Faye Webster の『I Know I’m Funny haha』は、2021年6月にリリースされた4枚目のアルバムだ。アトランタ出身のシンガーソングライターで、前作『Atlanta Millionaires Club』(2019年)から続くインディ・フォーク、カントリー、R&B の混合サウンドを、今作ではより内側へ、より静かに絞り込んでいる。
Metacritic で82点。リード・トラック「Better Distractions」はバラク・オバマが2020年のお気に入りの曲に選んでいた。
「笑えるし、刺さる」という感触が、このアルバムの中心にある。日常のどうでもいい話と、ひどく個人的な痛みが同じ鮮度で語られる——それが Webster の音楽のリズムだ。
制作背景
Webster はいつも曲を1曲ずつ仕上げながらアルバムを作っていく。ところがパンデミックで録音の段取りが変わり、スタジオに入れる期間が「まとめて2週間」に限定された。「いつもと正反対のやり方で、ずっとストレスだった。スタジオで精神的に限界になって、途中で帰った」と彼女は語っている。
残りのボーカルは自宅のベッドルームで録った。「ベッドルームで録る方が自然だし、好きだ」と Webster は言うが、今回はそれが選択ではなく必要に迫られた結果でもあった。
9曲目「Both All the Time」は当初バンドで録る予定だったが、Webster はスタジオで「みんなに出て行ってほしい、あなたたちがいると曲が壊れる」と言い、弾き語りに戻した。さらにアルバム提出の2週間前、「最初のデモの方がずっと良かった」として曲を差し替えた。収録されている「Both All the Time」は、ガタついた録音のデモだ。粗さの中にしか宿らないものがある、という判断だった。
制作中に Webster が最も聴いていたのは、日本のシンガー Mei Ehara だ。音の隙間を活かすアレンジ感覚——ストリングス、管楽器、ピアノが過剰にならず静かに呼吸する——がこのアルバムのサウンドに染み込んでいる。Ehara はアルバムの「Overslept」にもゲスト参加した。
音楽性
前作よりも内向きで、静かだ。その分、一音一音が近い。Webster の歌声が、耳のすぐそばで「私も同じことを思っていた」とつぶやいている感触——それがこのアルバムの核だ。
「誰もが思っているが誰も言わないことを言う。思ったことをそのまま言うモードになった」と Webster は語っている。このアルバムでは父親が泣き崩れるのを見た記憶と、家賃の敷金が返ってこない不満が、同じトーンで並んでいる。その「同じトーンで並ぶ」感じが、Webster の語り口の本質だ。
弦のアレンジは前作より意識的に豊かで、特に「Half of Me」では Webster 自身が「本当にうまくいった」と語っている。Mei Ehara の影響——音の隙間に弦を静かに置く感覚——が最も美しく出た曲だ。
楽曲解説
Better Distractions
アルバムのオープニング。ペダル・スティールと控えめなピアノの上を、Webster の声がゆったりと漂う。「友達に会いたいけど、みんな仕事と子育てで忙しい。あなたに会いたいだけなのに」という歌詞が、説明なしにそのまま寂しさとして届く。
コーラスで「Will you be with me?」と繰り返す声の、懇願とも諦めともつかない質感が忘れられない。静かなのに、ずっと耳に残る。
A Dream with a Baseball Player
Atlanta Braves の Ronald Acuña Jr. に片思いをしていた Webster が、そのままアルバムに入れた曲だ。「どうやって知らない人を好きになるんだろう」と繰り返す。笑えるし、刺さる——このアルバムの感触を一曲に凝縮したような曲だ。
ゆったりしたR&Bのリズムとサックスのアクセントが、夜中の独り言のような空気を作る。「おばあちゃんが死んで、自分のベッドじゃないから眠れなくて、それでも彼のことを考えてる」という歌詞が、その空気の中に乗る。感情の落差を笑いに変える Webster の語り口が、この曲で最も鮮やかだ。
Both All the Time
スタジオでバンドを追い出し、提出2週間前にデモに差し替えた——その経緯が音に出ている。ガタついた録音で、Webster の声だけが部屋の中に浮かぶ。完成度という概念が消えた場所に、何か本物がある。
アルバムの中で最も静かで、最も近い。弾き語りのデモとしか思えない粗さが、逆にこの曲を決定的にしている。
Half of Me
アルバムの締めくくり。弦楽アレンジが最も豊かで、Webster の声をそっと包むように弦が動く。Mei Ehara の影響が、ここで最も美しく出ている。
「あなたのことを半分だけ好きなのかもしれない」という言葉が、大げさな演出なしに最後まで揺れ続ける。静かに終わる。それで十分だ。
まとめ
Faye Webster の音楽は、うまく説明できないままずっと耳に残る。大事なことを言っているのは分かるけど、どこで何を言ったか思い出せない——そういう感触だ。
前作よりも内側に向かい、一音一音が近い。その静けさの中に、誰もが思っているが誰も言わないことが、いつのまにか入ってくる。

