちのメロディや音楽を、抽象的なポップソングに組み直してしまった」とGillespieは語っています。

Weatherallがスタジオに持ち込んだのは、ダブ・レゲエの「トラックを外してスペースを作る」という思想です。

ロックの文法では全員が弾き続けることが当然とされますが、Weatherallは「ドロップ(音が消える瞬間)」と「ビルドアップ(音が戻る瞬間)」をダンス・ミュージックのやり方で設計した。

その結果、バンドの生演奏とドラムマシンやシンセのループが「混ぜ合わさる」のではなく、代わる代わる前に出てくる構造が生まれています。

ギターのうなりや人力ドラムのスウィングが、ドラムマシンやディレイまみれのシンセと混ざって、アナログの温かみが空間をどんどん広げていく——あの感触は、この設計から来ています。

サンプラーのドラムループを基盤にしながら、その上に人力のドラムが乗ることで、機械の精確さと人間のスウィングが同居する独特の質感が生まれた。

「音の雰囲気」が曲順に応じてアップテンポのダンスから浮遊するサイケデリアへと交互に変化し、聴き終わる頃には体がふわふわしているのは、この緩急の設計が一枚を通して機能しているからです。

影響という点では、Beach Boys(『Pet Sounds』の柔らかさ)、70年代レゲエとダブ、Joy Division、Buzzcocks、Siouxsie and the Bansheesといった名前をGillespieは挙げています。

Pitchforkは「多くの人に似た音がするが、Screamadelicaに似た音は誰もしない」と書いていて、その評価は正確だと思います。

Mark Ronsonは「Loadedは私の人生を変えた曲のひとつ。当時ヒップホップしか聴いていなかったのに」と語っています。

楽曲解説

Movin’ On Up

ゴスペルっぽい高揚が一気に来るアルバムのオープナー。Jimmy Millerがミックスを担当した曲で、パーカッション・セクションにMillerが自らコカ・コーラの瓶を叩いた音が混ざっています。

「グルーヴとリズムへの執着がある人だった」とGillespieはMillerを評していて、あのホーンとハンドクラップのアレンジにそれが如実に出ています。

ドラムは4つ打ちに近いのにスネアの余韻が部屋中に広がり、キックのドンッとした推進力がある。ベースはルートをシンプルに刻みながらオクターブで跳ねて上昇感を出し、ギターはヴァースでクリーン、サビで歪んで唸る。

Rolling Stonesの「Exile on Main St.」期の空気を感じるのは、Millerがそのアルバムを作った人物だからでしょう。

Don’t Fight It, Feel It

Denise Johnsonのボーカルをフィーチャーした、アルバム中最もストレートなハウス・チューン。Gillespieは「Andrew Weatherallの傑作」と呼び、「エクスタシーでラッシュしている音だ」と表現しています。

The RonettesとPhil Spectorの「Wall of Sound」からインスパイアされたと言われていて、確かにあのコーラスの圧力にそれが聴こえます。

キックの深い太さが体に響き、スネアとクラップのシャープさが効いて、ハイハットの細かい刻みが止まらない推進力を生んでいる。ベースが滑らかにうねって開放感が増していく感じがクセになる。

Denise Johnsonのボーカルにかかるエコーが空間を埋め尽くすサビへの流れが自然でシームレスです。家で一人で聴いてもフロアにいる気分になるのは、この曲が持つ引力のせいだと思います。

Higher Than the Sun

このアルバムで一番好きな曲です。

The Orbがリミックスを担当した宇宙的なダブ・バージョンも存在しますが、アルバム収録版はより直接的な浮遊感があります。GillespieはNicoの『The Marble Index』を「ずっと聴いていた」と語っていて、あの幽玄さの影響がこの曲で最も直接的に聴こえます。

ゆったりしたテンポでシンセのレイヤーが重なり、ボーカルにディレイとリバーブがふわっとかかっている。ギターとメロディが溶け合って、どこまでも浮いていくような感覚がある。

曲順的に「Loaded」の後に置かれているのも絶妙で、ダンスのピークから漂うような浮遊感へ——この落差がアルバム全体の呼吸を作っています。

Loaded

原曲から残ったのは7秒分のみで、あとはWeatherallが再構成した曲。「リミックスというより再構成だった」という表現は正確だと思います。

タイトなキックとオープンハイハットが基盤で、クラップの厚みがグルーヴを固め、中盤のブレイクで一気に緊張が解ける。ベースはアシッドっぽくうねって低域を支配し、ギターのリフがディレイでエコーのように浮かんでいます。

ボーカルサンプルはピッチを変えて幽玄に響かせてあって、ライブドラムのスウィングがデジタルのループと混ざる感じがこの曲の快楽の正体だと思う。

「Loadedがクラブのフロアで爆発したとき、人々が後からハグしてきた」——Gillespieのその言葉が、この曲の引力を正確に表しています。

まとめ

Melody Makerのレビュアーはリリース直後に「ここで新しい言語が作られた」と書き、NMEは「時代の音楽的な基準点として記憶されるだろう」と書きました。

本人たちは驚いていた——「商業的な作品になるとは思っていなかった。Canの『Tago Mago』みたいに、クールなアンダーグラウンドのアルバムになると思っていた」とGillespieは語っています。

『Screamadelica』と『Nevermind』は同じ1991年にリリースされました。

グランジが「一人の部屋で聴く音楽」を作ったとすれば、このアルバムは「みんなで体験する音楽」の形を作った——と言えるかもしれない。

ロックの熱とダンスの持続力を融合させて「新しい夜の形」を作ったというのは、30年後の今もその通りだと思います。

タイトルとURLをコピーしました