「Lahai」は、サンファ(Sampha)の祖父の名前であり、Sampha自身のミドルネームでもあります。
祖父には会ったことがなかった。でも、生まれた娘の顔に、亡くなった母親の面影を見た。
その瞬間に「命がつながっている」という感覚を初めてリアルに掴んだ——そういう経験がこのアルバムの核心にあります。
2023年10月リリース、前作『Process』から6年ぶりの2枚目。
制作の起点は2019年の末でした。Samphaはいくつかのデモを書き始め、その中の一曲がアルバムの背骨になるだろうという感覚を掴んだ。
「それがどういう感触なのかは言葉にしにくいけれど、分かるんです。感じで信じるしかない」と彼は語っています。
「Spirit 2.0」がその最初の手応えで、ここから制作が本格化した。ただしパンデミックと、父親になるという経験が重なり、アルバムの完成まで4年近くかかりました。
父親になったことが音楽にどう影響したかと聞かれ、Samphaはこう答えています。
「劇的に変わった。どう変わったかをちゃんと言葉にできるようになるまで、時間がかかった。
人生が変わるとき、その前がどうだったか思い出せなくなることがある」。前作『Process』が母親の死をめぐる喪失の記録だったとすれば、『Lahai』は喪失の先に見えてきた命の連鎖への眼差しです。
音楽的ルーツ
Samphaの音楽の出発点にあるのは、まずピアノです。ロンドン生まれ、シエラレオネ系の家庭で育ったSamphaにとって、ピアノは幼少期から親しんだ楽器で、ソングライティングの核が常にそこにある。
そのピアノへの信頼が、今作でも「Spirit 2.0」の軸になっています。
影響源として繰り返し挙げられるのはMarvin GayeとBabyface、そしてUK電子音楽シーンとの接続です。
Grime、2-step、ジャングルのリズム感覚——ウェスト・ロンドンとサウス・ロンドンの音楽的な蓄積が、ピアノとファルセットの土台の上に重なっています。
今作ではそこにウェスト・アフリカの音楽の語法も加わり、「命の連鎖」というテーマに地理的な奥行きが生まれました。
Yaeji、Little Simz、Ibeyi、ブラック・ミディのドラマーMorgan Simpsonらが参加した「コミュナルな作品」とSampha自身は表現しています。
ジャンルよりも感情的なテーマで人を集めたこの顔ぶれが、アルバムの音の多様性の理由です。
楽曲解説
「Spirit 2.0」は制作の起点になった曲で、アルバムの核心を凝縮しています。
エレクトロニカのビートが打鍵の細かいピアノと重なりながら、どちらも主役に出てこない。
複数の音が互いを補い合うその構造が、「命がつながっている」という主題の音楽的な体現です。
このアルバムで最も際立つ音響的な特徴は、Samphaのファルセットが弦のテクスチャーと境界線を失う瞬間です。
どこまでが声でどこからが楽器なのか判別しにくくなる——その「溶け込み」が、14曲の中でかつての自分・亡くなった家族・生まれた娘が時間を超えて共存しているという感覚を作っています。
「Suspended」では、自分の有限性・過去に失った人々・これから導いていく娘が同時に存在する。「自分の実存的な不安が娘の存在によって外へ向かい始めた」というSamphaの言葉が、この曲の音の「外へ向かう力」と完全に一致しています。
聴き終えたあと、しばらく自分の手のひらを見てしまいます。この手は誰かから渡され、誰かに渡していく——そういう感覚が、じわじわと後から来る。
まとめ
前作『Process』は母親の死への喪失の記録でした。6年後の『Lahai』は、喪失の先に見えてきた命の連鎖への眼差しです。祖父の名を冠したこのアルバムのタイトルが、会ったことのない祖父と生まれたばかりの娘を同時に指し示す——その構造がアルバム全体の主題を体現しています。
Marvin Gaye、Babyface、UK電子音楽、西アフリカの語法、そしてYaejiやLittle SimzやIbeyiというコミュナルな参加者たち——複数の音が互いを補い合う構造が「命がつながっている」というテーマと一致しています。
聴き終えたあと、しばらく自分の手のひらを見てしまいます。この手は誰かから渡され、誰かに渡していく——そういう感覚が、じわじわと後から来る。
