Gorillaz の『Demon Days』は、2005年にリリースされた2枚目のスタジオアルバムだ。UK アルバムチャートで1位、US Billboard 200 で6位。全世界で800万枚以上を売り上げた。
「Feel Good Inc.」は2006年のグラミー賞で最優秀ポップ・コラボレーション賞を受賞し、Rolling Stone と Pitchfork がそれぞれ2000年代のベスト・ソングに選出している。
Gorillaz は Blur のフロントマン Damon Albarn とアーティストの Jamie Hewlett が生み出した仮想バンドだ。ボーカル担当の 2-D、ベースの Murdoc Niccals、ギター/キーボードの Noodle、ドラムの Russel Hobbs——Hewlett がデザインしたアニメ上の存在だが、音楽の実体は非常にリアルだ。
Albarn はこのアルバムを「夜の世界を旅するアルバム」と呼んだ。各曲が個人の「悪魔」との対峙を表しており、暗い導入部から始まって最後の2曲で夜明けを迎える構成になっている。イラク戦争、ロンドン爆破テロ、消費文化への嫌悪——2005年の世界への私的な応答だった。
制作背景
Albarn がこのアルバムに向かったきっかけのひとつは、北京からモンゴルへの列車の旅だった。「奇妙で、忘れ去られた、誰も語らない中国の一角だった。目の届く限り、枯れた木々が続いていた」と彼は振り返っている。その荒廃した風景が、アルバムの暗く乾いたトーンに染み込んでいる。
プロデューサーに Danger Mouse を選んだのは、Jay-Z の『The Black Album』とビートルズの『White Album』を合体させた The Grey Album に惚れ込んだからだ。EMI がその配布を差し止めようとしていたにもかかわらず、Albarn は「今一番面白い若いプロデューサー」として彼を招いた。
もともと Gorillaz の続編は、Hewlett とともに制作を進めていた映画のサウンドトラックとして構想されていた。映画の企画は頓挫したが、そこで得たテーマ——エゴに支配された世界、終わりのない夜——はアルバムにそのまま持ち込まれた。
ゲストの選定には Danger Mouse の人脈が大きく絡んでいる。MF DOOM と Ike Turner は彼の友人で、この縁がなければ実現しなかった参加だ。De La Soul との「Feel Good Inc.」も、Albarn がインストゥルメンタルを送り、David Jolicoeur が一聴して即座にラップを書いたかたちで生まれた。
音楽性
ヒップホップ、オルタナティブ・ロック、ダブ、トリップホップ、ゴスペル——ジャンルを横断しながら、「夜の旅」というコンセプトが全体を束ねている。前作『Gorillaz』(2001年)が開放的で明るいトーンを持っていたとすれば、本作はずっと暗く、重い。
Albarn 自身が「前作はずっとシンプルだった。今回は複雑さのレベルが違う」と語っているが、その言葉は正しい。聴くたびに違う層が見えてくるアルバムだ。
リズムとグルーヴについていえば、Danger Mouse の貢献が大きい。ドラムマシンとライブ・ドラムを組み合わせた彼のアプローチが、ヒップホップのビート感覚をロックとダブの文脈に持ち込む。「Feel Good Inc.」ではベース・ラインが2オクターブ同時録音されていて、あの腹に来る厚みはそこから来ている。
「Dirty Harry」では子ども合唱団とヒップホップのビートが同居する。その組み合わせの奇妙さが、そのまま曲の政治的な訴えを強める。曲ごとにビートの表情が全く違うのに、アルバム全体でどこか統一感がある。それは Danger Mouse の耳によるものだと思う。
Albarn のボーカルは前作から大きく変わった。デビュー作では 2-D のキャラクターに寄せた叫ぶような歌い方が多かったが、本作では自分自身の声を選んでいる。「ゴリラズのデビュー作では 2-D のヤング・ヴォイスがあったが、今回は俺自身の声だ」と彼は語っている。
その声はウィスパーとメランコリーの間を漂うような質感で、暗い歌詞を押しつけがましくなく届ける。一方でゲストたちの声——De La Soul の活力、MF DOOM の技巧、Roots Manuva の重み——が Albarn の抑えたトーンと好対照をなす。「落ち着いたホスト」と「個性的なゲスト」のバランスが、アルバムを対話のように聴かせる。
和声の面では、アルバム全体に短調的な色彩が漂っている。「Last Living Souls」はレゲエ的なグルーヴに乗りながら短調が支配し、「El Mañana」は静かなアコースティック・サウンドでありながらやはり暗い。例外的に明るく聴こえる「DARE」も、歌詞は決して明るくない。
終盤の「Don’t Get Lost in Heaven」と「Demon Days」は同じコード進行を共有していて、2曲が一つの大きなクレッシェンドとして設計されている。Albarn 自身がそれを認めている。
このボーカル・ハーモニーは Beach Boys、特に Brian Wilson へのオマージュとして書かれた。「Beach Boys のメンバー全員が笑顔で歌っているのに、Brian Wilson だけ死ぬほど暗い顔をしている映像を見ていた。だから私は3声を笑いながら歌い、一声を本当にみじめな気持ちで歌った。そうしたらあのヴァイブが出た」——表面は明るく、芯は暗い。このアルバムをひと言で言い表すとしたら、そういう感じだと思う。
楽曲解説
Last Living Souls
「Intro」のサンプルが溶けるように消えていったあと、最初に聞こえるのは Albarn の問いかけだ。「Are we the last living souls?(私たちは最後の生き残りか?)」——この一文が、アルバム全体の問いを立てる。
レゲエ的なベース・ラインと、次第に密度を増すシンセとギターが交差していく。Albarn が曲のタイトルを叫ぶ終盤では、ダブのグルーヴとオーケストラ的な広がりが衝突する。その衝突がアルバムのサウンドの宣言でもある。
聴きどころは2分過ぎ、「Last Living Souls」という言葉を Albarn が初めて叫ぶ直前の静寂だ。音が一瞬ゼロに近づき、次の瞬間に溢れ出す。
Feel Good Inc.
De La Soul をフィーチャーしたアルバムのリード・シングルで、Gorillaz を代表するヒット曲だ。US ビルボード・モダン・ロック・チャートで8週連続1位を記録した。
あの冒頭の笑い声は De La Soul の Vincent Mason が「その日の音楽に笑っていた」ものをそのまま使っている。インストゥルメンタルを受け取った David Jolicoeur が即座にラップを書いた——そういうかたちで生まれた曲だ。
D マイナーを基調としていて、ベース・ラインが2オクターブ同時録音されているため、あの「腹に来る」厚みが出ている。Albarn のボーカルは浮遊するように乗り、De La Soul のラップとの対比が際立つ。
聴きどころは1分半過ぎ、De La Soul の最初のヴァースが終わり Albarn の「Feel good」が戻ってくる瞬間だ。あの一瞬で曲全体の構造が見える。
El Mañana
「明日」を意味するスペイン語のタイトルを持つ曲で、アルバムの中で最も映画的だと思う。アコースティック・ギターとストリングスが静かに積み重なり、Albarn が懇願するように歌う。
コード進行は短調を基調にしながら、ゆっくりと上昇と下降を繰り返す。Albarn のボーカルはここで最も「素」に近くて、9/11後の世界への個人的な不安と喪失感をそのまま音にしたような質感がある。
聴きどころは2分前後、ストリングスが最も膨らみ、次の瞬間に引いていく場面だ。その潮の満ち引きのような動きが「失われた楽園」というテーマと重なる。
November Has Come
MF DOOM をフィーチャーした曲で、アルバムの中でヒップホップの語法が最も純粋に出ている。DOOM は2004年11月——ブッシュが大統領選で再選された月——についてラップしているとされている。
DOOM のフロウは曲を完全に自分のものにしていて、Gorillaz がバックトラックを提供しているように聴こえるほどだ。技巧的な韻踏みとワードプレイは、このアルバムの中で際立って「ラップとして完成している」。
聴きどころは冒頭から。DOOM が「November has come(11月がやってきた)」と告げる最初の一声で、曲の重さが一気に確定する。
Demon Days
アルバムのクローザーにしてタイトル曲だ。ロンドン・コミュニティ・ゴスペル合唱団が参加し、「Don’t Get Lost in Heaven」と同じコード進行を共有することで、2曲が一つのクレッシェンドになっている。
歌詞は「悪魔の日々の中で、私たちはひどく冷えている / 善良な魂が生き残るのはとても難しい」と歌う——これがアルバムの結論だ。それでも希望がないわけではない。合唱団の声が積み重なるにつれて、夜明けの気配が漂い始める。
聴きどころはゴスペル合唱が初めて重なる2分過ぎの場面だ。それまでの14曲が全部ここに向かっていたと感じさせる。
まとめ
Kali Uchis、ASAP Rocky、Mura Masa が影響を認め、リリースから20年が経った今も聴き続けられている。「あの時代の音楽」ではなく、「今も鳴っている音楽」として存在している。
「世界が夜の状態にある」という Albarn の言葉は、今も有効だ。悪魔の日々は、まだ終わっていない。それがこのアルバムの恐ろしさだし、強さだと思う。
