スティル・ハウス・プランツ(Still House Plants)おすすめアルバム『If I don’t make it, I love u』レビュー|批評家達に絶賛されたポストロックの新鋭

スティル・ハウス・プランツ(Still House Plants)おすすめアルバム『If I don’t make it, I love u』レビュー|批評家達に絶賛されたポストロックの新鋭 Post-Rock / Math Rock

Still House Plants の『If I don’t make it, I love u』は、2024年4月にリリースされた3枚目のアルバムだ。メンバーは Finlay Clark(ギター)、David Kennedy(ドラム)、Jessica Hickie-Kallenbach(ボーカル)の3人。

Metacritic で90点。Pitchfork のベスト・ニュー・ミュージックを獲得し、The Guardian は「今のイギリスで最も重要なバンド」と書いた。

このバンドは、わかりやすくない。ギター、ドラム、ボーカルという最小限の編成で作られた音楽なのに、最初に聴くと「誰がどこにいるのか」がわからなくなる。でも聴き続けると、そのわからなさの中にしかない何かがある——そういうアルバムだ。

制作背景

3人はグラスゴー美術学校で2013年に出会い、翌年から音楽を作り始めた。最初のライブはオープン・ハウス・フェスティバルの一環として、ある集合住宅の一室で行われた。バンドが演奏している間、部屋に飾られた観葉植物は動かなかった——その光景からバンド名が生まれた。

このアルバムは3年かけて作られた。前2作のタイトルが「Long Play」「Fast Edit」と形式や技法への参照だったのに対し、今作のタイトルは「もし間に合わなかったら、愛してるよ」という感情の言葉だ。Hickie-Kallenbach によれば、タイトルの書き方は誰かが実際に送るかもしれないテキストメッセージを意図しているという。

制作にあたり Hickie-Kallenbach は、子供時代にワーキングクラスの環境で耳に入ってきた音——初期2000年代のR&B、ソウル、ジャズ——を意識的に掘り下げた。「かつてはそういう音楽から自分の音楽が来ていることを隠そうとしていた。今はそれを前に出すことにした」と彼女は語っている。

アルバムには Lesley キャビネット・スピーカーを通したギター、安価なDJソフトウェアを通したボーカル、スネアとギターのサイドチェーン処理など、アナログの技術が持ち込まれた。「各楽器を互いに近づけようとする試み」だったと Hickie-Kallenbach は言う。前2作よりも音が暖かく、丸くなったのはその結果だ。

音楽性

このバンドの音楽を言葉で説明しようとすると、すぐに限界が来る。ポスト・ロック、スロウコア、フリー・ジャズ、UK ガレージ——いくつかの言葉が引き寄せられるが、どれも正確ではない。Slint のような初期ポスト・ロックの角ばった質感と、ソウル・ミュージックの感情の直さが、同じ音の中に同時にある。

3人の役割は固定されていない。「ボーカルが前に出て、ドラムが駆動して、ギターが土台になる——そういう構造を私たちはずっと動かし続けている」と Hickie-Kallenbach は語っている。ドラムが旋律的な質感を持つ瞬間があり、ボーカルが繰り返されて打楽器のように機能する瞬間がある。Clark のギターについて彼はこう言う。「ただ金属と木材だ。ギターが何をすべきかにこだわりすぎない」と。

書き方はシンプルだ。「ひとつの小さなパートだけをきちんと書いて、あとは自由にする」という原則で動いている。その「きちんとした部分」と「自由な部分」のあいだにある緊張が、この音楽の独特の質感を作っている。

前2作と比べて、このアルバムは聴き手に対してより開かれている。Hickie-Kallenbach の声は深くなり、Clark のギターは豊かになり、Kennedy のドラムは強くなった。難解なことに変わりはないが、何度か聴けば道が見えてくる——そういう変化だ。

楽曲解説

M M M

アルバムのオープナー。ゆったりとしたドラムロールと、抑えたダウンストロークのギターから始まる。Hickie-Kallenbach が「I look up, I stood up, I hood up」というフレーズを少しずつ変えながら低く語り始める。同じ言葉の繰り返しが少しずつずれていき、気づかないうちに緊張が積み重なっていく。

「ただわかってほしい、ちゃんと見てほしい」というシンプルな言葉が、音の積み重なりの中でどんどん重くなる。最初の30秒でこのバンドが何者かが伝わってくる——そういう曲だ。

MORE BOY

スロウコアのように静かに始まり、中盤でうなるようなギターコードへと変貌する。Clark のトレモロ・アームを使ったよろめくような音が不安感を作り、その上を Hickie-Kallenbach の声が「I know that my body is all that my body is」と繰り返す。

「私の体は、ただ私の体でしかない」——自分の存在を肯定するような、あるいは諦めるような言葉だ。そのどちらにも聴こえるあいまいさが、この曲の核にある。

Sticky

このアルバムで最もラブソングに近い曲だ。「hearts turn sticky」「fever and pumping」——ギターとドラムが絡み合いながら、Hickie-Kallenbach の声がその間から浮かんでくる。3人が互いに反応しながら音を作っているという感触が、最も鮮明に出た曲だ。

「fever」という言葉を繰り返すときの Hickie-Kallenbach の声の質感が、この曲で忘れられない。音程よりも音色、言葉よりも息——彼女のボーカルの本質がここで最も直接的に聴こえる。

More More Faster

アルバムの最終曲。「Charging fully forward, I can see forgiveness」——「全力で前へ向かう、赦しが見える」という言葉を、Hickie-Kallenbach が何度も繰り返す。最初は荒削りで、徐々に暖かくなっていく。

最後、バンドの音が消えて Hickie-Kallenbach の声だけが残る。そこでようやく「赦し」という言葉が届く。10年間ともに音楽を作ってきた3人の時間が、この最後の数秒に宿っている。

まとめ

『If I don’t make it, I love u』は、すぐにはわからないアルバムだ。でも聴き続けると、どこかで何かが変わる。気づいたら、この音楽がないと行けない場所がある。

ギター、ドラム、ボーカルだけで作られた音が、3人の身体と時間の積み重ねとして届く。Pitchfork がベスト・ニュー・ミュージックを与えた理由も、The Guardian が「最も重要なバンド」と書いた理由も、聴けばわかる。ただ、聴く前には誰にも説明できない。

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