オウテカ(Autechre)おすすめ名盤『LP5』レビュー|RadioheadやAphex Twinも認めた、IDM最高傑作

オウテカ(Autechre)おすすめ名盤『LP5』レビュー|RadioheadやAphex Twinも認めた、IDM最高傑作 IDM / Glitch Pop

IDM(Intelligent Dance Music)という言葉があります。

1990年代初頭にイギリスで生まれた電子音楽のジャンルで、クラブで踊るためのテクノやハウスとは一線を画す、「聴くための電子音楽」として広まりました。Warp Records を中心に、Aphex Twin、Boards of Canada、Squarepusher——そういった名前がこのジャンルを代表しています。

「Intelligent」という名前は少し傲慢に聞こえるかもしれません。でも実際には「踊らせることより、音そのものを追求する」という姿勢を指しています。ビートは複雑に細分化され、メロディーは調性の外へ踏み出し、聴き手の「慣れた耳」を意図的に裏切る。

Autechre はそのIDMシーンの中でも、最も実験的な場所に立ち続けてきたバンドです。

『LP5』は、1998年に Warp Records からリリースされた5枚目のスタジオアルバムです。ジャケットにタイトルは一切印刷されていません。表面に「autechre」とエンボスが入っているだけで、あとはほぼ何もない。

だからこそプロモ盤では「Album」と表記され、後に「LP5」という通称が定着しました。この無題性はアルバムの態度と一致しています。説明しない。ただ、そこにある。

音楽性

本作で Autechre は、それまでの作品に漂っていた有機的な暖かみを削ぎ落とし、金属的な正確さと抽象的な広がりを取り込んでいます。感触の問題、と言い換えてもいいかもしれません。

このアルバムのリズムについて正直に言うと、初聴では何が起きているか全くわかりません。「Acroyear2」の冒頭から、ビートがどういう構造なのかを耳が見失う。細分化されたパーカッションが複数の周期で重なり合い、「ここが1拍目」という感覚を意図的に消しにかかってくる。

和声的に見ると、本作のシンセ・メロディーは奇妙なほど叙情的です。「Corc」の薄いシンセ・パッドは哀愁を帯びた色彩——A マイナーを基調にしながらも確たる解決を持たず、宙に浮いたまま終わります。「Drane2」の終盤では、ピッチを持たない音そのものが旋律として聴こえる瞬間があります。

ここでの Autechre は、和声という概念を音量・速度・密度に置き換えています。後のアルバム『Confield』(2001年)が完全に調性とリズムの解体へ向かうとすれば、LP5 はその手前で踏みとどまり、なんとか聴き手との接点を保っている最後のアルバムです。

難解なのに、飽きない。

それがこのアルバムの一番不思議なところです。初聴で何も掴めなくても、なぜかもう一度かけてしまう。2回目も3回目も、耳が違う場所に引っかかる。

「わかった」という瞬間が永遠に来ない代わりに、「また発見がある」という感覚が続く。そういう音楽は、そう多くありません。

楽曲解説

Acroyear2

アルバムの冒頭を飾るこの曲は、本作の名刺代わりとして機能しています。パーカッションの断片が先に鳴り、次第に輪郭を帯びたシンセ音が重なってくる。冒頭数十秒で「これはポップ・ミュージックの文法では動かない」と確信できます。

リズム構造はサブディビジョン(拍を細分する手法)を多用しており、複数のパーカッションが周期を形成して時々同期し、時々ずれます。わたしはこの曲が「ビートが歩いている」ように聴こえます。一定の速さで進んでいるのに、足が偶数ではない。

全体を聴き終えたあと最初に戻ると「ああ、冒頭の数秒は伏線だった」と感じる構成になっています。

Rae

アルバムの中で最もメランコリックで、最もゆっくりと展開する曲の一つです。FM 音源が前面に出る場面があり、その金属質で倍音の歪んだ音色が Autechre 特有の「暖かいのか冷たいのか判断できない」質感を生んでいます。

パーカッション音が一定間隔で鳴っているのに、下の周期が少し違う速さで動いているせいで、グルーヴが常にほんのわずかずれる。C マイナー的な色彩を持つシンセ・ラインが繰り返しながら微妙に変容し、7分以上を「長い」と感じさせません。これは稀な設計力だと思います。

Fold4, Wrap5

タイトルが示唆する「折り畳みと包み込み」は、そのままリズムの動きに当てはまります。グルーヴが一瞬「凝固」したように重くなり、すぐ元の速さに戻る——という感覚の往復が続く。

実際にはテンポが変わっていないはずなのに、体感として速くなったり遅くなったりする。この「速くなったり遅くなったりする」体験がこの曲で最も顕著で、4分という尺が短く感じません。

Corc

アルバムのなかで最も「静かな悲しみ」に近い曲です。シンセ・パッドの薄い層が積み重なり、パーカッションは控えめで、ほとんどアンビエントに近い質感で展開します。

和声的には短調的な色彩を持ちながら、解決する場所がありません。中心音に向かって動いているはずのコードが、いつも少し手前で止まる——着地しそうで、しない。この「宙吊りのハーモニー」は感情的な不安定さと奇妙な安堵感を同時に引き起こします。

Autechre がメロディーを前景に出す数少ない局面として、わたしにはこの曲が最も刺さります。

Drane2

アルバムのクロージング・トラックは、Autechre と Aphex Twin のあいだの暗黙の対話として生まれました。Sean Booth は「私たちは『Drane』という曲を作り、そこでは指数関数的に加速するディレイが起きていた。そのあと Richard(Aphex Twin)があの『Bucephalus Bouncing Ball』を作り、私たちは同じディレイの仕掛けをパーカッションに流し込んで『Drane2』として返した——一種のからかいとして」と語っています。

そのからかいが、11分間の構築物になっています。パーカッション音が加速し続け、次第にピッチを帯びた音へと変容し、最終的に崩壊する——そのプロセスを丁寧に、しかし容赦なく辿ります。

終盤で音が消え、沈黙が訪れる瞬間の静けさがたまりません。

まとめ

Booth と Brown はこのアルバムについて多くを語りません。機材名と制作手法の断片が散らばっているだけで、「何を表現したかった」という言葉はほとんど残っていない。それはおそらく意図的なことです。

でも、このアルバムを聴くと、何かが伝わってくる気がします。言語以前の何かが。それが電子音楽に可能なことの最も誠実な形の一つだと、わたしはこのアルバムを聴くたびに思います。

タイトルとURLをコピーしました