ニルヴァーナ(Nirvana)おすすめ名盤『Nevermind』全曲レビュー|転調なしで感情を爆発させるカート・コバーンの作曲術と、デイヴ・グロールが明かしたドラムの秘密

ニルヴァーナ(Nirvana)おすすめ名盤『Nevermind』全曲レビュー|転調なしで感情を爆発させるカート・コバーンの作曲術と、デイヴ・グロールが明かしたドラムの秘密 Alternative Rock / Grunge

Nirvanaの『Nevermind』は、1991年にリリースされた2枚目のスタジオアルバムです。

プロデュースはButch Vigが担当し、最終ミックスはAndy Wallaceが担当。全米チャート1位・全英チャート1位を記録した。

Michael Jacksonの『Dangerous』をチャート首位から引きずり下ろした——そのエピソードが、このアルバムが何を象徴しているかを端的に表しています。

このアルバムを最初に聴いたのは10代の頃でしたが、何十年経っても聴くたびに発見がある。グランジの枠を超えて、ロックの歴史を塗り替えたこのアルバムについて、今改めて書きます。

メンバー紹介

Kurt Cobain(ボーカル・ギター)は1967年、ワシントン州アバディーン生まれ。

両親の離婚後に転々とした幼少期を経て、14歳でギターを手にし、17歳でMelvinsのBuzz Osborneと出会ってパンクとオルタナティブロックに傾倒した。

Nirvanaの実質的な作曲の中心で、このアルバムの楽曲の大半を書いています。メロディライターとしての才能とパンクの衝動を共存させた書き方は、90年代ロック全体に影を落とした。

1994年4月5日、シアトルの自宅で27歳で亡くなっています。

Krist Novoselic(ベース)は1965年、カリフォルニア州コンプトン生まれ。クロアチア系移民の家庭で育ち、10代でCobainと出会って意気投合した。

このアルバムではベースがドラムと一体化してリズムの骨格を作っていて、「Lithium」や「Come As You Are」のベースラインはそれ自体がほとんどリフとして機能しています。現在は政治活動に携わっています。

Dave Grohl(ドラムス)は1969年、オハイオ州ウォーレン生まれ。

ワシントンD.C.のハードコアパンクシーンで育ち、17歳でScreamに加入してプロとしてのキャリアをスタートさせた。1990年にNirvanaに加入し、このアルバムがレコーディングへの初参加となります。

Cobainの死後はFoo Fightersを結成し、現在も世界最大規模のロックバンドのひとつとして活動している。

独学で身につけた奏法と、ギタリスト・ソングライターでもあるという背景が、このアルバムのドラムの特異性の源泉になっています。

制作背景

DGC Recordsとの契約後、バンドはいくつかの著名プロデューサーの名前を提示されましたが、スマート・スタジオでのセッションでCobainと信頼関係を築いていたButch Vigを自分たちで指名した。予算は65,000ドル。

Vigが「デモをブームボックスで聴いたとき、『Smells Like Teen Spirit』のイントロだけで何か途方もないものがあると分かった」と語るように、録音開始前からその予感はありました。

セッションは1991年5月、カリフォルニア州ヴァン・ナイスのサウンド・シティ・スタジオで始まった。

Fleetwood Mac、Tom Petty、Neil Youngも録音したこのスタジオは、体育館ほどの広さを持つ部屋とNeveのコンソールで知られていました。

バンドはスタジオの近くのアパートに住み込み、毎晩ヴェニスビーチで夜明けまで過ごしてから午後4時頃スタジオに現れる——そんな生活を続けながら録音を進めた。

Vigにとって最大の苦労のひとつは、Cobainにボーカルのダブルトラッキングをさせることでした。

Cobainは自分の声を録音し直すことを極度に嫌がり、Vigはしばしば「音程がずれている」「マイクが調子悪かった」などと偽って再テイクを促したという。

一方でVigはCobainのボーカルをミックスの前面に出すことにこだわり続けた。

「君の声のパフォーマンスはドラムやベースやギターと同じくらい強烈だ。埋めることはできない」——Cobainはこの判断に最後まで納得していなかったけれど、それが結果的にこのアルバムの声の力を生み出しています。

録音が完了した後、Vigのミックスはレーベルとバンドのマネジメントに不満足と判断され、Andy Wallaceが最終ミックスを担当することになった。

Wallaceはボーカルにステレオアンビエンスとディレイを加え、スネアとキックにトリガーアンビエンスを薄く重ねて、楽器間のセパレーションを明確にした。

バンドはのちにこの洗練されたサウンドについて不満を述べていますが、Vigは「Andyがやったことは実に繊細だった。あのアルバムが信じられないほど大きく聴こえるのは彼のおかげだ」と擁護しています。

アルバムのリリース初週の出荷枚数は50,000枚。レーベルの目標は「Sonic Youthの『Goo』と同程度の250,000枚」だった。

しかし「Smells Like Teen Spirit」のMVがMTVでヘビーローテーションされ始めると、ヨーロッパツアー中に会場は危険なほど売り切れ、クリスマスまでに週400,000枚を売るアルバムになっていた。

1992年1月11日、Michael Jacksonの『Dangerous』を抜いてBillboard 200の1位になりました。

音楽性

このアルバムの和声的な特徴は、「シンプルなコードをどう鳴らすか」に全ての重点が置かれていることです。

「Smells Like Teen Spirit」はFm–B♭–A♭–D♭という進行で、ロックの文脈では特別珍しいものではない。しかし同じコードがクリーンとディストーションで交互に鳴ると、まったく別の感情的な重さを持つ。

和声そのものの複雑さより、音色と強度の変化によって感情の幅を作り出す——それがこのアルバムの設計原理です。

「Come As You Are」はFmをペダルポイントに置き続け、コードが動いても常にFmの引力から逃れられない閉塞感を作り出している。「Lithium」はE♭メジャーを中心に展開し、BメロとサビでGに解決する動きが「宗教的な高揚」から「崩壊」へのCobainの心理を的確に映しています。

転調については、このアルバムのほとんどの曲が単一の調性の中に留まっています。

転調ではなく、ダイナミクスとアレンジの変化だけで感情の振れ幅を生み出す——その手法が最も露骨に機能しているのが「Smells Like Teen Spirit」です。

AメロとサビでFm–B♭–A♭–D♭の進行はまったく変わらないのに、クリーンギターがディストーションに変わった瞬間、世界が爆発するように感じる。

転調という技法を使わずに、あれだけの落差を作り出しているのが本当にすごい。

Cobainが最も影響を受けたと公言していたのがPixiesです。

「Smells Like Teen Spiritを書きながら、Pixiesの曲を丸ごとパクろうとしていた」と後のインタビューで認めている。「ラウド/クワイエット」の構造はPixiesの『Doolittle』(1989年)が確立したものを引き継いでいます。

ただしCobainがPixiesと違うのは、爆発の瞬間が「ノイズ」ではなく「歌えるフック」で来ることです。

サビで必ずキャッチーなメロディを乗せる——その「ポップとパンクの接合」がアルバムの大衆的な強度を決定した。

MelvinsもまたCobainにとって重要な影響源で、Melvinsのヘヴィで緩慢なグルーヴと、Pixiesのポップなフックと、Neil Youngのギタートーン——この三つが混ざり合った結果がNirvanaのサウンドです。

後続バンドへの影響は、ロック史上でも有数の広さを持ちます。

WeezerのRivers Cuomoは「Nevermindを聴いた翌月に、The Sweater SongやMy Name Is Jonasを一気に書いた」と語っている。Foo Fightersはその最も直接的な継承者で、GrohlのラウドとクワイエットのダイナミクスはNirvanaの手法をよりポップに開いた形で90年代後半を席巻した。

ヘアメタルバンドブームを終わらせ、90年代のオルタナティブロックの地図を書き換えた——それが正確な評価だと思っています。

Cobainのボーカルスタイルは、このアルバムで完全に開花しています。

囁くようなファルセット混じりの声から、鼻にかかったハスキーなミドルレンジ、そして裏声寸前まで追い込む咆哮——この三つのモードを自在に切り替えることで、声そのものをディストーションとして使う。

「Come As You Are」のAメロはほとんど無感情なほど淡々としていて、サビに向かって少しずつテンションが高まる。「Smells Like Teen Spirit」の「Hello, hello, hello, how low」という問いかけは、抑揚を極力殺した歌い方でむしろ不気味さが増している。

そしてサビで解き放たれる瞬間——あの声の熱量の跳ね上がり方が、ラウド/クワイエットの構造を音楽以上のものにしています。

Dave Grohlのドラムは、このアルバムで最も語られることが少ない要素のひとつですが、実はこのアルバムのサウンドの核心です。

Grohlは独学のドラマーで、ギタリスト・ソングライターとしての背景を持つ。だから彼がドラムに向かうとき、「ドラムをメロディック・インストゥルメントとして扱う」という姿勢がある——フィルやグルーヴがすべて楽曲に奉仕する形で設計されています。

「Smells Like Teen Spirit」の冒頭4つのフラムは今や世界で最も認識されるドラムのイントロのひとつですが、あのフラムはディスコのリズムからの影響だとGrohlは明言しています。

「Nevermindを作るとき、The Gap BandやCameoやTony Thompsonから大量に引っ張った。全部ディスコだ。誰もそのつながりに気づかないけど」——グランジのバイブルの中に、ディスコのグルーヴが埋め込まれている。この秘密がたまらなく面白い。

Grohlはクリックトラックなしでアルバム全体を録音していて、ブレが一切ない。

AメロではライドシンバルとクロスティックでCobainのボーカルに空間を与え、サビで一気に解放する——その緩急の制御が「Lithium」や「Come As You Are」の楽曲全体の呼吸を作り出しています。

楽曲解説

Smells Like Teen Spirit

アルバムの1曲目にして、世界を変えた曲。冒頭のGrohlのスネアフラム4発が鳴った瞬間から、何かが始まる。

Cobainはのちに「Pixiesの曲を丸ごとパクろうとした」と言い、KristはこのリフがあまりにPixiesに似ていたので訴訟になると思った、と回顧している。

Cobainがここで確立したのは「誰でも歌えるサビ」と「何を言っているのか判別しにくいAメロ」の組み合わせで、歌詞の意味より声の質感で感情を運ぶという方法論です。

「Here we are now, entertain us」という一節は、世の中への怒りでありながら自分自身への皮肉でもある。あの二重性がCobainというアーティストの核心を1フレーズで表しています。

ギターソロはテクニックより音色の汚さが全てで、弾いているというより叫んでいる——それがこの曲の美学のすべてを体現しています。

In Bloom

2曲目。Butch Vigとのスマート・スタジオでのプリプロダクション・セッション(1990年)ですでに録音されていた曲で、アルバムで最も早くから存在していた楽曲のひとつです。

「自分たちの音楽の意味を理解せずに熱狂するファン」への複雑な感情を歌った曲で、Cobainは「彼は銃が好きで、歌に合わせて歌う。でも何を歌っているかは知らない」と書いている。

逆説的に、この曲自体がそういうリスナーにとって最もキャッチーなアルバムの一曲になっています。

Grohlのドラムが一番「大きく鳴っている」曲で、ミックスにおけるドラムの前面感が際立っています。

Come As You Are

水中にもぐるようなコーラスがかかったギターリフが印象的な3曲目。

Fmをペダルポイントに置き続けながら、曲全体が「逃げ出せない」感覚を作り出している。

Grohlはライドシンバルでクォーターノートを刻み、Cobainのボーカルに空間を与える。「大爆発しない」美学がかえって刺さる曲で、ピッキングの微妙な揺れに感情が宿っていて、聴くたびに違う感触があります。

「Come as you are, as you were, as I want you to be」——この受け入れと期待の矛盾が、静かなAメロの中に張り詰めています。

Breed

4曲目。全アルバムの中でも最もパンクの衝動がストレートに出た曲で、元のタイトルは「Immodium」。

1989年から存在していた曲で、デビュー作『Bleach』への収録を逃してこのアルバムに持ち越されました。

Grohlのイントロのスネアロールがそのまま爆発に転換する流れは、このアルバムのダイナミクス設計の一番シンプルな教科書だと思っています。

1992年のレディング・フェスティバルでバンドはこの曲でセットを開幕させた——「これで始める」という判断が、曲の持つ爆発力をよく物語っています。

Lithium

5曲目。ラウド/クワイエットの構造が最も精緻に機能している曲です。

クリーンのAメロでCobainは「I’m so happy, ‘cause today I found my friends」と奇妙な明るさで歌い、サビで歪みが爆発して「Yeah, yeah, yeah」と繰り返す。

Cobain自身の説明によれば「恋人を失った男が、自殺しないための最後の手段として宗教に頼る」という曲。同じコードで同じメロディが、音色だけで別の感情になる。

Grohlはサビごとにヒットの強度を微妙に上げていて、楽曲が進むにつれて少しずつ崩れていく心理を追体験するような感覚があります。

Polly

6曲目。アコースティックギター一本と囁くようなボーカルだけで成立するこの曲は、1987年にワシントン州タコマで実際に起きた拉致・性暴力事件を加害者の視点から書いています。

Vigは「アコースティックに録音したとき、その静けさがかえって暴力的に感じた」と語っている。

アルバムの爆音の中でこの曲が持つ静寂は、前後の曲の重さをさらに際立たせています。

Territorial Pissings

7曲目。冒頭でKristが「The Youngbloods」の「Get Together」を意図的に最悪な歌い方でカバーし、そのまま爆音になだれ込む。

Vigが「何か奇妙なものを入れよう」と提案し、Cobainが「最悪に楽しそうに歌え」と指示した。その冗談のようなイントロが、曲全体の荒々しさをより際立たせています。

Cobainはアンプを使わず、ギターを直接ミキシング・デスクに接続することで、ハードコア初期のノーバジェット録音を思わせる歪んだ音色を出した。Vigは目を白黒させながらも、その過負荷のサウンドを採用しています。

1991年12月のテレビ出演時、バンドはリクエストされた「Lithium」の代わりにこの曲を演奏。SNLでも演奏後にスタジオの機材を破壊するという事件を起こしました。

Drain You

8曲目。Cobainが「Smells Like Teen Spiritと並んでお気に入り」と言い続けていた曲。

ギターオーバーダブの数がアルバム中最多で、諸説ありますが最終的に11本ものギタートラックが重ねられたと言われています。

曲の中盤のインタールードではCobainがスタジオに持ち込んだゴム製のおもちゃで音を作り、Wallaceがディレイを加えた。歌詞は吸い取り合う共依存的な愛の解剖で、医療的なメタファーが徹底して使われています。

Lounge Act

9曲目。Cobainが当時交際していたTobi Vail(Bikini Kill)との関係を書いた曲とされています。

ベースのイントロがチープなラウンジバンドのようだということがタイトルの由来だという。

ベースラインがこのアルバムの中で最もグルーヴを前面に出していて、Novoselicのプレイの魅力が一番よく出た曲のひとつだと思っています。

嫉妬と執着の解像度が異様に高い歌詞で、「I’ll arrest myself, I’ll wear a shield」という一節に彼の心理が集約されています。

Stay Away

10曲目。当初「Pay to Play」というタイトルで、スマート・スタジオのセッション時から存在していた曲。

タイトルとともに歌詞も大幅に書き直され、「Monkey see, monkey do / I’d rather be dead than cool」という一節になった。

Grohlのフィルと、Cobainのリフの歪み方が一番アグレッシブな曲。曲の終盤での機材破壊的なカオスは、「Endless, Nameless」の縮小版のような迫力があります。

On a Plain

11曲目。「書き始めたとき何を歌えばいいか分からなかったので、それを歌詞にした」というCobainの自己言及的な曲。

「I’ll start this off without any words」という冒頭の一節がそのまま内容を宣言していて、メタ的なユーモアとパンクの爆発が同居しています。

「ジャーナリストに『クラシックな疎外感だ』と言ったけど、本当は早く帰りたかっただけだ」とCobainは冗談めかして語っている。そのいい加減さとキャッチーなメロディの落差がこの曲の魅力です。

Something in the Way

12曲目、アルバムの本編クローザー。音を極限まで削ぎ落として、動かないコードと低い声だけで成立させています。

Vigはバンド全体で録音しようとしましたが、「どれだけ静かに弾こうとしても、この曲の繊細さに届かなかった」と語っている。

最終的にCobainがコントロールルームのソファに横になりながら、ほとんど囁くように歌い、ギターも最小限の音で弾いた。ベースとドラムはその後にオーバーダブされています。

後半にチェロが入ってくる瞬間が、このアルバム全体で最も「光が差す」瞬間だと思っています。前の曲たちの爆音が残っているからこそ、この静けさが際立つ。

アルバムの感情的な結末はここです。

Endless, Nameless(隠しトラック)

「Something in the Way」の終了後、約10分の無音を経て突如始まる隠しトラック。CDの初期プレスでは収録されておらず、後からプレスされた盤から加わりました。

「Smells Like Teen Spirit」のMV撮影後、バンドがスタジオで即興セッションをしたときの録音です。

Cobainがマイクスタンドに向かって激しくギターを叩きつけ、最終的にほぼ全ての機材が破壊される。

「Something in the Way」の静寂の後にこの轟音が来ることで、アルバム全体の「静と動」の構造が最後にもう一度裏返される。

本編の終わりは「Something in the Way」ですが、Nirvanaという存在の正体はこちらにある気がします。

まとめ

こうして聴き直すと、『Nevermind』のすごさは「偶然のカリスマ性」ではなく、意識的なサウンド設計とポップセンスの結晶だということが改めてわかります。

後続のオルタナバンドはもっと実験的だったり歌詞が緻密だったりするし、Nirvana自身も『In Utero』でラフで尖った方向に舵を切った。

でも『Nevermind』が特別なのは、メジャーの予算とインディの精神が一度だけ共存したあの瞬間を、そのまま閉じ込めているからだと思っています。

このアルバムの核心はCobainの声にあります。

裏声寸前の叫び、鼻にかかったささやき、息の詰まるようなハスキー——ありとあらゆる声色を使い分けて、声そのものをディストーションとして扱う。

歌詞は断片的で意味より響き優先なのに、声の震えや息遣いだけで怒り、諦め、恍惚、無感覚のグラデーションが伝わってくる。

「壊したい」と「愛したい」の矛盾を同時に鳴らす才能。それがリスナーの心に直接届く理由だと思っています。

10代にとっての入口でありながら、20代・30代になっても聴き飽きない。

同じリフ、同じ叫び声なのに、人生のステージが変わるたびに違う刺さり方をする。それがこのアルバムの本当のすごさです。

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