ボン・イヴェール(Bon Iver)おすすめ名盤『Bon Iver, Bon Iver』レビュー|全人類必聴!テン年代を代表するインディ・フォーク大傑作

ボン・イヴェール(Bon Iver)おすすめ名盤『Bon Iver, Bon Iver』レビュー|全人類必聴!テン年代を代表するインディ・フォーク大傑作 Folk / Country (Rock)

Bon Iver の『Bon Iver, Bon Iver』は、2011年にリリースされた2枚目のアルバムです。ウィスコンシン州フォール・クリークに Vernon 兄弟が廃業した動物病院を改装して建てた自前のスタジオ、April Base で録音されました。

あの孤独な小屋で生まれた前作とはまるで異なる質感を持ちます。それでいて、確かに同じ人間の声がそこにあります。

2011年のリリースから、このアルバムへの評価は止まりません。

グラミー賞では最優秀オルタナティブ・ミュージック・アルバム賞とベスト・ニュー・アーティスト賞の2冠を獲得。Pitchfork と Paste は揃って2011年のアルバム・オブ・ザ・イヤーに選出しました。

発売1ヶ月前に iTunes のミスで全曲が誤って流出するというアクシデントがあったにもかかわらず、初週で米国内104,000枚を売り上げています。音楽が本当に良ければ、どんな状況でも届く——そのことをこのアルバムは証明しました。

Phoebe Bridgers は10周年版にエッセイを寄稿し、Taylor Swift のフォーク転向はこのアルバムなしには語れません。Kanye West、Travis Scott といった全く異なるシーンのアーティストも Justin Vernon を呼び続けています。ジャンルを超えて、世代を超えて、聴かれ続けているアルバムです。

制作背景

Vernon はこのスタジオについて「幼少期の家から3マイルの場所で、両親が出会ったバーの10分圏内だ。このレコードに深く関わっている」と語っています。彼がスタジオで最初に手をつけたのは「Perth」でした。きっかけは偶然の悲劇で、ある映像作家と数日を過ごす予定を立てていた最中、彼の親友である Heath Ledger が急死したのです。

Ledger の出身地であるオーストラリアのパースという地名が、そのまま曲のタイトルになりました。それが「場所を通じて人と時間を描く」というアルバム全体のテーマへと広がっていきます。

前作『For Emma, Forever Ago』が一人でひっそりと作られた孤独の記録だったとすれば、本作は意識的にその対極を目指しました。Vernon は「私はたくさんの人間を呼び込んで、自分の声を変えた。歌声ではなく、このバンドの作者としての役割を」と述べています。

ベース・サクソフォンの Colin Stetson、ペダル・スチールの Greg Leisz、ストリングスとホーンのアレンジを担った Rob Moose——これだけの面々を招きながら、「私はレコードを自分で作った。ただ、彼らが場面を変えに来ることを許した」とも言う。この矛盾のような両立が、アルバムのサウンドに宿っています。

NPR のインタビューでインタビュアーは本作を「前作が冬なら、これは春だ」と表現しました。Vernon はその言い方に肯定しつつも、春というより「夏のキャンプ場のような感覚だった」と振り返っています。

音楽性

前作が削ぎ落としの美学だとすれば、本作はその逆、充填の美学です。ギター、シンセ、サクソフォン、ペダル・スチール、ホルン、多重ボーカル——これほどの音が積み上げられているにもかかわらず、窒息感がない。

各楽器が隙間を埋めに来るのではなく、空間を彫刻するように配置されています。ここが Vernon の才能の最たるものだと思います。

和声の設計において、このアルバムが一貫して選ぶのは「着地しそうで、少しだけずれた場所に降りる」進行です。「Holocene」は Db メジャーを基調としながら、Bbm への移行でほのかな翳りを帯び、Gb メジャーと Ab メジャーの往復が周期的な揺らぎを生む。

落ち着いているようで、ずっと揺れている。それが「Holocene」を聴いていると感じる、あの宙吊り感の正体です。

ボーカル・スタイルにおける Vernon の最大の特徴は、ファルセットと地声の境界を意図的に溶かすことにあります。「Perth」「Towers」では高音域のファルセットが曲を牽引し、「Hinnom, TX」や「Beth/Rest」ではずっと低い地声のバリトンが主役になる。

しかし本作でより印象的なのは、多重録音による声の層です。同じ声を何本も重ねて、それぞれに微妙なハーモニーをつける——この手法により、人間の声がオルガンや弦楽器に近い質感を帯びます。特に「Calgary」の冒頭では、ほぼアカペラに近い状態でこの多重ボーカルが展開され、その浮遊感は他に類を見ません。

Vernon は Auto-Tune を音程補正のためではなく、声に「霞がかかった」ような非人間的な質感を加えるために意図的に使っています。これについては批判の声もあります。

しかしその処理を通すことで声が風景の一部になるように聴こえる——インストゥルメンタルと歌声の境界が崩れる瞬間に、このアルバム固有の空気感が生まれています。

コーラス・ハーモニーの構造には Beach Boys との共鳴があり、ペダル・スチールの使い方はカントリーの伝統を引きながら全く別の機能を果たしています。Vernon が最もあからさまに敬意を示したのが、クロージング・トラック「Beth/Rest」における Bruce Hornsby への接近です。

「Korg M1 キーボードがこのレコードの形を決定づけた」と Vernon 自身が語っており、シンセ主体の80年代ソフト・ロックの音色がアルバムの掉尾を飾っています。前作の木造キャビンから、明朝のドライブに似合う都市の音へ——この振れ幅が、本作を単なる「フォーク」の枠から押し出しています。

楽曲解説

Perth

アルバムの幕開けを飾るこの曲は、冒頭数秒、実際のパース港の港湾音から始まります。そこへ行進曲テンポのスネアとエレクトリック・ギターが突き刺さるように入ってくる。

Vernon が「南北戦争風のヘヴィ・メタル曲」と表現した通り、フォーク・アルバムの冒頭曲としては奇妙なほど力強い。和声的には確たる調性を持たずに進む感覚があります。

ギターのリフは解決を求めて鳴っているのに、そこに乗るコーラスが引き留める。「Still alive who love you」というフレーズが3度繰り返されるとき、その感情は喪失と応援の中間どこかに浮いています。

Heath Ledger の死から生まれた曲だと知ってから聴くと、その宙吊り感がより深く感じられます。マーチング・スネアが終盤でクレッシェンドし、全楽器が重なり合う瞬間は、本作で最もカタルシスがある。

Holocene

本作のシングルであり、グラミー賞の「レコード・オブ・ザ・イヤー」と「ソング・オブ・ザ・イヤー」の両部門にノミネートされた曲です。「Holocene(完新世)」はポートランドにあるバーの名前であると同時に、現在進行中の地質時代の名称でもあります。

Vernon はこのタイトルについて「場所が時代であり、人が場所であり、時代が人でもある——そういう相互変換がテーマだ」と語っています。曲は Db メジャーを軸に、12弦ギターの指弾きから静かに始まります。

Bbm – Gb – Ab という進行が周期的に繰り返され、ブラシ・ドラムと微かなシェイカーが空気を撫でる。そのうえで Vernon のファルセットが「And at once I knew, I was not magnificent」——「そしてある瞬間、私は気づいた——自分は大したものではないと」——と歌います。

この一行が曲の核心です。自己の矮小さの肯定。しかし Vernon はこの「矮小さ」を嘆かない。「その無意味さの中に意味がある」と語っており、その逆説が曲全体に不思議な安堵感をもたらします。

Vernon の歌詞は文脈を持たない断片の積み重ねで成立していて、意味として解読するより、音の質感として受け取るよう設計されています。その不透明さが、むしろ聴き手自身の記憶や感情を投影する余地を作っています。

Towers

アルバム中盤の要となる小品です。アコースティック・ギターが中心で、英国フォークの薄暮感が Vernon 流の言語で書き直されたような佇まいがあります。

コーラスとバース(Aメロ)の間に明確な境界がなく、曲全体が一本の川のように流れます。ファルセットの上声部とハーモニーを担う声部が静かに絡み合い、「多重ボーカルが風景になっている」感覚が特に強い曲です。

歌詞の「tower」というイメージは、恋人なのか、ある種の孤立した力なのか、あるいは単なる建物なのか、最後まで明示されません。その曖昧さが曲の浮力になっています。

Calgary

Matt McCaughan と Vernon の共作によるこの曲は、本作で唯一の共同執筆楽曲であり、最も内省的な一曲だと思っています。冒頭はほぼアカペラに近い多重ボーカルのみから始まり、キーボードと薄いアコースティック・ギターが後から加わってくる。

和声的にはシンプルなループ進行ですが、その周回の中でボーカル・ラインが微妙に変容していきます。「Don’t you follow me(ついてこないで)」と「Don’t you swallow me(飲み込まないで)」という語句の変形が示す通り、言葉そのものも反復の中で意味を滲ませる。

Beth/Rest

Vernon が「自分が最も誇りに思う曲だ」と明言したクロージング・トラックは、それまでの9曲とは全く異なる音世界で突如幕を開けます。エレクトリック・ギターのコード、サクソフォン、厚みのあるシンセ——80年代のソフト・ロック、あるいは Bruce Hornsby の意図的な引用が始まる。

Vernon はアルバム全体を「自分が誰かとともに生きることに開かれていく過程」として描いており、「Beth/Rest はそこに辿り着いた場所——残りの人生を過ごせる場所だ」と語っています。前作の孤独な小屋から始まった Bon Iver の音楽が、ここで初めて「安らかに着地する」。その着地地点として80年代の陽だまりのようなサウンドを選んだことは、後になるほど腑に落ちます。

まとめ

孤独から生まれた前作と、その孤独を手放しながら作られた本作——どちらが良いかという問いは、たぶん意味を持ちません。Vernon は本作で「もっと多くの人間と、もっと密に作った」ことを選びました。

その結果として得たのは、豊かな音の充填であり、それでも残るある種の静謐さです。「Holocene」の中で彼は言いました。「私は大したものではない」。それが自己卑下ではなく、平穏な感覚として聴こえてくるのが、このアルバムの美徳。時代を越えて語り継がれるであろう大傑作です。

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