ウィーザー(Weezer)おすすめ名盤『Weezer(ブルー・アルバム)』レビュー|グランジ全盛期に陰キャのコンプレックスを鳴らした——90年代パワー・ポップ革命

ウィーザー(Weezer)おすすめ名盤『Weezer(ブルー・アルバム)』レビュー|グランジ全盛期に陰キャのコンプレックスを鳴らした——90年代パワー・ポップ革命 Pop Rock / Power Pop

Weezerの『Weezer』(通称Blue Album)は、1994年にリリースされたバンドのデビュー・アルバムです。

プロデューサーにThe CarsのフロントマンRic Ocasekを迎え、ニューヨークのElectric Lady Studiosで録音されました。

Billboard 200で最高16位を記録。リリース当初は「グランジとは何か違う」という戸惑いを持って受容される一方で、Rolling Stoneは「Rivers Cuomoは日常の細部をスケッチするのが巧い」と評しました。

米国内で5×プラチナ認定を取得(2024年時点)、ワールドワイドの累計売り上げは1500万枚以上。バンドのディスコグラフィーの中で今もっとも売れたアルバムです。

制作背景

Weezerは1992年、ロサンゼルスでCuomo(ギター・ボーカル)、Patrick Wilson(ドラム)、Matt Sharp(ベース)、Jason Cropper(ギター)の4人で結成されました。

当初はグランジに関心の高いオーディエンスに苦労しながらも、1992年に録音したデモテープがGeffen RecordsのA&R担当Todd Sullivanの目に留まり、1993年6月に契約を締結します。

バンドはもともとセルフ・プロデュースを希望していましたが、Geffenは首を縦に振りませんでした。

プロデューサー候補としてOcasek、Lenny Kaye、Sean Slade / Paul Kolderieの3名にテープが送られ、最終的にOcasekに決まった。CuomoはOcasek選定の理由を「The Carsの『Just What I Needed』を聴いて、自分たちもこういうサウンドにしたいと思った」と説明しています。

Ocasekにはひとつ条件がありました——妻の妊娠中だったため、ニューヨークを離れられないと告げた。そうしてバンドはElectric Lady Studiosへ飛ぶことになります。

Cuomoにとってこの選択には別の意味がありました。「KISSがここで録音したと知っていた。スタジオのトイレに初めて入ったとき、Ace Frehleyがこのトイレをかつて使ったんだと思った」と彼は語っています。

1993年8月8日にニューヨーク入りし、約1週間のプリプロダクションを経て録音を開始しました。

しかし録音中、ギタリストのCropperに問題が起きます。

彼女の妊娠が発覚し、精神的に不安定になったCropperは、Electric Ladyの屋上に上って叫ぶようになっていった。バンドの協力者Karl Kochは「『大丈夫』とだけ言って、20分後には屋上で叫んでいる」と振り返っています。

1993年9月12日、アルバムの録音が完成した直後にCropperはバンドを去り、翌日Brian Bellに連絡が入りました。

Bellが加入した後、Cuomoはすでに完成していたCropperの全ギター・パートを弾き直すと宣言します。

Ocasekは「そんなことはできない」と止めようとしたが、Cuomoは1993年9月24日の1日で、10曲すべてを各1テイクで弾き切ってしまいます。

BellはCropperのボーカル・パートを引き受け、ライナーノーツにはCropperではなくBellがギタリストとしてクレジットされています。

ただし「My Name Is Jonas」だけはCropperが共同作曲者としてクレジットされています。あのイントロのアルペジオはCropperが料理人の作業着を着たまま思いついた、という経緯があるからです。

なお、レコーディング前の準備としてバンドはバーバーショップ・カルテット(4声の無伴奏合唱)の練習を繰り返していました。

それまで歌ったことのなかったSharpは「Riversの1オクターブ上を歌わなければならなかった。繰り返し練習して、ようやくものにした」と語っています。あのコーラスの清潔感は、この地道な準備から来ています。

音作りのこだわり

このアルバムのサウンドには、録音前にCuomoとSharpが決めた厳格なルールがありました。

まず全面的なリバーブの禁止。これがあのカラッと乾いた直接的な質感の源です。唯一の例外は「Only in Dreams」の終盤に使われたわずかなディレイで、それ以外の全曲からエフェクトは排除されています。

次に、ギターとベースの全ダウンストローク統一。

エンジニアのChris Shawによれば、このアルバムの「唯一の絶対ルール」は「ギターとベースを1本の10弦楽器として扱う」ことで、多くの曲でベースがギターとほぼユニゾンで動いています。あの壁のような音の塊は、この設計から生まれています。

さらにギターの音量については「Radioheadの『Creep』のギターと同じかそれ以上にする」という指示がミックスに出されていました。

その結果、一部の曲ではボーカルがギターに埋もれるほどのバランスになっている。CuomoはOcasekから借りたGibson Les Paul SpecialとLes Paul Juniorを主に使用し、Ocasekがネック・ピックアップからブリッジへの切り替えを勧めたことで、あのブライトでジャリッとした音が生まれました。

「Buddy Holly」については裏話があります。

バンドは最後まで収録を渋っていました——ネタ曲に思われてアルバム全体が軽く見られるのではという不安からです。Ocasekがプリプロダクション中に猛プッシュし、「この曲を入れろ」という旨の看板まで作って訴えた。

ミックス中にエンジニアがスタジオの外に出ると、受付のスタッフがその曲を鼻歌で歌っていた——それで全員が確信した、という話が残っています。

楽曲解説

My Name Is Jonas

アルバムのオープナー。イントロの指弾きアルペジオはCropperがイタリアンレストランでの仕事を終えてコックのユニフォームのまま弾いたフレーズが起点で、Cuomoの兄が自動車事故の保険請求を却下された出来事が歌詞の背景にあると言われています。

キーはGメジャー。アコースティックのイントロから電動のパワーコードへ一気に加速する冒頭の動きが、このアルバムの世界観をそのまま宣言している——繊細なのに熱い、というバランス。

間奏のソロがポップからブルージーに切り替わって、ラストのユニゾン・コーラスで一気に持っていかれる。曲のリズムには3拍子的な揺れが混ざっていて、単純な4つ打ちのロックとは少し違う体の動かされ方をします。

Buddy Holly

アルバムのシングルであり、最もよく知られる曲。

Spike JonzeによるMVは「Happy Days」の映像にバンドを合成した作品で、そのMTVでの爆発的なヒットがバンドを一夜にして全米規模に押し上げました。

キーはAメジャー。8ビートにスウィング感を忍ばせた、このバンドにしか作れないポップです。「ooo-wee-ooo」のコーラスは、バーバーショップ・カルテットの練習が直接生かされたアレンジで、Sharpのファルセットがなければ成立しない。

バンドが収録を渋り、Ocasekが看板まで作って押し通した曲が、結局アルバムの顔になった。

Say It Ain’t So

Cuomoが4歳のとき両親が離婚したと思い込んでいた記憶、そして父親がアルコール依存症ではないかという恐れが、この曲の出発点です。

「フリッジに冷えたビールを見つけた。それは彼のもの? それとも彼女の?」という歌詞の断片が、まるでその日の記憶そのままに書かれています。

キーはEbメジャー(カポ1で演奏)。ヴァースは抑えたアルペジオで静かに始まり、サビで一気に爆発するダイナミクスが鮮烈です。

ブリッジのギターソロは「上手くないが切実」というバランスで、その不器用さがこの曲の核心だと思っています。過剰な技術は邪魔になる——感情の密度だけで成立する瞬間があります。

Only in Dreams

アルバムのクロージング・トラック。8分20秒という尺は、Weezerのディスコグラフィーの中でも「異例の忍耐力を持つ曲」として語られます。

全編を引っ張るのはSharpのベースライン——一定のパターンを繰り返しながら、曲の「語り手」として機能しています。

ギターはクリーンから徐々にノイジーになり、5分以上かけてクライマックスへ積み上がっていく。頂点を過ぎると、すべての音が引いていって最後にベースだけが残る。

夢が終わった後の現実の静けさ——そのエンディングの感覚は、聴くたびに少し寂しくなります。

まとめ

1994年当時、グランジが世界を支配していたその時代に、Weezerはリバーブもエフェクトも使わない乾いたサウンドで、コンプレックスをポップに鳴らすロックを持ち込みました。

Rolling Stoneの当時の評は肯定的でしたが、Village VoiceのRobert Christgauは「良くも悪くもない」評価を下し、反応は決して一色ではなかった。

しかし30年後、このアルバムはGen X、ミレニアル世代、Z世代の三世代にまたがって聴かれ続けています。

リバーブ禁止、全ダウンストローク、ギターとベースの10弦理論。あの「カラッとした壁の音」は偶然の産物ではなく、細かいルールの積み重ねで作られた。そしてその設計の下に、Cuomoの「ナードでいることを肯定する」歌詞が乗っている。

明るいメロディの裏に自己嫌悪が隠れているから、時代を問わず内気な人間に刺さり続ける。

高校時代、全く彼女ができなかった陰キャの私にとって、このアルバムは救いでした。Cuomoの「ダサい自分を愛して歌う」姿勢が、痛いほど共感できた。

明るいメロディで自己嫌悪を昇華するあの感覚は、ゲーマーでもSNS民でも、内気な人間なら時代を問わず刺さると思います。

ジャケット写真を撮ったのはPeter Gowlandというハリウッドの著名な写真家で、撮影はパシフィック・パリセーズの彼のスタジオで行われました。

Cuomoは「Blue Albumとか単にWeezerとか呼ばれるとは思っていなかった。無題のアルバムのつもりだった。みんながBlue Albumと呼び始めたのは、1年後のことだった」と語っています。

「クラスの三軍が集まってみました」という見た目のジャケットが、アルバムそのものの姿勢を正直に表しています。ちなみに私はクラスの五軍でした。

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