The Who の5枚目のスタジオアルバム『Who’s Next』は、1971年にリリースされました。全英1位、全米4位。Rolling Stone 誌の2020年版「500 Greatest Albums of All Time」では77位に選出されています。
このアルバムの本質を理解するには、Lifehouse という「失敗した夢」を知る必要があります。
Lifehouse の崩壊
1971年初頭、Pete Townshend は「Lifehouse」という壮大なマルチメディア・プロジェクトを構想していました。SF の物語を軸に、ロックコンサート、映画、観客の個人データをコンピューターに入力して生成する「宇宙的な和音」——スタジアムロックが観客と演者を切り離すことへの危機感から生まれた試みでした。
インターネットも仮想現実もない時代に、それらを予言するような発想でした。しかし誰にも伝わらなかった。バンドのメンバーでさえ概念を把握できず、マネージャーはヘロイン依存で機能しなくなっていた。
Townshend はニューヨークのホテルで Lifehouse を説明しようとしながら限界に達し、10階の窓から飛び降りようとした——アルコールによる不安発作の中で。「みんなが巨大なカエルに変形した」と彼は語っています。
プロデューサーの Glyn Johns が「Lifehouse は捨てて、普通のアルバムを作ろう」と提案しました。Townshend は渋々同意した。Lifehouse のために書いていた曲たちをそのまま並べ、「物語」を取り除いて「アルバム」にした。それが『Who’s Next』です。
「何でもいいから作れて安心した。単純でわかりやすいと感じた。物語が失われても気にしなかった。曲の並びが気に入った」と Townshend は語っています。
音楽性と和声
このアルバムを聴くとき、最初に気づくのはシンセサイザーの使い方です。「Baba O’Riley」の冒頭に鳴り響くオルガンをシンセに通したあのループ、「Won’t Get Fooled Again」のフィルター越しに押し寄せるシンセの波。1971年に電子楽器をロックに持ち込んだのは Townshend だけではありませんが、これほど「曲の骨格」として機能させたバンドはほとんどいませんでした。
和声的には、A メジャー、E メジャー、D メジャーといったシンプルなメジャーキーを基調にしながら、楽曲ごとに異なる「重心」を持っています。「Behind Blue Eyes」は Em で始まり E メジャーで爆発するという構造で、マイナーとメジャーの「二つの顔」をそのまま音にしています。
「Won’t Get Fooled Again」は I・IV・V のストレートな進行を、シンセの圧力と9分のダイナミクスで別次元に引き上げます。コードの単純さとアレンジの密度の差が、このアルバムの醍醐味です。
Keith Moon のドラムは、このアルバムで最もタイトかつ最もダイナミックです。「通常のドラマーが『ここはシンプルに』と判断する場所で、Moon は必ず何かをやる」——その予測不能性が、単純なコード進行を持つ曲でも聴き手を常に前のめりにさせます。John Entwistle のベースは対照的にどっしりと構えていて、Moon の乱流の中で「軸」として機能しています。
楽曲解説
Baba O’Riley
A メジャー。シンセに通したオスティナートループが、農村の孤独と広大さを同時に喚起します。Townshend がインドの精神指導者 Meher Baba と作曲家 Terry Riley の名を合わせてタイトルにした曲です。
「Teenage wasteland」というフレーズはサビではなくブリッジ部分に置かれています——アンセムになりすぎることへの意図的な抵抗だったかもしれません。後半にヴァイオリンを弾くのは Townshend 自身で、あの疾走するフィドルが Daltrey の声と絡み合う終盤は、このアルバムで最もカタルシスが高い瞬間の一つです。
Bargain
A メジャーを軸に、「俺は最善のものを手に入れるためなら何でも払う」という歌詞が重なるハードロック曲です。Moon のトム回しと Entwistle の重いベースが、Daltrey のボーカルを押し上げていく。
Townshend が言うところの「魂の取引」——自己を捨てて神(あるいは音楽)に帰依するという主題が、最もストレートに鳴っている曲です。
Behind Blue Eyes
E マイナーで始まり、E メジャーで爆発します。前半は三声ハーモニーだけで進む静謐な告白で、描かれるのは Lifehouse の悪役「Jumbo」の視点でした。
中盤の転換点で Moon がドラムに入ってくる瞬間は、このアルバムで最も「解放」に近い音が鳴る瞬間です。The Who のバイオグラファー Dave Marsh は「前半の Keith Moon が静止していた時間は、彼の人生で最も長い静止だった」と記録しています。
Won’t Get Fooled Again
A メジャー、I・IV・V のシンプルな進行。しかし9分間、この曲は一秒も同じ顔をしていません。Townshend のオリジナルデモで録音されたシンセのループがそのまま使用され、中盤でバンドが消えてシンセだけになる約1分間があります。
そこから Moon がドラムで戻ってくる瞬間、Daltrey が「YEAH!」と叫ぶ瞬間。あのシークエンスのために、この9分は存在しています。「革命も結局は長い目で見れば同じことの繰り返し」という Townshend の諦念が、あの絶叫と同居しているのが、この曲の矛盾した強さです。
まとめ
Townshend は最終的に『Who’s Next』について「安堵した」と語っています。失敗したプロジェクトの残骸から作られたはずのアルバムが、50年後もロック史の頂点の一つに置かれている。
Lifehouse は完成しなかったが、そこで書かれた曲たちは完璧に完成しました。崩壊の際に生まれた作品が、これほど力強い——それがこのアルバムの逆説的な美しさだと思います。