エム・ケー・ジー(Mk.gee)ことMichael Gordonは、ギターを「ギターを弾く人」に習わなかった。
11歳でギターを始めたとき、レッスンを頼んだのはアップライト・ベースの奏者でした。
「ギター奏者に習うのは意味がないと思っていた。探求的な音楽のレッスンをしてくれる人の方が役立つ」と彼は語っています。
その出発点が、このアルバムの音の説明のほとんどを担っています。
2024年2月リリースのデビューアルバム『Two Star & the Dream Police』は、全曲を自宅で一人でプロデュースしました(「New Low」と「DNM」の2曲のみDijonが共同プロデューサー)。
ニュージャージー州リンウッドで育ち、USC音楽学部を中退してロサンゼルスへ。2017年からEPやミックステープを発表し続け、2021年にはDijonのアルバム『Absolutely』でギタリスト兼プロデューサーとして名が広まりました。
Mk.geeは本作を「初めての本当のアルバム」と位置づけています。
「ニュージャージー」というアイデンティティがこのアルバムに色を与えています。制作中、Mk.geeが唯一ちゃんと見たという映画は1994年のドキュメンタリー『Wildwood, NJ』——ニュージャージーの海辺の町に住む女性たちの夢と生活を記録した作品です。
「あそこの人たちの、深くて、ちょっと狂った誠実さが好きだ」と彼は語っています。ロサンゼルスの野心的な人々とは違う、その重力がアルバムに宿っています。
音楽的ルーツ
Mk.geeが公言している影響源は、The PoliceとPrinceです。1980年代の両者が使っていたコーラス・フランジ系のエフェクト——音を「広げる」方向に働くそのエフェクトを、Mk.geeは意図的に制御を外した状態で使い、音程が揺れるようにしている。
The Policeのアンディ・サマーズが持っていた「コード一発で空間を変える」感覚と、Princeの「ギターを声のように歌わせる」発想が、このアルバムの音の2つの柱です。
通常のコーラスエフェクトは音を「広げる」方向に働くが、Mk.geeのギターはその広がりが途中でぐらついて、音程がわずかに揺れる——そのぐらつきが「ドリーム・ポップでもなくオルタナでもない何か」という感触を作っています。
もう一つ重要なのが、アップライト・ベース奏者から最初にギターを習ったという出発点です。
ベーシスト的な発想でギターに向き合うため、コードではなくラインで考える。その結果、リードとリズムの境界が溶けた「どこにも収まらない」奏法が生まれました。
Mk.geeはSNLに出演した直後、Eric Claptonから「誰も他の人間がやらないことをギターでやっている」と言及され、Prince登場時と比較されました。
「音をよくしようとは思っていない」とMk.geeはDazedのインタビューで語っています。「4週間バスドラムを調整した感じがするものを作りたくない。精神が大きくなる方がいい」。
楽曲解説
「Alesis」はこのアルバムを象徴する1曲です。「I’m in another body / Who’s in somebody else」という歌詞が、Mk.geeのギターの「音程がぐらつく」という物理的な特性と共鳴する。
歌詞が語る「どこの体にも完全には収まっていない感覚」を、音の揺らぎが体で体験させる設計になっています。
「Candy」では、ギター・ソロが一瞬だけ爆発してすぐ引いていく。その節制が、逆にMk.geeの技術の深さを知らしめます。「やれるのに、やらない」——その選択の確かさが、33分という短さの中でずっと効いています。
アルバム全体を通じて、曲と曲の間の空気が均一です。霞んでいるのに、確かにそこにある。
夜の窓から見える街——その比喩が最もしっくりくる音の質感で、Mk.geeがドキュメンタリー『Wildwood, NJ』から得た「深くてちょっと狂った誠実さ」が、33分間揺れ続けています。
Clash、Dazed、New York Timesの3媒体が2024年のアルバム・オブ・ザ・イヤーに選び、Pitchforkは2020年代前半のベスト・アルバムの一つに選出しました。
でもそういう数字より、このアルバムを聴いた後に自分のギターが弾きたくなる——その感覚の方が本質的だと思います。
まとめ
「ギターを上手くしようとは思っていない」と言い、「精神が大きくなる方がいい」と言う。その言葉通りの33分が、Clash・Dazed・New York Timesの3媒体で2024年アルバム・オブ・ザ・イヤーに選ばれました。
Eric Claptonに言及され、Princeと比較され、SNLに出演した。それでもこのアルバムは「夜の窓から見える街のように霞んでいる」という質感を保ち続けています。ニュージャージーの「深くてちょっと狂った誠実さ」が、派手な成功の文脈に飲み込まれていない。
このアルバムを聴いた後に自分のギターが弾きたくなる——その感覚が、このデビュー作の本質だと思います。