「このアルバムはたぶん誰にも届かない。レーベルにドロップされても構わない」——Charli XCXが『BRAT』(2024年)を作り始めたとき、本人はそう覚悟を決めていたと語っている。
結果として届いた先は、Metacriticの歴代アルバム16位だった。
前作『Crash』(2022年)について、彼女は「メジャーレーベルのポップスターのコスプレ」と自ら呼んでいた。外部ソングライターを多用し、コラボレーションを重ね、「届ける」ことを優先した作品だった。
『BRAT』はその反動として生まれた。プロデューサーをA.G. Cook、George Daniel(婚約者でThe 1975のドラマー)、Finn Keaneの3人に絞り、東ロンドンのイリーガル・レイヴシーンに育った10代の自分へと立ち返った。
Billboard誌のインタビューで彼女は——「タイトな音の塊から、とにかくラウドでボールドなユニークなミニマリズムを作りたかった」と話している。
アルバム・タイトルの「BRAT」についてCharliはこう定義している——「ちょっとだらしなくて、パーティーが好きで、たまに馬鹿なことを言う。自分を信じているけど崩れることもある。正直で、率直で、少し揮発性がある」。
「Von Dutch」や「360」を聴けば、その「ミニマリズム」が何を指すかはすぐわかる。劇的な転調もなく、ドラマチックなサビもない。低音の反復とループが延々と続く。それはクラブのフロアで深夜に体験するトランス状態を、コード進行と音の設計だけで再現したような作りだ。
Vanity Fair誌のインタビューで彼女は——「地下アーティストであるべきか、商業的なパッケージになるべきかずっと葛藤してきた。でも『BRAT』の前に、その戦いをやめることにした」と話している。
その決断が最も剥き出しになっているのが「So I」だ。2021年に34歳で突然亡くなったプロデューサーSOPHIEへの追悼曲で、The Faceのインタビューでは——「彼女に圧倒されていたし、認められたかった。でも怖くて、スタジオの外で彼女の世界に踏み込む勇気がなかった」と打ち明けている。
曲中ではSOPHIEの代表曲「It’s Okay To Cry」のタイトルを引用し、クリスマス後に着信を見逃したかもしれない後悔が丁寧に描かれる。パーティーアルバムの中核に、こういう曲が座っている。
Caroline Polachekの書き方を参考にしたという「Apple」も、ミニマルな構造は変わらない。明るいハ長調にキャッチーなメロディ。初聴きから頭を離れない。
ただし、その平坦なコードの上で彼女は母と娘の連鎖について歌っている。ハイハットが四分音符を刻み続けながら、歌詞だけが揺れ動く。
A.G. Cookはこのアルバムを——「何かが自分自身と戦っている音」と表現した。ライムグリーンの表紙をスマホで自作するところから始まったビジュアルが、気づけば2024年の文化現象になっていた。

