アークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)おすすめ名盤『Whatever People Say I Am…』レビュー|レーベルも宣伝費もなく実力が広まった——UKロック史を塗り替えた衝撃のデビュー作

アークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)おすすめ名盤『Whatever People Say I Am…』レビュー|レーベルも宣伝費もなく実力が広まった——UKロック史を塗り替えた衝撃のデビュー作 Garage Rock-Revival
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UKデビューアルバムの初週売上記録を塗り替えて、Brit Award for Best British Albumを受賞して、世界中で「インディロック復権」の象徴として語られた一枚。

それが全部本当で、しかもそれだけじゃないのがArctic Monkeysの1st『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』だと思っている。

2006年1月にリリース。プロデューサーはJim Abbiss。初週363,735枚という記録は、その後長くUKデビュー作の最速記録として残ることになりました。

制作背景

このアルバムが出た時、すでにファンは全曲歌えた。

Arctic Monkeysはライブ会場でデモCDを無料で配り続けていた。ファンがそれをMySpaceにアップして拡散させた。レーベルも宣伝費もなく、音楽だけが広がった。

リリース前から収録曲が全部知られていた状況で、Jim AbbissがシェフィールドのパブにArctic Monkeysのライブを見に行ったとき、「観客全員が一言一句正確に歌っていた。新人バンドでこんな光景は見たことがなかった」と語っています。

翌日にはもうバンドを連れて、シェフィールドから車で1時間の場所にあるスタジオに入った。レコーディングはわずか15日間。

Abbissによれば「Riot Van」だけが大幅に再構築を必要としたけど、それ以外はバンドが持ってきた曲がそのまま機能したという。普通のバンドなら「期待に応えられなかった」で終わる状況だった。Turnerたちはそれを軽々と超えた。

音楽性

このアルバムのサウンドを一言で表すなら、「削ぎ落とした結果残ったもの」だと思う。

プロデューサーのAbbissが選んだのは、オーバープロデュースの真逆だった。ギターは二本、ベース、ドラム。余計なものを足さず、バンドがライブで出していた音をそのままスタジオに閉じ込めた。

Heldersのドラムが常に前のめりで、TurnerとCookの二本のギターが噛み合う瞬間の鋭さ。あの「生っぽさ」は意図的に作られたものだ。

影響源として名前が挙がるのはThe Smiths、The Clash、The Jam。でもそれ以上に、The StrokesやFranz Ferdinandといった同時代のガレージロックリバイバルの空気を「シェフィールドのパブの夜」というフィルターに通した音だ。

ニューヨークでもロンドンでもなく、工業都市の北部英語訛りで歌われたことで、輸入品ではなく自分たちの音になりました。

もう一つ際立っているのがスピードのメリハリだ。「I Bet You Look Good on the Dancefloor」や「Still Take You Home」が2分台で駆け抜ける一方、「Riot Van」や「A Certain Romance」では急にテンポが落ちて、別の景色が広がる。

速いだけじゃない、その「緩急」がアルバムを40分聴き通させる理由だと思います。

Turnerの歌詞という武器

このアルバムが時代を超える理由を一つ挙げるなら、歌詞だと思っています。音の速度でも勢いでもなく。

シェフィールドの夜、クラブの床、気取った偽インディバンド、路上の怪しい男。Turnerはそういうものを詩にした。ただ「記録」としてじゃなく「観察」として書いた。美化もしないし、見下しもしない。あの距離感がずっと引っかかっていた。

バンドの練習スタジオはシェフィールドの工業地区にあった。Turner自身がNMEで語っています。「夜中に練習を終えてギターを片付けていると、キャリーバッグを持った男が歩み寄ってきて『そのギター、いくらする?』なんて言ってくる」と。その経験が「When the Sun Goes Down」になった。

「Fake Tales of San Francisco」に出てくる三流バンドは、Turnerが働いていた会場で目撃した実物だ。プロが想像で書いた「夜の歌」じゃなく、夜の現場にいた人間が書いた報告書。そこが違う。

Abbissが「あの年齢であれだけの物語を歌詞に書ける人間を見たことがなかった」と語っているのは腹落ちする。詰め込みすぎて息が切れそうになるのに、ちゃんとメロディに乗る。Turnerにしかできないことだと思う。

楽曲解説

The View from the Afternoon

Matt Heldersのドラムが爆発した瞬間、引きずり込まれる。

Aマイナーを基調に、パワーコードの連鎖で突き進む。Aに着地するたびに「帰ってきた」感覚があるのに、すぐ別のコードを経由して飛び出していく——その「落ち着きそうで落ち着かない」動きが、夜に出かける前の高揚感とぴったり重なる。最高の幕開け。

I Bet You Look Good on the Dancefloor

UKシングルチャートで初登場1位になったArctic Monkeysの事実上のデビュー曲。

F#マイナーを基調に、パワーコードが下降するヴァース進行で駆け抜ける。コーラスではルートが上がってから落ちる——この「上がって落ちる」動きが、あの前のめりな高揚感を生んでいます。

Turnerは後に「退屈な曲、女の子が好きだっただけ」と言っているけど、あのリフはイントロが鳴るだけで体が動く。生意気さと自覚が同居した完璧な名刺だ。

Fake Tales of San Francisco

Boardwalkで目撃した「カリフォルニアにいる気分で演奏している三流インディバンド」への痛烈なアンサー。

歌詞の密度がラップに近くて、聞き取れた瞬間から笑えてくる。笑いながらもリフが頭に残るのがいい。TurnerとCookの二本のギターが高速で噛み合う瞬間の鋭さが、このバンドの演奏的な核心をよく示しています。

When the Sun Goes Down

アルバムで最も映画的な一曲。Neepsendの路上でTurnerが実際に見ていたものをそのまま書いた。

Bマイナーを中心に、ヴァースはシンプルな3コードで静かに始まり、コーラスで短調の中でも特に暗い動きに転換する。夜の工業地区の湿った空気がそのまま音になっている。静から爆発して余韻で終わる構成が完璧で、曲が終わるたびに夜のにおいがする気がする。

A Certain Romance

アルバムを閉じる曲として完璧すぎる。

スキニージーンズ、チェーンスモーク、地元のサブカルチャー——その「文化圏」への批判と愛情が同時に詰まっています。曲の後半でTurnerが静かに積み上がっていく。

Abbissによればこの曲だけはボーカルも含めて完全一発録りで、意図的に「壊れやすさ」を残した。最後の一音が消えた後の余韻が長い。

まとめ

このアルバムは「2006年のシェフィールド」という極めて具体的な場所と時間の産物だ。ガレージロックリバイバルの波もMySpaceの文化も、あのタイミングでしか出てこない。なのに日本のカラオケでも今も歌われています。

ローカリティを突き詰めると普遍に届く、というのはOasisでもNirvanaでも言えることで、このアルバムもそのひとつ。

ただそれ以上に、Turnerの書く観察の視点が「場所を選ばない」んだと思う。シェフィールドの夜を書いているのに、読む人間が自分の夜を重ねられる。その普遍性は場所じゃなく視点から来ている。

これを作った時、Turnerは19歳から20歳になったばかりだった。

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