ピクシーズ(Pixies)おすすめ名盤『Doolittle』レビュー|名曲「Debaser」収録!カート・コバーンが絶賛した伝説のバンドのアヴァンギャルドな音楽性を分析

ピクシーズ(Pixies)おすすめ名盤『Doolittle』レビュー|名曲「Debaser」収録!カート・コバーンが絶賛した伝説のバンドのアヴァンギャルドな音楽性を分析 Alternative Rock / Grunge

Pixiesの1989年作『Doolittle』。このアルバムがなければ、Nirvanaの『Nevermind』はなかったかもしれません。

Kurt Cobainは「Pixiesを初めて聴いたとき、そのバンドに強烈に共鳴して、自分がそのバンドにいるべきだと思った」と語っています。

Cobainだけじゃない。David Bowieは「Pixiesがアメリカでの自分たちの存在を認識されないまま、結成して、活動して、解散したという事実を、いまだに受け入れられない」と言いました。

つまりこのアルバム、リアルタイムでは本国アメリカでほとんど売れなかった。でも、ここから鳴り始めた「静と動」の衝撃は、90年代のロック全体を書き直しました。

制作背景

前作『Surfer Rosa』をプロデュースしたSteve Albiniとの関係は、録音中から険悪でした。Albiniはインディシーンの重鎮で、自分を「エンジニア」と呼び、「プロデュースすること=売り出すこと」という哲学を持っていた。

Black Francisはこう振り返っています。「Albiniはレーベルに押しつけられた人間だった。彼には独自のアウトサイダー的な美学があって、音を磨くことをメインストリームへの迎合と同じものとして嫌っていた」。

後にAlbiniは音楽誌でPixiesを「退屈なカレッジロック。4頭の牛が鼻輪で引き回されるのをこれほど喜んで受け入れるバンドを見たことがない」と酷評しています。バンドとの関係が修復不可能だったことを示していました。

次のアルバムのプロデューサー選びで、バンドが選んだのはGil Nortonでした。Echo & the BunnymenやThrowing Musesを手がけたリバプール出身のプロデューサー。Albiniの「生々しく、削ぎ落とした」美学とは真逆の、磨き込まれたサウンドを得意とする人物です。

Black FrancisはのちにRolling Stoneでこう表現しています。「彼は俺たちをコマーシャルにしようとしていた。俺たちは少しグランジなままでいようとした」。その衝突から生まれた緊張感が、このアルバムに宿っています。

録音は1988年10月31日、ボストンのDowntown Recordersでスタートしました。4ADが用意した予算は40,000ドル——前作の4倍だったが、大手レーベルの基準からすれば依然として少ない。

Nortonはレコーディング前の2週間、プリプロダクションとしてバンドのリハーサルに徹底的に付き合いました。Nortonが繰り返したのは「曲を伸ばせ」という指示です。

Pixiesの曲は当時、1分〜1分半の「断片」が多かった。Nortonは「そのコンパクトさを活かしながら、もう少しダイナミクスを作ろう」と説得し続けた。その交渉の産物が、あの「静→爆発→静」の構造です。

アルバムのタイトルは当初「Whore(娼婦)」でした。4ADのIvo Watts-Russellに却下され、最終的にBlack Francisの母が「Doolittle」を提案した——「大して何もしない」という意味も含む。あれだけの衝撃を持つアルバムが「大して何もしない」というタイトルを持つ皮肉が、Pixiesらしい。

音楽性

このアルバムの歌詞の多くは聖書から来ています。「Dead」はダビデとバテシバの話、「Gouge Away」はサムソンとデリラの話。Black Francisは12歳のとき両親とともにペンテコステ派の教会に入信しており、聖書の暴力と性のイメージが彼の根底に流れています。

「Monkey Gone to Heaven」は数秘術を使って悪魔を「6」、神を「7」と表現した曲で、このアルバムで初めてチェロとバイオリンが導入されました。

Nortonのプロダクションについては今でも論争が続いています。「Albiniの生々しさこそがPixiesの本質だ」派と「Nortonの磨き込みが大衆に届かせた」派に分かれる。評論家のAlexis Petridisはこう書いています。「Pixiesのメインストリームへの挑戦は、Francisの暴力への執着を薄めることではなかった。そのシュールな奇妙さは磨かれた音の中からも染み出てきた」。

このバンドの和声の核心は、Black Francis自身の言葉に尽きる。「曲には半音階的な動きと、理論上はそのキーに合わないコードがたくさんある——でも、なぜかうまくいく」。この「なぜかうまくいく」の正体が、Pixiesの和声の謎であり魅力だ。

通常のロックやポップの曲は、調性の中心に向かって解決する和声進行——つまりドミナント(V)からトニック(I)へ帰着するコード運動——を軸に組み立てられる。Pixiesはこれを意図的に破る。Francisのリズム・ギターが素朴な3コード進行を鳴らしている横で、Santiagoのリード・ギターが「そのキーの外側」にある音程を平然と弾く。調性の内側と外側が同時に鳴り続けることで、曲は常に解決しきらないまま前進します。

Santiagoはその美学をこう語っている。「コードはメジャーなのに、ソロはマイナー。それが奇妙な響きを生む」。

もう一つの武器が、Jimi Hendrixから拝借した「E7♯9」——通称「ヘンドリックス・コード」だ。メジャー3度とマイナー3度を同時に含むこのコードは、長調でも短調でもない宙吊りの感情を生み出す。Santiagoはこれを複数の曲のクライマックスで戦略的に投下し、「ここだけ調性の重力が消える」という瞬間を作り出しています。

さらに、Francisは拍子をひっそり操作することで、聴き手に「何かがずれた」という不安感を与える。「No. 13 Baby」のブレイクは4/4拍子が3小節続いた後、突然2拍だけになって戻る——1-2-3-4、1-2-3-4、1-2。これを意識して気づく聴き手はほとんどいないが、体で感じた「ずれ」が楽曲全体のスリルになる。批評家のBen Sisarioはこれを「スペースワープのようなダイナミック・スイッチと、ぐらつく拍子記号」と呼んでいます。

もう一つ見逃せないのが、Kim DealのベースとFrancisのボーカルの役割分担だ。Dealのベースは「のりしろ」に徹している——安定した8分音符で全体を支えながら、ハーモニー的な情報を一切持ち込まない。その「空白」があるからこそ、Santiagoの不協和なリードギターが空中に自由に漂える。ベースが主張しないことで、和声の「奇妙さ」がより際立つ構造です。

楽曲解説

Debaser

Luis Buñuelのシュルレアリスム映画『アンダルシアの犬』——眼球が剃刀で切られる冒頭シーンから着想を得たオープナー。

「デビュー作の1曲目で世界で一番好きな映画の話をする」というFrancisの姿勢が、このバンドの全てを説明しています。1997年にシングルとして後からリリースされ、それでもチャートで結果を出した。

和声的には、DealのベースラインがDマイナーの感触を打ち立てる中で、Santiagoのギターが即座にメジャーとマイナーの境界線上を歩き始める。コーダではSantiagoの「狂乱したギターのリフが全速力でクライマックスへ向かう」(批評家Rob Hughesの言葉)——調性が焼け切れる直前のような爆発です。

Here Comes Your Man

このアルバムで最も「普通のポップ」に近い曲。アリゾナの放棄された貨物列車と浮浪者たちへのFrancisの幼少期の記憶から書かれたとされています。

Kim Dealはこの曲が「明るすぎる」と感じてリリースに反対しましたが、後にModern Rock Tracksチャート3位を記録しました。

和声的には、このアルバムで最も「素直」な曲だ。メジャー・コードが並ぶ「風通しのいい進行」はほぼ直線的で、Santiagoも珍しく不協和な介入を控えている。だからこそ違和感がある——この「普通さ」は、前後の曲の暴力的な奇妙さの中では、それ自体が異物として機能している。Dealが反対したのも、この曲が「正しすぎる」からだったのかもしれない。

Monkey Gone to Heaven

チェロとバイオリンを初めて導入した曲で、アルバムのリードシングル。「ゴミで海が汚染され、神様のいた場所が壊れていく」というエコロジー的テーマを数秘術で表現しています。

このアルバムの中で最も外に開いた曲でありながら、最も知的な構造を持つ。

Dメジャーを基調としながら、弦楽カルテット(チェロとバイオリン)がコードの「外側」を埋める。Nortonは弦楽器の導入を「バンドのいつものパラメータを完全に外れる」と不安がったが、その不安こそが正解だった——Pixiesの和声の奇妙さが、弦のアンサンブルと共鳴することで、ポップとアバンギャルドの境界が一瞬だけ溶ける。

まとめ

リリース後、Black Francisは深夜にテキサスとメキシコの国境付近を運転中、ピニャータを積んだ黄色いキャデラックで国境警備員に停車させられました。そのとき初めて「このバンド、本物のメジャーになったのかもしれない」と感じたと言う。

このアルバムが全英8位に入った後、David Lovering(ドラマー)はKurt CobainとCourtney Loveとともにスーパーボウルの日にガラガラのシックス・フラッグスへ遊びに行きました。Cobainはパジャマのボトムで歩き回り、ほとんど何も話さなかった。そのとき子供に「PixiesのDave Loveringだ!」と気づかれたが、隣にいたCobainには誰も反応しなかった——まだNirvanaは無名で、Pixiesのほうが有名だった時代の話です。数年後に立場は完全に逆転する。

Kurt Cobainが崇拝し、David Bowieが嘆いて、Steve Albiniが「4頭の牛」と罵って、その全員が正しかった。Pixiesは売れなかったし、売れたし、ロックを変えた。『Doolittle』はその全部が詰まった38分です。

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